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 臣の長い指。
 切りそろえた爪の形までキレイで、なんだか性格と合ってないって思うけど。
 「ヤだっ、痛いっっ」
 しかも、他人事だと思って臣は簡単に「指2本だけ」とか言うんだけど。
 それが信じられないくらい痛くて、それ以上にすごく恥ずかしくて。
 「もうやめるっ」
 何度も文句を言ったけど。
 そのたびに臣が「どうしても紀和としたい」って真面目な顔で言うから。
 「……じゃあ、あとちょっとだけガマンする」
 ついついそんな返事をしてしまい、ずるずると現状維持。
 「紀和、脚閉じないで」
 目の前にやけに楽しそうな臣。
 そして。
 「やだ……あ、ああっ、指動かすなっ」
 やたらと叫ぶ俺。
 「痛くならないおまじないだから」って臣が自分の指と俺の後ろ側に塗りまくった透明の液体は替えたばかりのシーツのあちこちにこぼれて点々と染みをつくっていたけど。
 「……臣の嘘つき。ぜんぜん効いてないじゃん」
 痛いよって涙目のまま非難したけど、臣はやっぱり笑って「ごめん、ごめん」って言っただけ。
 でも、その後いきなり俺の背中を抱き支えてベッドに仰向けにした。
 それだとモロに顔が見えるし、しかも脚まで思いっきり持ち上げられたから、俺はちょっと「うっ」って思ったのに。
 「う、ぁ……っっ!?」
 相変わらず俺の後ろには当然のように指が2本。
 でも、それだけじゃなくて。
 「そんなことするなっ、やだ、臣、離せっ!!」
 思わず上半身を起こそうとしたら臣の唇と舌先が見えた。
 そして、その瞬間、自分のものが臣の口の中にあることをリアルに実感してしまったのだった。
 内腿に当たる臣の髪がくすぐったくて。
 ついでにクチュクチュって音まで聞こえて。
 「……あっ、あ、……やっ……」
 イヤだって言ってるくせに、身体はときどきピクンと跳ねる。
 それがすごく恥ずかしくて、よけいに頭に血が上って。
 「臣、ダメっ、またイッちゃうよっ……んっ」
 身体が仰け反り、天井が滲んで見えた。
 「あ、やだ……臣ぃっ……っ」
 後ろに挿れられた指はさっきよりずっと激しく動いていて、本当ならもっと痛みを感じてもよさそうなのに、それさえ舌先の刺激に誤魔化されてしまっていた。
 「いい子だから、もうちょっと我慢して」
 言いながら、また後ろの圧迫感が増していく。
 「あ、臣……やっ、痛っ、うぁ、」
 もう半分パニック状態で。
 でも、臣はちっともやめてくれなくて。
 あっという間にガマンできなくなった。
 「やだっ、臣っ……あっ……!」
 もう2度目なのに。
 思いっきり口の中だったことに気付いた時には、もうすっかりペットボトルのお茶で流されてしまった後だった。
 その後は、やっぱり「大丈夫か」って聞かれて。
 「……死にそう」
 そう答えたら臣が「仕方ないな」って笑った。
 「じゃあ、今日はおしまい。身体拭いてあげるから」
 涙目のままの俺の頬にキスをしてから、臣は笑ってウェットティッシュを取り出した。
 臣はそれだって楽しそうにやってくれてたけど。
 でも、なんだか悪いな、って思ってしまった。
 どう考えてもそれ以上はムリっぽくて、どうにもならないのはわかってるんだけど。
 「臣……ごめん」
 「気にしなくていいのに」
 これで十分だよ、って。
 そんなことを言われたら、よけいに申し訳なくなった。
 「臣、あのさ……」
 「んー?」
 「……俺も、口で……してあげても……いいかなって……」
 全然やったことがないからヘタなのは分かってるし、きっとき気持ちよくなんかないと思うけど。
 小さな声でごにょごにょ言い訳したら、臣はちょっと困った顔になった。
 それから、やっぱり「無理しなくていいよ」って言った。
 「ムリなんてしてないよ。俺だってそれくらいなら……」
 「でも、かなり抵抗あるだろ?」
 そりゃあ、ないわけじゃないけど。
 でも。
 「いいよ。そんなの。だって―――」
 俺だって臣のことが好きなんだから、って。
 
 ……それはちょっと恥ずかしくて言えなかった。
 
 「なんでもいいから、やってる時、こっち見るなよっ」
 それだけ念を押して、臣の「はいはい」という返事を聞いた後、端に臣を座らせてからベッドを降りて床に膝をついた。
 でも。
 「紀和、それじゃ脚が痛くなるから」
 言い終わらないうちに適当に折られた毛布が俺の足元に敷かれて。
 「……うん」
 ふわっとした毛布の上は少し不安定だったけど。
 やっぱり臣はいつだって臣なんだよなって、こんな時にふと思って。
 そんななんでもないことにキュッと胸が鳴った。
 
