パーフェクト・ダイヤモンド
ものすごくオマケ

ネコを拾いました。



<ネコを拾ってみた>


新宿でネコを拾った。
そのネコはいかにも「今、捨てられました」って様子で、ビルのシャッターの前に佇んでいたけど。
でも、「拾ってくれなくてもぜんぜん平気です」って顔をしてた。
ネコのくせに、その性格は可愛くないぞと思ったが。
涼しそうな目と品のいい顔立ち。毛並みもつややかで、シッポもピンとしていて、ネコにしておくのは惜しいくらいの器量だった。
美味い物を食って可愛がられて育ったんだろう。
全体から『いいとこのお坊ちゃん』オーラが出てた。
早速それに目をつけた男たちがニヤニヤ笑いながら近寄って、連れ去ろうとしてたから。
「帰るぞ」
なんとなく放って置けなくて、勢いのみで掻っ攫ってきてしまった。


家に帰って真っ先にネコに聞いた。
「俺は桐野。おまえ、名前は?」
条件反射で「ミケ」とか「たま」とかいう名前を思い描いていたが。
「片嶋です」
ネコはキッパリとそう答えた。
どうでもいいことだけど。
「……おまえ、ネコなんだからさ、嘘でもいいからもうちょっと可愛げのある名前を言えよ」
やっぱりネコは「ミケ」とか「たま」とか「トラ」とか「ぶち」とか。
百歩譲って「キティ」とか「ドラ○もん」とかならまだしも。
「片嶋」ってどういうことだよ。
「子猫の時からその呼び名なのか? なんか可愛くないよな」
俺の呟きを聞いたネコは困った顔をしてしばらく考え込んでいたけれど。
一度首を傾げたあとでまた口を開き、そして言った。
「……でも、片嶋なんです」
あまりにも真面目な顔で一生懸命にそう言うから。
「まあ、別にそれでもいいんだけどな」
俺はそこで負けてしまった。
何度考えてもイマイチ可愛くないとは思ったが。
ネコを困らせてまで別の名前で呼ぶこともない。

そんなこんなで。

ネコは本人の申告通り『片嶋』と呼ばれることになった。
「じゃあ、そういうことで。今日から俺んちで一緒に暮らそう。な?」
片嶋は何も言わずにちょこっとだけ頷いた。

そして、その日から俺と片嶋の二人暮しが始まった。




<2話> 『にゃあ』    

片嶋は俺が最初に思った以上に、全てがネコらしくなかった。
たとえば。
「なあ、ネコなんだから、たまには『にゃあ』とか言ってみろよ」
「……『にゃあ』」
俺が催促しなければ『にゃあ』も言わなかった。
それもかなり嫌々で投げやりな「にゃあ」だ。
しかも、ぜんぜん言い慣れていない。
「おまえ、ネコのくせに『にゃあ』がヘタ過ぎるよな」
おそらくは俺よりもヘタだ。
「いいんです。別に困ってませんから」
片嶋はそういうところが可愛くない。
そりゃあ、『にゃあ』が下手でも困りはしないだろう。
けどな。
「ネコなんだから『にゃあ』は可愛く言えて当たり前なんじゃないか?」
修行が足りないぞ、片嶋。
それに、ネコとしての自覚も足りない。
「可愛くなくていいです」
そんなことだから捨てられたんだろう…って危うく言いそうになったが。
さすがにそれはダメだよな。
俺に拾われた時の片嶋は、今にして思えば随分と淋しそうな顔をしてた。
「一人でもぜんぜん平気です」って顔もただの強がりで、本当は捨てられたことが相当ショックだったに違いない。
「な、片嶋、」
キリッと口を結んで、きりりっと俺を見上げている片嶋を抱き上げて膝に乗せた。
「もう一回、『にゃあ』って言ってみ?」
「……にゃあ」
何度言わせてもヘタな『にゃあ』だった。
だいたいネコのくせに、「にゃあ」をそんなに不本意な顔で言わなくてもいいと思うんだけど。
でも、何だかおかしくて、思わず笑ってしまう。
「なんで笑ってるんですか?」
ちょっとムクれる片嶋はなんとなく微笑ましくて。
「……大丈夫。おまえ、可愛いよ」
抱き締めたら、最初はジタバタしたけれど。
ツヤツヤの毛を何回も撫でてるうちに目を細めて、そのしなやかな体を俺に預けた。

片嶋は子猫じゃないから、小さくて可愛いというサイズではない。
でも、抱き締めるのにちょうどいい大きさだと思う。
「俺の腕にジャストサイズ」
思わず呟いたら。
「……桐野さん、」
「なんだ?」
「年のわりにオヤジくさいですよね」
これがなければもっと可愛いと思うんだけど。
「おまえ、モノにはもうちょっと言い方ってもんがあるだろ?」
「……気をつけたつもりなんですけど」
でも、まあ。
これはこれでよしとしておこう。
『にゃあ』しか言わないそこらへんのネコよりずっと面白いし。
何よりも、こうやって俺を見上げてる片嶋がやっぱり可愛いから。
「片嶋、」
「……なんですか?」
不意に出会って、一目惚れして。
こうやって一緒に暮らすことになったんだから。
「今までの飼い主のことなんかすっかり忘れるくらい大事にしてやるから」
だから。
捨てられたことなんて、さっさと忘れちまえよ。

片嶋はちょっとだけ困ったような顔で。
でも、コクンと一つ頷いた。

それを見て、俺と片嶋はきっとこんな風にずっと楽しくやって行かれるって。
そう思った。



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