<クリスマス翌日の樋渡家>
さすがにイブとクリスマスの日には「麻貴ちゃんと二人でクリスマスなんだから絶対に来るな」と言われたんだけど。
その翌日の日曜日に樋渡の家で一緒にお昼を食べた。
ふわふわの森宮は相変わらず日の当たるベッドで手足を投げ出して眠っていたんだけど。
食後のお茶を飲んでいる時に突然むっくりと起き上がった。
そして、一番最初にしたことは、枕元に飾ったままになっている大きな靴下を覗き込むことだった。
「森宮、昨日プレゼントもらったんだよね? まだ何か欲しいものがあるの?」
ソファの上にある新品のふわふわタオルと新しい猫ベットとたくさんのおもちゃとおやつを見ながらそう尋ねた時、
「……あたらしい飼いぬし」
また、言ってはいけない台詞を……。
「樋渡、森宮をどこかお泊り保育に出したほうがいいんじゃないの?」
そうすれば森宮だって実は自分が樋渡にものすごく大事にされてるのがわかると思うんだけど。
「いくらなんでも甘やかしすぎだと思うよ?」
そんな忠告をしてみたけど。
すでに放心してしまった樋渡に聞こえるはずもなく。
「森宮、このままだとおやつもご飯ももらえないかもしれないね」
俺は夕飯の時間には帰っちゃうからねって言ったら、森宮はすごく嫌そうな顔をした。
一応現在の状況はわかっているんだろう。
「ほら、今のうちに樋渡のところに行ってご機嫌とっておきなよ」
そう言ってムリやりベッドから降ろしたら、しぶしぶ『てちてち』という変な足音を立てて樋渡のところへ歩いていった。
こんな時くらい普通に甘えてくれるといいんだけど……と思いながら見守っていたけど。
森宮はやっぱりとても王子様な態度で、
「よぐると」
そう言っただけだった。
俺にはなんて言ったかわからなかったけど、樋渡はとても嬉しそうな顔で冷蔵庫に行くと、白っぽいパックを持って戻ってきた。
「……ああ、『ヨーグルト』ね」
この段階で既に樋渡に俺の声は聞こえていなかった。
ゆるゆるに溶けながら、森宮をひざに乗せて、スプーンですくって口元までもっていくという相変わらずの過保護ぶり。
でも、小さな手でスプーンを押さえながらヨーグルトを食べている森宮は案外いい感じで、樋渡の機嫌が直ったのも分かるような気がした。
「ふうん。そうやってると森宮も普通の猫みたいだね」
俺は褒めたつもりだったんだけど。
その途端に樋渡は森宮をひざに乗せたまま俺に背中を向けた。
「何やってるの?」
俺の素朴な疑問に、こんな答えが。
「可愛いから、進藤には見せない」
……はいはい。
樋渡の長所は立ち直りが早いところだ。
そんなことを思いつつ、
「麻貴ちゃん、ヨーグルトおいちいでちゅか〜?」
すでに思い切りデレデレしている背中を無言で眺めた。
まあ、なんというのか。
それなりに幸せなクリスマスの翌日だった。
……俺には関係ないけどね。
end
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