理想の子猫
<その後>

-4-



「こんな急に」って臣には言ったけど、本当は全然そんなこともなくて。
ちゃんと付き合うようになってからは、そのうちにこんなこともあるんだろうなとは思っていたし、臣があまりにもペタペタじゃれついてきた日はちょっと人には言えない夢を見ることもあった。
でも、いざとなるとやっぱり少し怯んでしまう。
「怖い?」
「……そんなことないけど」
「嫌?」
「……そんなことも……ないけど」
何度も何度も確認されて。
バクバクしながらもやっと「仕方ないな」って感じの返事をしたら、臣はニッコリ笑って俺のシャツに手をかけた。

脱がされてる間、俺は臣の腕の中でずっと大人しくしてた。
緊張のせいで身体も硬直気味だったし、何よりもどうすればいいのか分からなかったから。
「紀和の心臓、ドキドキしてる」
笑いながら、可愛いよ、って言われて。
「だって、こんなこと―――」
言い返したら、臣はまぶたと額にキスをした。
唇はそのまま耳を通って首筋を辿って、ゆっくりと胸元に降りていって。
ボタンが一つ外れるたびにその感触が後を追っていくのがくすぐったくて、少し体を捩ったらまた笑われて。
「紀和、顔赤いよ」
「……仕方ないだろ」
そう言われたらなんだか余計に恥ずかしくて、もっと顔が熱くなるのを感じた。

もうすぐ胸元はすっかりはだけてしまう。
そのあとはどうなるんだろう、とか。
臣、意外と慣れてるんだな、とか。
ついでに、どこでこんなこと覚えたんだろう、とか。
過熱気味の頭でそんなことを考えていたら、温かい手がスルリとシャツの中に滑り込んで、すぐに指先が一点に触れた。
「変なとこさわるなよっ」
思わずビクッと反応してしまったことがなんだかとても恥ずかしくて、慌てて怒ったりしてみたけど。
「そう言われてもな」
臣は平然と笑いながら、またキスをしてきた。
「んっ……」
こっちの意識が唇に集中していても、手はやっぱりシャツの中で動く。
爪の先でゆるく引っかかれて、またビクッと身体が跳ねた。
「あのな、紀和」
「……な……に?」
うろたえながら見上げたら、臣はちょっと苦笑いしてて。
「意外とアレなんだな」
「……意味わかんないよ」
アレってなんだよ、って聞き返したけど、それには答えてくれなくて。
その代わりに。
「これくらいで『触るな』とか言われてもな。これからもっと変なところを触るつもりなんだけど」
じゃなかったらできないよ、って言われて。
「……そ……うかもしんないけど」
何だか少しずつ「やっぱりやめようよ」って気分になってきた。
でも、臣はぜんぜんやる気満々で。
「まあ、紀和は何も心配しなくていいから、ここで大人しくしてて」
無理なことはしないから、なんて言葉を口にしながらも、唇はまた胸元を滑っていく。
そして、さっきまで指が置かれていた場所に辿り着くと舌先でそこに触れた。
「……臣」
クチュ、と聞こえてくる音にも恥ずかしさ倍増だったんだけど。
それより。
「何?」
「……なんか……ちょっと、やだ」
「どうして?」
「だって―――臣だけ服着てるし……それに」
くすぐったいって言うのとも痛いって言うのとも少し違う変な感じが、肌の表面じゃなくて身体の奥のほうでグズグズしてて。
「ああ、別に今脱いでもいいよ。紀和がその方がいいって言うなら」
「別に、そういう意味じゃ―――」
否定なんて聞いてる様子もなく、臣はパッパッと上だけ脱いで、ついでにパンツも脱ごうとしてたけど。
「下は……まだいいよ」
「そうか?」
恥ずかしいって感覚は全くなさそうで、俺はもっと心配になった。
「ということで、紀和もそんなに緊張しなくていいよ」
自分だってそう思ってるけど。
「だって……」
慣れてないんだから仕方ないだろって言う前に臣が俺の顔を覗きこんで笑った。
「もしかして、誰かに触られたこと一度もない?」
よりによってそんな質問。
聞くまでもないじゃん、って言いたかったけど。
「……あるわけないだろ。彼女だっていたことないのに」
まだ高校生だし、とか付け足してみたけど、相手が女の子なら経験あるってヤツはたくさんいるんだろう。
ちょっとカッコ悪いって思って。
なのに。
「そっか」
なぜか臣はものすっごく嬉しそうに笑ってた。
こういう時にこんな反応をするところが、やっぱりヘンタイなんだよなって思ったけど、それを本人に突っ込む余裕は残ってなかった。
その間にも臣の準備は着々と進んでいて。
「こら、紀和。そんなにくっつかれたらパンツが脱がせられないだろ」
「いいよ、自分でやるし……臣だって自分の服……」
どんなに抵抗しても、文句を言っても、俺のパンツのファスナーを下しているのは臣の指。
臣とは相当大きくなるまで一緒に風呂に入ったりもしてたけど、こういう関係になってから服を脱ぐのは、やっぱり何かが違うわけで。
「そりゃあそうだけど。だからって、そんなに急に意識してくれなくてもいいんだけどな」
「……うん」
やっぱりこれ以上はムリって思ったのに。
臣はなんの遠慮もなく俺の服を全部脱がせて、いきなり両方の足首を掴んで左右に広げた。
「臣っ、やだっ、こんな―――」
しかも、やけにじっと見られてて、恥ずかしくて仕方ないっていうのに。
「紀和が照れくさそうだから、パッパッとやってるつもりなんだけどな。それとももっとエッチっぽくムード出して欲しい?」
どっちにしてもこうしないとできないんだから、って言われて。
「……そうだけど」
いちいち口答えする気力もなくなってきた。
しかも。
「でも、そうやって恥ずかしがる方がエロくて可愛いけどな」
ついでに、「どんと来い状態はヤりやすいけど燃えない」とか言われて、もうどうしたらいいのか分からなくなった。
「臣のヘンタイ。普通そんなこと言わないだろ……っていうか、話してる間は脚下ろせよ」
なんでそうやって一度にいろんなことをするんだよ、って意味の分からない文句を言っても。
「話してる間に慣らしておこうかと思ってるんだから、恥ずかしかったら目をつむってていいよ。そうやって、目の前でやたらと頬なんか染められたりしたら、辛うじて堪えている俺の下半身にダイレクトな影響が―――うわっ」
掴まれてる足で臣の肩を蹴ってみたけど、それでもすぐににっこり笑い直した。
「じゃあ、続きをしような」
でも、本当にこんなこと初めてだったから、ちょっと触られただけでもいちいち反応してしまって。
しかも、臣の指が後ろの方に滑り込んで。
「わっ、バカ臣っ、変なところ触るなっ!!」
思い切り叫んだら「え?」って顔をされた。しかも。
「ここに挿れるんだけど。……紀和、もしかしてやり方全く分かってないのか?」
今度は俺が「えっ」って言ってしまった。
さすがに臣も「うーん」って唸ってたけど、それは別に悩んでいたわけでもひるんでいたわけでもなかった。
「だとすると、心の準備からってことか。紀和、ホントに可愛いよなぁ」
そっかぁ、なんて言いながらまたにっこり笑う臣はありえないほど楽しそうだった。


