義一にキスされて、腰砕けになった俺はヘタヘタとフローリング
に座り込んだ。クロがビックリしたのか心配になったのか、俺の周
りをウロチョロしてるのが印象的だった。
「あんまり慣れてない?」
そう言われて、俺は素直に頷いた。
女の子とのエッチの経験も、多分同じ歳のヤツと比べると極端に
少ない。だってしようがないじゃないか。俺は専門学校入ってから
そういうのに目覚めたんだからさ。
「恐い?」
「……恐くはないけどさ、でも、」
ちょっとでもいきなり男とどうこうっていうのは考えるよな?
戸惑っていたら、義一はオトコマエな顔を少しだけ崩して笑った。
「大丈夫だよ、ぼくは慣れているから」
む?
男としてソレはなんだか悔しいぞ。
と、いつもなら思うところだけど。
相手はでもなんたってモデルだ。この顔だ。こんなオトコマエに
自信たっぷりに言われると「はいそうですか」としか返せないよな。
「あ、でも、最近は全然遊んでないからね?」
「うー」
「トモのことが気になって、仕事中も携帯ばかり見てたんだよ」
「……女の子口説いてるみたいな口ぶり…」
「あはは」
笑い方まで綺麗なんだよなあ。
俺がポカンと口開けて見ていると、顔が近付いたかと思うとそこ
に舌が入り込んできた。
あ。
暖かい。
「気持ちいい?」
「…うん」
「このままいってもいい?」
「え?」
「最後まで」
う、う、う。
本当の俺ならきっと「男なんて嫌だー」とか「冗談だろ」なんて
言ってたと思うんだよ。
だけど。
俺、もうめちゃくちゃ一目惚れしてて。
そう。
ガツンってやられちゃってんの。
最初から。
見た瞬間に。
クラッ、ときちゃったんだよ。
この黒い髪とか、潤んだ瞳とか、薄めの唇に、白い肌、そして低
い声。
ううん。なによりも。
俺、解ってたんだよ、きっと。
心のどこかで気付いてたんだ、横に座ってる奴の動作に、ピンと
きてたんだよ。コイツじゃないのかって。だから、ズキンってきて
メールの内容思い出して、ドキドキして、俺、もう……
この男が義一なんだって。
あの義一なんだってさ。
解ってて、だから一目惚れ。そうだよ、そうなんだ。きっと。
俺が見返したら、義一はオトコマエな顔をもっとオトコマエにし
て笑った。
「好きだよ、トモ」
うぅぅぅぅ。他の男ならナンパヤローなのに。気障ったらしいと
思っちゃうのに。
ついクラッときてしまう。
義一がオトコマエだから?
だからかな。
「ずっと前から好きだったよ、トモのこと」
「義一、」
くそぅ、そういうフォローも上手いんだ。ちくしょう。完全に俺
の負けじゃん。
……でも嫌な気分じゃない。
義一がまた唇を寄せた。
でも途中で止めて、ふと、囁くように言った。
「ずっと前から好きだったけど、トモがこんなに可愛くなかったら
手は出さなかったかも」
はは。
なんか逆に嬉しいや。そう言われて。いや、可愛いなんて言われ
るのはかなり痛いけどさ。そうじゃなくて。
男だから、俺達。
見た目大事。好みって切実だよ。
いくらイイヤツっぽくても話があっても、やっぱり好みってある
もんな。
俺だってきっと、義一がこんなオトコマエじゃなかったら、こん
な会っていきなりキスとかしたりしない。
キス以上のことだってさ…できないよ……な…?
単純だけど、まあいいかもしれない。
それに。
義一とのセックスは、義一が大丈夫だと言った通り全然大丈夫で、
というか病みつきになりそうなほど良かったから。
義一が上手なのか、はたまた俺が義一に惚れちゃったりしてるか
らなのか、それとも義一が俺のこと好きだからか。
その全部が理由なのかもしれないけど。
俺達は単純に恋愛を始めたのだった。
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