理想の子猫
<White Day>

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帰宅した「ご主人様」がシャワーの後で真っ先にすることは、エアコンの温度を少し上げて「子猫」の衣服を脱がせることだ。
「今日はこのリボンにしようか」
そして、体を包んでいたものが全部なくなった後、子猫と呼ばれる少年の首にその日の気分に合ったリボンを結ぶ。
「体はちゃんと洗えたね?」
「……はい」
「見せてごらん。ここに座って、脚を広げて」
主人に言われるままにM字に脚を開く。
子猫はまだこんな命令には慣れていない。
その行為に対する羞恥心から頬が赤く染まり、中心は恥じらいながらも半ば立ち上がり始めていた。
「いい子だ。綺麗に洗えたね。でも、この様子だとココはまたすぐにベトベトになりそうだ。ああ、そうそう。昨日ソファを汚したお仕置きもあとでたっぷりしてあげないといけないね」
その言葉に子猫はさらに顔を赤らめて俯いた。
「じゃあ、今度は後ろ向きだよ。お尻をこっちに向けて四つん這いになってごらん」
「……はい、ご主人さま」
初めて主人を受け入れてからまだ間もない。
色も薄く、見られてヒクヒクと動くそこにはまだ恥じらいが見えた。
「挿れて欲しいの? もうおねだりをするなんて悪い子だ」
そんな言葉とは裏腹に主人の目は穏やかに微笑む。
「言うことをちゃんと聞いたら、中でたくさん出してあげるよ。でも、その前にこっちを向いて口を開けて」
足元に跪き、恥ずかしそうに俯く少年を見て、主人は穏やかに、けれど、どこか意地悪い笑みを浮かべる。
「どうしたの? それとも直接お腹にいれて欲しいのかな?」
潤んだ瞳で主人を見上げたまま少年は首を振った。
色付いた唇を開き、主人のものをその口に含む。
少し苦しげに長い睫毛を伏せながら、たっぷりと時間をかけて主人に教え込まれた通り、熱を持ったそれに舌を絡ませた。
「そう、上手になったね」
優しく髪を撫でられると少年は嬉しそうに頬を染めた。
けれど、すぐに訪れた主人の限界と共にそんな甘い時間も終わる。
「うぐ……ん、っ、ぅん」
ドピュドピュと口に注ぎ込まれた液体のドロリとした感触。
小さな口はすぐにはそれを飲み下すことができずに濡れて色付いた唇の端から白濁したそれを垂れ流した。
「残さず全部飲み込む約束だよ。守れない子はお仕置きだからね」
「う……や、ごめんなさい」
「『嫌』は言わないのも約束でしょう?」
いつもより少し厳しい口調に少年の表情が強張った。
「ごめんなさい、ご主人さま、僕―――」
「さあ、ここに四つん這いになって、お尻をこっちに向けて高く上げるんだ」
「あ……いや、あ、ああっ」
言葉とは裏腹にその声には艶めいた吐息が混じる。
差し込まれたそれがズルリと奥に突き入れられると、少年の先端から透明な液が滴り落ちた。
「悪い子だ。またシーツを汚したね」
少年の耳元で笑いを含んだ声が囁く。
耳朶をくすぐるわずかな空気の揺れにさえ少年の身体はピクンと反応した。
「いやらしい子だね。耳までこんなに感じるなんて」
大きな手がぬるりとした液体で濡れた少年の中心を弄ぶ。
「あ、ああ、んっ」
快感に抗えず、先端からこぼれた蜜。
それを指に絡め、硬く立ち上がったそれを扱きながら、少年の身体を犯していたものを奥深くまで激しく突き入れた。
「いや、あ、イク、イっちゃうっ……いやあああっ!!」



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「……っていうのがイイんだけど」
もうすぐホワイトデーという土曜日。
「なんだよ、それ」
俺と臣は朝っぱらからこんな会話をしていた。
しかも。
「興味があるなら友達から似たような内容のDVDを借りてくるけど」
などと言い出す始末。
「そんなの持ってるのって、犯罪じゃないのかよ?」
少なくとも臣の言う子猫ちゃんは小さな男の子なんだから。
それは絶対にヤバイ。
「そりゃあ、売ってるのは『登場人物は全員大人』ってうそ臭い言い訳のついたショタアニメだけどな。そのへんは適当に脳内で補正しながら見るんだよ」
どうせ俺のオカズである脳内子猫ちゃんは紀和なんだからってにっこり笑われて。
「そんなもんオカズにすんなっ!」
真っ赤になりながら臣の頭をペシッと引っ叩いた。