その後、臣は何を思ったかいきなりカーテンをしっかり閉めて、俺をベッドに移動させた。
「紀和はこの方がいいだろ?」
「……うん」
その後の「俺としても薄暗い方がやらしくていい感じだし」って言葉はあえて聞き流した。
目が慣れるまでは臣の顔もあんまり見えないくらいで、正直な所それにはちょっとホッとしていた。
でも。
「じゃ、紀和」
準備するからなって言われた瞬間にまた体が硬直する。
なのに、俺の困ってる顔が見えないせいか今度は臣も途中でやめてくれなくて。
ベッドに座ると俺を向かい合わせに膝に乗せた。
「ちゃんと掴まってて」
そう言って俺の両腕を自分の首のところに回した後。
「あ、ちょ……待って、臣……っ」
いきなり前と後ろを両方触られて、体中の血液が全部頭まで上った。
「大丈夫。紀和、もう濡れてるし」
言ってる間も臣の手が休むことはないまま。
どれくらいの時間が経ったのかぜんぜんわからなかったけど。
「気持ちよかったら、すぐ達っていいからな」
そんなことを言われた時にはもうかなり切羽詰った状態になってた。
「やだっ、臣、離せっ……降りるっ……っていうか……あっ、ぅ」
でも、触れている手は激しくなるばっかりで。
自分ではすごくガマンしてたつもりだったのに、自覚していたよりもずっといっぱいいっぱいだった。
「あ、んん……あ、っ……っっ!!」
ギュッと臣の背中に抱きついた時、身体がピクッと跳ねたのと同時に白い液が飛び散った。
自分でやったって同じはずなのに。
でも、やっぱりぜんぜん違った。
自分と臣の身体、それから触れていた手をぐちゃぐちゃに濡らして吐き出した後、そのままぐったりともたれかかってしまった。
「紀和、大丈夫か?」
ぺロッと頬を舐められて、涙が出ていたことにはじめて気がついた。
「……わかんない」
その時、臣の声はいつもよりずっと優しかったけど。
「でもなぁ、これから本番なのに」
耳元でそう呟かれて。
「……それは……ダメな気がする」
正直にそう言ってから、「やめてもいい?」って聞いてみたけど。
「んー、無理はしなくていいけど……でも、とりあえずもうちょっとだけ。な?」
臣はやっぱり諦めてくれそうになかった。



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