冬休み -omake-




「麻貴、痛いのは腰?」
湿布を貼った個所を撫でながら樋渡が俺の顔を覗き込む。
「……と、背中と脚」
尻も痛いんだとは死んでも言えない。
言ったら、いきなりソコから見るに決まってるもんな。
「じゃあ、そのまま寝てろ。痛かったら言えよ?」
樋渡はマジメな顔で手足から順にやわらかく揉み解していった。
どうやら本当にマッサージをする気らしい。
しかも、マジで気持ちいいし。思いきり昼間も寝てたくせに、また眠ってしまいそうだった。
「麻貴、気持ちいい?」
「……うん。すっげー、いい」
パジャマの上から適度な刺激。これといって危険な感じもなかったから。
20分後には、もう寝てた。


けど。
にわかに部屋が暑く感じられて、目を開けた時、目の前にあったのは樋渡の体だった。
しかも、素っ裸。
なぜだ??
「麻貴、起きたのか?」
「……なんで、おまえ、服、着てないわけ……?」
ニッカリと見慣れた笑い。
「そりゃあ、いろいろ理由があるだろ?」
ねーよ。
ガバッと起き上がろうとしたが、すでに樋渡の体は俺の上。
しかも、マッサージのおかげで身体はもみほぐされ、力も抜けてグッタリしてしまっていた。
「無理するな。まだ無理に起き上がらない方がいいぜ?」
パジャマ越しに感じるはずの感触。
なのに、どう考えても……
「エアコン、高めに設定してるけど。寒かったら言えよ?」
腹に当たる樋渡のモノは妙に堅くて熱くて、存在を主張してた。
「ちょっと……待て、樋渡」
「心配しなくても挿れないって言ってるだろ?」
「おまえ、昼間何回ヤッたと思ってんだよ??」
「俺は3回。麻貴ちゃん、4回。でも、あれから結構時間も経ってるしな」
もう真夜中。確かに時間は経ってる。
けど、そういう問題でもあるまい。
「これ以上、ナンかされたら、俺、本当におまえのことキライになるぞ??」
「じゃ、今は俺のこと好きなんだな?」
また始まった。
どうしても言わせたいらしい。
……もちろん、言ってやらないけど。
「とにかく、ダメだって。絶対、ダメ」
マジで顔が引き攣った。
「大丈夫だって。信用ないんだな、俺」
樋渡は笑ってるけど。
「今日1日のおまえを思い返して、なおかつ信用できるほど俺は人間ができてねーんだよ」
「そうか? 人間の出来は置いとくとしても、惚れてる相手なら信用するだろ?」
絶対、しねーよ。
俺の目が思いっきりそう語っていたに違いない。
樋渡は苦笑した後、俺を抱きしめた。
「まあ、いいけどな。とにかく、今から一発とは俺も思ってないから。麻貴は寝てろって」
「じゃあ、なんで素っ裸なんだよ??」
「麻貴だけ脱がせると恥ずかしがると思ったからだけど?」
当たり前のようにそう言われた。
「ってか、なんで俺が脱がされてるんだよ??」
「まあ、今後のためにな」
全然、わからねーよ。
逃げるにも全く身体に力が入らない。
部屋は仄かな明かりが一つだけ。
柔らかなクリーム色の明かりに照らされながら樋渡の手が動く。
「……う、……っん、」
そっと塞がれた唇は、次第に強く吸われて、深く舌を差し入れられる。
「麻貴、ちゃんとキス、して」
切れ切れの言葉が、身体の奥に響く。
「やめ……樋渡……」
「文句を言うな。ちゃんとできるようになったら、寝かせてやるから」
樋渡は、笑ってなくて、怒ってもなくて。
ひどく真面目な顔でキスを続けた。
「こら、口、閉じるな」
顔を抑えられて、無理やりこじ開けられて、呼吸が奪われる。
「腕、俺の首に回して」
聞こえてたけど。
無視していたら、樋渡の指先が俺の胸を引っ掻いた。
しかも、突起の先。
「んんっっ……っ」
抗議の声は樋渡の唇に遮られる。
「腕、回して。」
もう一度、繰り返す。
「……や、めっ……」
「ダメだ。できるまでやるからな」
カリリッと爪の先が同じ場所を掠める。
一度目の刺激で堅く尖ったそこは、俺の身体全部にその感触を伝えてしまう。
「ん、あ、」
痛みとも言えず、快感とも言えない。けれど、爪が当たるたびに電気が走る。
「気持ちいい? それじゃ、お仕置きにならないもんな」
それでも樋渡は同じことを繰り返した。
俺が諦めて腕を回すまで。
「そう、いい子だ、麻貴。じゃあ、次は足」
そう言って、樋渡は自分の膝を俺の両足の間に割り入れようとした。
「麻貴、脚、開いて」
「……イヤだ……っ、しないって……」
どんなに抵抗しても、樋渡に力で勝てたことなんてない。
「しないよ。だから、脚、開いて」
樋渡は落ち着いた声で、宥めながらそう言って。
唇を塞いだまま、脚を絡めた。
それから、俺の片足を自分の腰に回して、後ろに手を回した。
いつの間にローションなんて塗ったのか、樋渡の指は濡れていた。
