<きもだめし編のおまけ> -----きもだめしの絵日記-----
その頃、姿勢の良い子猫宅では。
子猫が真剣な面持ちで日記に書く内容を飼い主に相談していました。
「でも、飲酒については伏せないといけませんね。一応、学生ですから」
「……そうだな」
そんな返事をしながら、毎晩一緒に飲んでいることを少しだけ反省する飼い主でしたが、子猫の方は全く気にせず真剣な顔で文面を考えていました。
「こんな感じでどうでしょう。『肝試し大会スポンサーである○○株式会社代表取締役と対談。新製品と今後の展開について20分ほど語り合う。栄養バランスと味。その両方を追求した製品を―――』」
日記というよりは会社の報告書ようだと思いましたが。
「……うん、それでいいんじゃないか」
それも子猫の個性なので、「頑張れよ」という気持ちをこめて頬を数回撫でるに留まりました。
「それよりも何ページ書く気なんだ?」
「あまり短いと考察まで書けませんので、全部で3ページくらいになると思います」
「……そうか」
辞書を引きながら日記を綴る猫の賢さを嬉しく思う反面、やはり少しだけにゃんこ学校の先生に申し訳なく思ってしまいました。
でも。
「絵は桐野さんと二人でいるところにしておこうと思います」
キリリとした顔でそう告げた後、別の紙を用意して、飼い主を格好良く描く練習を始めた子猫がやっぱり可愛くて仕方ないのでした。
さらに、ぐーたら子猫宅でも絵日記の真っ最中でした。
「森宮、それって……」
「どう見てもおやつBOXの中味だろ」
しかも、夕べのうちに食べてしまったおやつはもう袋だけになった状態で四角い枠の中に描かれていました。
「……とても写実的だね」
意外と絵は上手いんだな、と思ったかどうかは分かりませんが。
『飼い主の友人』という名の下僕その2は、その後すぐに別のものに目を奪われてしまいました。
「……その下にあるのって、もしかして―――」
本来文字を書くべき場所は重々しい灰色の四角い物体で埋め尽くされていたのです。
そう、それは紛れもなくあの墓石でした。
「そっか……まあ、いいけど。でも、日記なのに字は書かないんだ?」
ふわふわの子猫は、どこに何を書こうが、必要なことが何も書かれてなかろうが、まったく気にしない性格でした。
「……森宮らしくていいけどね」
ふうっと溜め息をついた男の横で。
「さすがは俺の麻貴ちゃん。絵も上手でちゅねー」
そう言いながら墓石のカタログを取り出した飼い主に一抹の不安が過ぎる夏の朝でした。
こんな感じで。
楽しい夏の夜の思い出をごく普通に『きもだめし』として絵日記に書けたのは、灰色の子猫一匹だけだったというお話でした。
The
end
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