フユネコ




<にゃんこ学校の特別な日>


2月22日は猫の日です。
にゃんこ学校ではみんなでお泊り学習をすることになっていました。
時間を気にせず友達と遊び、おやつの時間にはお祝いのケーキを食べ、みんなで宿題をしたら、また遊ぶ。楽しい楽しいイベントの日なのです。

昼間ちょうど雪が降ったので、コロコロになるまでたくさん着込んでみんなで雪合戦をしました。
思いきりはしゃいで遊んだので、6時にはおねむの子が続出です。
ごはんの入ったお茶碗に顔をつけたまま寝てしまう子がいたほどでした。
「食べたら歯みがきをしましょうね」
顔にフードをつけて眠っていた子も先生に起こされました。
みんなそろってシュッシュッと歯みがきをします。
「きれいに磨けましたか? じゃあ、お布団のあるお部屋に移動しますよ」
「はーい」
寒い季節なので、お泊り用の部屋もほかほかにしてありました。
「みんなちゃんと自分のお布団で寝ましょうね」
先生の言葉を子猫たちは真剣な顔で聞いていたのですが。
「はーい」
どんなに良いお返事をしたところで、子猫は子猫。
大人の話など右の耳から左の耳にするっと抜けてしまうのです。
「ね、いっしょに寝ようよ」
「うん! そしたらあったかいよね?」
「ぼくもそっちに行っていい?」
「あー! ずるいー! 仲間にいれてよ」
大半の生徒がひとかたまりにくっついて寝始めました。
冬毛でふわふわになった子猫たちはどこが境い目なのか判りません。
いろんな毛色が混ざった変な形のクッションのようでしたが、ときどきピピピッと三角の耳が動いたりします。
「仕方ないなぁ……」
先生は笑いながらそう呟くと、ひとりひとりを自分の布団に戻すことを諦め、ふんわりと毛布をかけてあげました。
そして、子猫団子から少しはなれた場所にある自分の布団でこの光景を見守っていた子に声をかけました。
「片嶋君はいい子だね。みんなちっとも先生の言うこと聞いてくれないんだから」
「子猫ですから仕方ないです」
布団から顔を出してきりりとした面持ちで慰めてくれた子猫に、先生は「おやすみなさい」を言って、それからすぐ傍らに耳が見えている子に声をかけました。
「森宮君は寒くない?」
でも。
「……すぴー」
隣の子猫はもうすっかり眠っていました。
正確に言うなら、ごはんとおやつの時間以外はずっとこの状態だったのですが。
「森宮君は他の子より寝るのが好きなんだね」
先生はニコニコしながらふわふわの毛並みをひとなでした後、毛布をかけなおしてあげました。
それから、そっと明かりを小さくして部屋を立ち去ろうとしたのです。
でも。
「先生」
呼び止められて振り向くと、まんまるい瞳がじっと見上げていました。
「何かな、片嶋君」
にっこり笑って返事をすると、優等生のはずの子猫が思いがけない質問をしました。
「ワインはありませんか?」
身体が温まるんです、と真面目な顔で付け足す子猫に、先生はさらににっこり笑顔を作って答えました。
「お酒は二十歳になってからね」


子猫たちが眠っている部屋を後にすると、先生は隣の部屋に自分の布団を敷きました。
でも、この後もゆっくり休むことはできません。
朝まで交代で子猫番をしなければならないのです。
「じゃあ、僕は12時からですね」
「起きてる間にテストの採点をしないと」
そんな話をしている時、突然ドアが開きました。
「せんせー、こわくてトイレいけない」
「はいはい。じゃあ、一緒に行こうね」
こうやって夜中にトイレに行く子はたくさんいます。
もちろん行けなくておねしょをしてしまう子もいれば、急に飼い主さんが恋しくなって泣き出す子も、突然新しい飼い主探しに出かけようとする子もいて、先生たちは休むひまがありません。
そして、たまにはこんなことも。
「せんせー、かたしまくんがおふとんでお酒のんでるー」

にゃんこ学校には、本当にいろんな生徒がいるのです。

そんなわけで、2月22日は子猫たちにとってわくわくドキドキの楽しいイベント。
ですが、先生にとっては朝まで気を抜けないとっても大変な日なのでした。


にゃんこ学校で働き始める時、先生は一番初めに校長先生に言われるのです。
「子猫には無理に協調性など求めてはいけませんよ」
それでもはじめは『子猫だってしつけ次第ではちゃんと……』などという夢も描きました。
でも、今ではすっかりそんな考えもなくなりました。
「せんせー、ねれないから、おにごっこしよう」
「かくれんぼがいいよ」
「じゃあ、向こうの部屋で最初におにごっこ。そのあとでかくれんぼしようか。でも、一回ずつだよ?」
寝ている子を起こさないよう静かにね、なんて言葉ももちろん子猫の耳は素通りです。
「わーい! じゃあ、せんせーが鬼!」
先生を振り返りながらコロコロと散っていく子猫たち。
その後ろ姿を見て、先生は思わずにっこり笑ってしまいました。
なんと言っても子猫なんだから、元気に育ってくれたらそれでいい。
たとえ、こんな時でさえ読書をしている子や暖房の真下にある先生の机の上で寝始めた子がいたとしても。
「片嶋君、お酒をやめた後は読書? たまには目を休めた方がいいよ。森宮君、風邪引かないようにね。ほら、毛布かけて……あ、マモル君、ちゃんと前を見て走らないと……もう転んじゃったね」
気ままに、そしてとても幸せそうに自分の時間を過ごす子猫を見ているうちに、それはそれでいいと思うようになったのでした。
「せんせーはやくー」
「よーし、じゃあ、つかまえるよー!」

にゃんこ学校は今日も平和です。



                                     おしまい


Home     ■Novels     ■PDネコ部屋