 
 
 
 それから数分。
 「紀和、ムリしなくていいんだからな」
 俺だって最初から上手くできるとは思ってなかったけど。
 「……笑うなってば。一生懸命やってるのに」
 「うん、わかってる。嬉しいよ」
 そう言いながら臣はやっぱり笑ってた。
 顔を見る勇気はなかったから、そのまま頑張って続けてたけど。
 「紀和、歯は立てないの……って言いたいところだけど、そのいっぱいいっぱいの口がエロくて可愛いから許す」
 そんな顔、見られたくないって思ったから、その後はムキになって下を向いた。
 なのに、その間も臣の手は俺の髪を梳いたり、頬を撫でたり、開いている唇を指で辿ったり。
 俺はずっといじられ放題だったんだけど。
 「んんんぅー」(訳:やめろよ)
 「紀和、無理にしゃべらなくていいんだぞ」
 やってあげてる俺の方がちょっと変な気分になってしまってるのに。
 なんで臣はぜんぜん平気なんだろうって、それがちょっと不満で。
 口に入れたままだったけど、ちらっと上目に臣を見たら。
 「あーあ……紀和でもそういう色っぽい顔してくれちゃうんだな」
 可愛いよ、って言われて。
 それと一緒に口の中でピクンと動いたような気がした。
 「紀和、もういいよ」
 それ以上されると口に出してしまうから、って頬を撫でられたけど。
 でも、臣も最後までしてくれたからって思ってそのまま離さないでいたら。
 「こら、紀和、ダメだって―――……っ」
 臣が一瞬息を詰めるのがわかった。
 それから。
 「……あーあ、だからダメだって言ったのに」
 口の中にじわっと温かいものが広がった。
 「飲み込むなよ。決して美味いもんじゃないからな」
 そう言われた瞬間にその味を認識してしまって。
 「うぐ……っ」
 思わず口を押さえたら、臣が笑いながら何枚も重ねたティッシュを口に当てた。
 最初からこういうものだってわかってたら、もう少し何とかなったと思うのに。
 「げほっ、ぐ、ごほ」
 すでに思いっきりむせてしまってたから、ごめん、と思いつつも吐き出してしまった。
 「はい、お茶飲んで」
 ペットボトルを渡されて、飲み終わったら口を拭かれて。
 なんだか一瞬すごく小さな子の気分になったけど。
 でも、臣が楽しそうだから、まあいいやって思った。
 「お疲れさま、紀和」
 ご褒美と言われて、キスをされて。
 「……なんだよ、子供扱いばっか」
 でも、慣れないことだらけでもう本当にぐったりしてたのは事実だったから、シャワーも浴びずに素っ裸のままベッドに上がって毛布を引き摺り上げた。
 その時もやっぱり臣はすぐにそれを広げて掛けてくれて。
 しかも、俺の隣にもぐりこんできた時には自分はもうちゃんとパジャマのズボンをはいていた。
 「まあ、先は長いんだし、毎週ちょっとずつ慣らしていけばいいよな」
 俺の髪を何度も撫でながら。
 ついでに「少しずつの方がエッチっぽくていいよな」ってにんまり笑ったりして。
 そういう臣はやっぱりちょっと、なんていうか。
 「臣ってさ」
 「んー?」
 「ヘンタイだよな」
 ストレートに言ってみたけど。
 「そうか? みんな口に出さないだけで本心はこんなもんだろ」
 臣はすごく当たり前みたいにそう言った。
 「……そうかなあ」
 しかも、いまいち納得していない俺の返事なんてぜんぜん聞いてなくて。
 「そのうちに『紀和も最初はすっごい照れちゃって可愛かったよな〜』なんて話す日も来るのかもな。あ、でも、その頃の紀和が自分から上に乗るようになってたりしたらどうしようかなぁ。もちろん俺はそれも嬉しいけど、個人的には照れ隠しで嫌がるフリとかされるのがイイんだよな。だって、その方がエロいだろ?
      それにさ」
 とにかく―――
 「そんなの、真面目な顔で語らなくていいよ」
 臣が世間一般よりずっと変だってことだけは確かだと思った。
 