のどかな週末の、爽やかな午前中。
どうしてこんな話になったんだろう、と思い返しつつ溜め息をついた。
記憶の行き止まりはごく普通の世間話。
「ホワイトデーのお返しは何?」なんていうありきたりの質問と一緒に臣の蕩けた顔が向けられたことだった。
けど。
今にして思えば、それがすべての始まり。
その時はまだこんなことになるとは思ってなくて、カレンダーを見ながら「あー、今週かぁ」なんて軽い返事をした。
家族を含め、いくつかもらった義理チョコへのお返しも食べ物でいいやと思っていたから、臣からもらった分も深く考えてなかったんだけど。
多少は本人の希望も反映させようかなんて思ったのが間違いだった。
「臣は何がいい?」
高いものはダメだからなって最初に念を押した。
臣は真顔で「もちろん高価なものなんてねだらないよ」って頷いて。

……さっきの子猫ちゃんごっこの話を始めたのだった。

話し終えた臣は、すっかり「子猫ちゃんの世界へようこそ〜!」な状態で。
「それって、俺のリクエストを聞いてくれるってことだよな?」
思いきり期待に満ちた視線がまとわりつく。
「何言ってんだよ。あんなのやるわけないだろ?」
慌てて否定してみたけれど、もう全面的にその気だった。
「全部そのとおりにして欲しいなんて言わないよ。だから、な?」
けど、なんと言われてもそれはダメだ。
「絶対ヤダ。ヤダって言ったらヤダ」
断固として言い放ったら、臣はやっと「仕方ないな」って顔をしたけど。
「バレンタインのお返しだから、いつもより頑張ってくれるのかと期待しちゃったよ」
その言葉に、ぐっと息が詰まった。

そうなのだ。
元はといえばバレンタイン。
あんなに高いものをもらっていなかったら、臣の希望を聞こうなんて思わなかったはずなのに。

あの日、『紀和が欲しいもの、何でもあげるよ』なんて甘い言葉に乗せられて、俺がねだったのはノートパソコン。
『いいけど。それって家の人に見つかっても大丈夫なのか?』
『臣の部屋に置いておけばいいよ』
それなら親には見つからないし、どうせ週末はずっと臣の部屋にいるんだから思う存分ネットもできる。
だから何の問題もないと言い切った。
そしたら。
『紀和が欲しいなら喜んで買ってあげるけど、俺、下心あるよ?』
臣はそんなことを言った。
でも、俺はあっさり「いいよ」と答えてしまったのだ。
臣がそんな高いものを買ってくれるはずはないんだから。
そう思って、安心しきって吐いた暴言だったのに。

バレンタインにはしっかりとそれが用意されていたのだった。


そんなわけで。
今に至る。


「紀和は自分の一番欲しい物もらっただろ?」
諦めたように見せかけながら、また話を戻してにっこり笑う。
「……そうだけど」
目の前にある俺専用のパソコン。
それがとても高いってことは俺も分かってる。
もらうだけもらって知らん顔っていうのは、さすがに申し訳ないと思うんだけど。
「けどさ……」
でも、臣の言うような「子猫ちゃんごっこ」なんて絶対にできない。
想像しただけで全部の血液が頭に上って、ダッシュで逃げたくなるくらいだ。
でも。
「なあ、紀和。いいだろ、どうしてもできないことは省略していいから」
……臣は真剣だった。
「おかしいよ、臣。なんでそんなのがいいんだよ」
たとえ全部を臣の希望通りにしたとしても、その「子猫ちゃんごっこ」がこの最新ノートパソコンと同じ価値だとは思えないのに。
それでも臣は譲らない。
「紀和には分からなくても、いいモンはいいんだよ」
男のロマンなんだと言われ。
返す言葉がなくなった。
それでも、文句を並べながら逃げ道を考える。
「子供ならともかく……リボンなんて似合わないし」
首にリボンをつけた自分の姿なんて想像したくもない。
でも、それだって臣には関係ないみたいで。
「紀和なら大丈夫だ。絶対に可愛い。なんなら、紀和は『何にも知らない子猫ちゃんだからご主人さまのベッドで恥ずかしそうに座ってるだけ』って設定でも……」
また一人で勝手に盛り上がっていく。
「……『設定』ってなんだよ」
放っておくと臣の子猫ちゃんごっこはどんどんエスカレートして、もはやフォローの余地もないほどヘンタイど真ん中。
しかもそれを真顔で語る。
本当に、もう末期。
でも。
そんな臣が未だに大好きな俺も相当終わってると思う。

「他のものでお返しするんじゃダメなのかよ」
それでも多少は歩み寄りなんてものを期待しつつ、譲歩案を引き出そうとしてみた。
お年玉も貯めてあるから、ノートパソコンの五分の一くらいの金額のものなら返せるのに。
でも、やっぱり臣は譲らない。
「どうしても嫌だったら、リボンだけでもいいから」
実はもう買ってあるんだと笑顔で言われて速攻フリーズ。
臣がひらひらと靡かせながら持ってきたのは真っ赤でツヤツヤした生地のリボン。
「赤が嫌なら黒もあるし」
「……そういう問題じゃないだろ?」
文句は言ったものの。
結局、「明日まで考えさせて」と答えてしまったダメな俺だった。



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