『Tomorrow is Another Day』より、一瀬護

by TENさま




約束したのに。
あの日、屋上から空を見上げて。
もう、戻らないって約束したのに。

「……中野、あのね―――」

『帰っていい?』って。
聞いてしまいそうになった。
でも。
その言葉だけは泣きながら飲み込んだ。

屋上から白い花を眺めていた中野の横顔と。
闇医者の机に飾られていた写真の笑顔と。
いろんなことが一度に通り過ぎていったから。

「……ごめんね……」

言えたのは、それだけ。
耳から離した受話器から、かすかに中野の声が聞こえたけど。
ガチャンと重い音が響いて。
後は全てが静まり返った。

ごめんね、夜中に電話して。
元気だった?
楽しいことはあった?
クリスマスは何してた?
もう、あの鍵は誰かに渡した?

話したいことも、聞きたいことも、たくさんあったけど。
結局、何も言えなかった。
今は目の前に涙が見えるだけで。
駅も街も、涙と一緒にポロポロと落ちていった。

狭いガラスケースの中。
ぺったりと座り込んで。
思い切り泣いた。
もういいやって思えるまで、泣いてしまおうと思った。







〜『Tomorrow is Anoter Day』92話より〜

TENさん、本当にありがとうございましたv



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