 
 臣の好きな反応ってヤツを散々聞かされながら、布団をかぶってゴロゴロして。
 「ふぁ……」
 あくびが止まらなくなったから、そのまま寝てしまおうかとも思ったんだけど。
 何も着てない状態はやっぱりちょっと落ち着かなくて、パジャマに手を伸ばしたら、臣に抱きしめられた。
 「紀和、キスしようか?」
 「……さっきしたよ」
 「もっとたくさん」
 「……別にいいけど」
 その言葉どおり、臣は本当に何度も何度もキスをした。
 それから。
 「いつまでこうしていられるんだろうな」
 俺の髪を撫でながら、不意にそんなことを言って。
 しかも、ちょっと寂しそうに笑ったりするから。
 本当は、「そんなのわかんないよ」って答えるつもりだったのに。
 「……臣が……俺のこと嫌いになるまで」
 自分で言いながら、なんかちょっと恥ずかしいよなって思ったけど。
 でも、臣はにっこり笑って「ありがとう」って言った。
 「別にお礼言われるようなことじゃ―――」
 言いながら、臣を見上げてみたけど。
 その先はやわらかなキスに止められてしまった。
 「紀和、少し眠ったらいいよ」
 俺の鼻の先にちゅっとキスをして。
 髪を撫でて。
 またキスをして。
 「臣も寝る?」
 「紀和が隣で寝ていいって言ったらね」
 「……もう寝てるじゃん」
 他愛もない会話。
 やたらと俺を構う臣の手。
 こうやって今は俺のことしか見てないみたいな顔をしてるけど。
 目が覚めたら、きっとまたニヤけた表情で理想の子猫を語るんだろう。
 そんなの今更どうにかなるわけじゃないってわかってるのに。
 「……あのさ、臣……理想の子猫10人と俺だったら、どっちがいい?」
 こんな質問をしてしまう自分は本当にバカだと思う。
 でも、臣はいつもよりずっと優しい顔で笑ってから、
 「俺の理想の子猫は一人しかいないんだけどな」
 そう言って、またキスをした。
 嬉しいはずなのに、なんだか急に照れくさくなってしまって。
 「……じゃあ、いい。もう寝る」
 その話はそこで強制終了させてしまう、ちょっと自分勝手な俺だった。
 「なんだよ、紀和。まだ最後まで言ってないだろ?」
 「もう、いいってば。おやすみ」
 布団を頭の上まで引き上げようとしたら、臣がニコニコしながらその手を止めた。
 「紀和、もっとこっち来て。寝るまで腕枕するから」
 ここで言う通りになんてしたら、それこそ猫の子でも構うみたいに撫でまくられてスリスリされて、結局寝られなくなるのは間違いないんだけど。
 「……その前にパジャマ着るから待ってよ」
 やっぱり俺はちょっとだけ臣に甘い。
 
 まあ、それはお互い様かもしれないけど。
 
 
 その後、「いいよ」って言ったはずの臣は突然むっくり起き上がって、床に放り出されていた俺用のパジャマを摘み上げた。
 それから俺を抱き起こすと、まるっきり子供にするみたいに片袖ずつ通して丁寧にボタンをとめた。
 しかもその後、ズボンまではかせようとして。
 「臣、それはちょっとやだ」
 パンツもはいてない状態だから、下はしっかり布団でガードしてたのに。
 いくらなんでもそれはやめろと訴えている途中で。
 「パジャマ着せてやるのって、なんかすごくいいな」
 腰周りをしっかり手で押さえている俺を見ながら、臣は勝手にちょっとヤバい感じになっていた。
 「臣、やっぱり変だよ」
 そんなことはずっと前から分かっているんだけど。
 「なんでもいいから。ほら、紀和。布団から脚出して」
 「やだって言ってるだろ」
 「大丈夫。パジャマ着せる以上のことはしないし」
 そんなの当たり前だって言う前に臣の手が布団を掴んだ。
 「あっ、布団めくるなっ」
 「紀和ってホントに可愛いよな。あえて『何が』の部分は言わないけど」
 「うるさいっ。もう絶対臣の前で服脱がないからな」
 「そんなこと言うなよ。ほら、機嫌直して。脚貸して」
 「やだっ、臣なんてキライだっ」
 
 俺の予想では――途中までとはいえ、あんなことをした後はすっかり大人扱いされるはずだったんだけど。
 
 「紀和の足、捕まえた」
 「自分ではくから、よけいなことするなっ!」
 「そんなに遠慮しなくていいから」
 「遠慮なんかしてないっ」
 「ホント、紀和は可愛いよな〜……あ、今度本格的に『子猫ちゃんごっこ』してみようか?」
 「……なんだよ、それ」
 なんとなく。
 「なんか、すっごい変なことさせようとしてるんじゃ……」
 「大丈夫、大丈夫。紀和は何にもしなくていいから」
 「やだ。絶対、やだっ」
 臣の『子猫ちゃん病』は、前よりもずっとエスカレートしているような―――
 
 そんな気がした週末の午後は、カーテンを閉めてもぽかぽかするほど、穏やかで暖かだった。
 
 
 end
 
 
 
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