<明日から夏休み!>
今日は一学期最後の登校日。
にゃんこ学校ひまわり組の教室では、先生が夏休みの注意事項を生徒たちに話していました。
「車には気をつけましょうね。夜は一人で出歩いてはいけませんよ。花火をする時は必ず飼い主さんと一緒に―――それから、『アイスを一緒に食べない?』なんて誘われても知らない人についていってはいけませんよ。……いいですね、ぐれ君、マモル君」
名指しで呼ばれて二人は「はーい」と大きな声で返事をしました。
本当のことを言うと、先生は二人のうちの一人だけが心配だったのですが、都心の繁華街近くに住んでいるという理由で灰色の子も一緒に念を押しておくことにしました。
でも、
「アイスは闇医者にもらうからいいよね?」
その言葉を聞いて先生は余計に心配になりました。
アイスじゃないもので誘われたら、ついていってしまうのではないだろうか。
いや、いくら天然な子でもそこまでは……――――
先生はしばらく悩みましたが、今回は「アイス以外もダメだからね」とは言わずにおいておきました。
夏休みが楽しみですっかりわくわくしてしまっている子供に言うのがどれほど無駄なことかを先生は良く分かっていたのです。
『後で診療所の香芝先生に電話しておく(マモル君:アイス以外にも釣られちゃダメ)』
ホームルーム用のノートにそうメモをして、他の子の確認に移りました。
「じゃあ、次は……片嶋君、大丈夫ですね?」
最前列にキリリと姿勢よく座っているちょっと大きめの子を見ながら声をかけました。
飼い主は普通の会社に勤めるただの独身サラリーマンですが、食生活が良いのか毛並みもつやつやで、いかにもいいところのお坊ちゃんという容姿です。
そして、他の子に比べると学校なんて来なくていいくらいに頭の良い子でした。
だから、
「ご心配は無用です」
こんな返事をするときでさえ子猫らしさがないのですが、返事と愛想だけが良い子よりは多少可愛げがなくてもしっかりした子の方が先生は安心していられました。
「それじゃあ、あとは……」
他に心配な子はいないかなと思いつつ名前を呼んだのはたまたまその時目に付いた子。
「森宮君も―――」
出席簿と見比べながらそう言いかけたのですが、途中で言葉を止めてしまいました。
考えてみたら、あの過保護な飼い主が「世界で一番可愛くて大切な俺の麻貴ちゃん」に危ないことをさせるはずはないのです。
正直なところ、「飼い猫思いで良い人なんだけど……(以下省略)」とどの先生も思っていました。でも、もちろん本人には内緒です。
そして、何より問題なのは飼い主ではなく、
「ええと……森宮君、先生の話、聞いてますか?」
そのふわふわの子猫が他のどの生徒よりもマイペースなことだったのです。
もとよりこんな注意事項なんて聞いているはずはありません。
「……森宮君、二学期になったら教室の真ん中の一番目立つ場所で寝るのはやめようね」
とても大人しくて手のかからない子ですが、こんなふうにちょっとだけ先生泣かせでした。
でも、それを保護者である飼い主にほんの少しでもほのめかしたなら、「俺の麻貴ちゃんに対してなんてことを」と言われるのは分かっているので、先生は今日も何事もなかったかのようにホームルームを終わらせたのでした。
教師という職業は、周りの人が思っているよりもずっと大変なものなのです。
そして。
「ばいばーい」
「またね」
ホームルームが終わると子猫たちはわらわらと学校を後にします。
片嶋君は定期券を取り出すと一人で颯爽と電車に乗り、マモちゃんとぐれちゃんはコロコロと遊びながら二人で診療所に、そして麻貴ちゃんは下僕……もとい、世界で一番優しい飼い主のお迎えで、
「んー、麻貴ちゃん、今日もいい子にしてましたか?」
お昼寝したままの状態で家に帰っていきました。
……「夏休みの宿題」につづく
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