少し迷ったけれど、すぐに入り口を探し当てた。
「んっ、っ、や……っ」
樋渡の身体を押し戻そうとしても、びくともしなくて。
「バカ、しないって言ってるだろ? 少しは信用しろ。指1本だけだから。な?」
グズる俺をあやすように、頬や髪に唇を当てた。
「……なんで、こんなこと、すんだよ……」
樋渡は少し笑ったままで、またキスをした。
「セックスは二人でするんだから、一人で勝手に行くのはダメだってことだ」
「だったら、口で言えば済むことだろ??」
「麻貴は、言ってもわからないだろ? 俺の話なんて聞いてないし。聞いていても無視するしな」
それはそうなんだけど。
「だからな」
そこで区切って。
ニッカリ笑った。
「身体で覚えてもらおうと思って」
……っ!!
「結局、するんじゃねーか!?」
「しないって。真似事だけだから、力抜け」
抜けって言われても。
「……最初から、入ってねーよ」
「なら、いいよ。じっとして。俺に掴まってろ」
首に回した腕に力を入れた。
信用していないわけじゃないけど。
「……ふ、あ、っっ」
指が入った瞬間に声を上げてしまった。
「痛いか?」
それほど痛くはなかったけど。
「なら、どうした? 怖いか?」
「……違……う、けど」
触られるのもイヤだと思っていたはずなのに、身体が疼いた。
ゆっくりと中で指が動うごめく。
指1本だけのはずなのに、クチュクチュと絶えず音がしていた。
「あ、あ……っ、」
身体のダルさと、部屋の暑さと。
ときどき呼吸を奪う樋渡の唇のせいで、脳が麻痺していく。
濡れた音と、そこを出入りして中を掻く指の感触だけしか残らない。
「ん、……っく、ああっ、ん、ん」
やがてリズミカルに抜き差しされはじめた指は、たぶん、1本だけじゃないけれど。
「麻貴、気持ちいい?」
伏せた目にかすかに映る樋渡の口元は、少し微笑んでいた。
そのあと、至近距離で俺を見つめて返事を求めた。
「気持ちいいって、言ってごらん?」
指はますます激しく動いて、無意識のうちに腰が動いた。
「ほら、ちゃんと答えて」
全ての感覚が触れられた場所に集中していた。
聞こえていても返事ができなかった。
「麻貴」
樋渡は少しキツイ口調になって、突然手を止めた。
「んんっ……」
半開きになっていた俺の唇に樋渡の舌先が入り込む。
ひとしきり舌を絡め合った後、また同じ質問が繰り返された。
「麻貴、気持ちいい?」
俺の返事を待たずに、再び唇を塞いで。
まだ奥にあった指を少しだけ動かした。
「……ん、っく」
ぴくぴくと身体が跳ねて、反射的に樋渡を抱いていた腕に力が入った。
「とりあえず、それでもいいよ、麻貴。ちゃんと俺が分かるように返事してくれれば。……でも、次はちゃんと口で言えよ?」
笑った口元が、また呼吸を奪う。
何も考えられなくて、ただ舌を絡める。歯列をなぞり、口内を動き回るそれが甘く愛しく思えるほど、全てが麻痺していた。
「じゃあ、ご褒美な」
そう言って、笑いながら、指の動きを再開する。
「う、……あ、あぁ」
仰け反るのど元にやわらかく噛みつく。
それでさえ、身体の痺れに変わって、身悶えする。
「麻貴」
樋渡の唇は静かに移動して、赤い後を残して行く。
「気持ちいい?」
返事を待つ間に、樋渡の歯が喉に食い込んでいく。
「……麻貴、返事して」
容赦なく、深く。
「あ、あっ、」
痛みを感じる直前で、唇は喉を離れる。
「麻貴、返事、して」
それから、傷を舐めるように舌が這う。
「……気、持ち…いい……」
もう、どうにでもしてくれと、心のどこかが叫んでた。
「よく出来ました。……ご褒美は何がいい?」
後ろを犯していた指が増やされて、卑猥な音を立てる。
けれど、それはすぐに抜き取られた。
それから、俺の左手を首から外して、自分のモノを握らせた。
喉が渇きそうなほど暖かい部屋で、さらに熱を感じさせるそれが俺の手のひらを濡らしていた。
「しないって約束したから、麻貴が嫌ならしない」
樋渡は落ち着いた声のままでそう告げた。
けれど、その後で、
「でも、出来れば、麻貴に『いい』って言って欲しいよ」
耳元に唇を当てて、吐き出された言葉は熱を帯びて身体の中に流れ込んだ。
「麻貴、してもいいか?」
薄暗い部屋で、目を閉じたまま。
俺の舌先が樋渡の唇を探し当てた。
「麻貴」
返事を促すその言葉を遮って、無意識のうちに掠れた声が答えていた。
「……けど、俺、もうイケねーかも……」
樋渡はちょっとだけ笑ったけど。
「それは、この際、気にしなくていいから」
俺の髪を撫でて、額に唇を当てながら、また「愛してる」とつぶやいた。



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