Tomorrow is Another Day
ものすごくオマケ





<ひなまつり>

明日はひなまつりっていう日の午後。
ぐれちゃんが悩んでいたので、代わりにこっそり相談してみた。
「あのね、闇医者」
「何、マモル君?」
「おひなさまをずっと飾っておくにはどうしたらいいのかなぁ?」
そのままにしておけばいいんじゃないの、とか言われたらどうしようって思ったけど。
闇医者はちゃんと俺の言いたいことをわかってくれた。
「ずっとは無理じゃないかな。しまわないと色が褪せちゃったりするかもしれないし」
その季節に飾るからいいんだよ、って教えてもらったけど。
それじゃあ、ぐれちゃんは悩んだままになってしまう。
「じゃあね、ちょっと長いだけでもいいんだけど」
なにかいい方法はないかなって。
小宮のオヤジにも聞いてみたけど、反対に聞き返されてしまった。
「なんだ、ヨシ君は雛人形も持ってるのかあ?」
そんなわけないじゃんって思ったけど。
一応、ちゃんと答えてあげた。
「ううん、中野んちに女の子はいないよ」
っていうか、中野んちには中野しかいないけど。
でも、俺が説明をする前にみんなで、「中野さんが雛人形? そりゃあ、ありえないよ」って大笑いしてた。
これじゃ、相談したことを忘れられてしまうって心配したけど。
「じゃあ、どこのお雛様のこと?」
闇医者はちゃんと覚えててくれて。
だから、やっと最初からちゃんと説明できた。
「ぐれちゃんちのおひなさまなんだ。来週も飾っておきたいんだけど、どうすればいいかなぁ?」
すごく大事なことなんだよ、って言っても闇医者は笑ったままちょっと首をかしげたけど。
「だったら、おうちの人にそうやってお願いすればいいんじゃないのかな?」
ぐれちゃんと二人で頼めばきっとそうしてもらえるよって言われて。
「うん、じゃあ、そうするー」
闇医者が言うんだからきっと大丈夫って思ったら嬉しくなった。
でも。
「グレ坊、そんなに雛人形が好きなのか?」
「まあ、男の子から見てもお雛様は綺麗だからねェ」
患者もどきたちにそんなことを聞かれて。
「……あー、うん。そうかも」
ちょっとウソだったんだけど。
でも、そういうことにしておいた。

本当の理由は、もっとすごく大事なことで。
一週間くらい前の「もうすぐひな祭りだね」って話の時に小宮のオヤジが言ってたことから始まった。
「えー、じゃあ、おひなさまをずっと飾っておくとお嫁に行くのが遅くなるの?」
そうだなあ、ってオヤジがうなずいて。
そしたら、ぐれちゃんはいいことを思いついたって顔で俺を見た。
「ずっと飾っておけばおねえちゃんもお嫁に行かないかもしれないよね?」
オヤジたちがいなくなってから、すごく真剣に俺に話してくれたけど。
「……それっていいことなのかなぁ?」
俺にはよくわからなかったけど。
でも、ぐれちゃんが「いいことだよ」って思いっきり言うから。
「じゃあ、ちょっと長く飾っておいてもらおう」って。
そんな話になったのだった。

そして、今日。
闇医者にいい方法を教えてもらったし。
「うまく行くといいね!」
こっそり二人で打ち合わせをして。
それから、おやつを食べにぐれちゃんちに行った。
最初におやつで、次に少しだけお花屋さんのお手伝いをして。
そのあとで二人一緒に「おひなさまをずっと飾っておいて欲しいな」って頼んでみた。
「そうだね、キレイだもんね」
お姉さんもおばさんもすぐにそう言って、一週間くらいなら長く飾っておいてくれるって約束してくれた。
「じゃあ、来週また見に来るね」
ぐれちゃんもにこにこして俺にバイバイをして。
だから、俺もよかったって思ったのに。


次に遊びに行ったとき、飾ってあった部屋はすっかり片付けられてしまっていた。
「……あれー? おひなさまいなくなってるかも」
まだ二日しか過ぎてないのに。
「どうして?」ってお姉さんに聞いてみたけど。
「うーん、なんか、ぐれちゃんが急に『もうひな祭りは終わりだから』って言い出して」
理由は分からないけど、どうしてもと言われて片付けてしまったらしい。
「ふうん。どうしてかなぁ……。あとでぐれちゃんに聞いてみようっと」
きっとすっごいヒミツがあるに違いない。
俺はそう思った。
だから、お花屋さんのお手伝いから戻ってきたぐれちゃんにこっそり聞いてみたんだけど。
「だって、およめに行けないとおねえちゃんは悲しいかもしれないから」
自分だけが嬉しいのはダメだよね、って。
そう言って、ちょっとしょんぼりした顔になった。
「ふうん。そっかぁ……」
だったら仕方ないね、って言って。
ぐれちゃんをなでなでしていたらおばさんがおやつを持って入ってきた。
「あら、やだ。お雛様なんて夏まで飾っておいてもいいくらいよ。どうせなかなか嫁になんて行けないんだから」
そう思って毎年少し余計におひなさまを飾ってるんだっておばさんは言ってた。
「どうして?」
「行き遅れた時の言い訳にちょうどいいでしょう?」
だから、気にすることなんてないのよって言われて。
ぐれちゃんもちょっと笑って「うん」ってうなずいた。



「……っていう感じだったんだー」
中野が迎えに来る時間になる前にぐれちゃんやおばさんたちにバイバイを言って、俺だけもう一回診療所に戻った。
それから患者もどきたちにおひなさまの話をした。
みんな「ぐれちゃん、いい子だからねえ」ってニコニコしてて。
それでその話は終わったんだけど。
「ねー、闇医者」
今度は俺がすごく心配になってしまったことがあって。
闇医者にこっそり聞いてみた。
「何、マモル君?」
「中野がおむこにいったら、俺、どうしようかなぁ」
もう中野のうちに行けなくなるよねって。
すごく真剣に聞いたのに。
耳を澄まして聞いていた患者もどきたちがみんな一緒にふき出した。
「なんで笑うのー?」
俺、おかしいことなんて一個も言ってないのになって思ったけど。
「中野さんは大丈夫だよ」
みんなして笑いながら「そんな心配は絶対に必要ない」って言うから。
「そっか。安心したかも」
そのときは本当によかったなって喜んだけど。
小宮のオヤジがずっとワハハって笑ってて。
しかも。
「ヨシ君じゃ、貰い手ないだろうからなあ」
そんなことを言うから。
「……中野だってカッコいいと思うんだけどなぁ」
俺はちょっとショックだった。

そんな感じで。
ぐれちゃんちのおひなさま問題は解決したけど。
俺だけはなんとなく複雑な気持ちになってしまったひなまつりだった。



                                 おしまい



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