No Good !
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「寝てる時にされるのが嫌なんじゃねーよ。じゃなくって、起きてるときしないのはなんでって聞いてんの」
謝るつもりだったのに。
堂河内が起きたら、文句を言ってた。
「なあ、堂河内、俺って起きてるとヤル気しない?」
「ち……違うんだ。ホントに、俺……」
慌てて弁解する堂河内が少し可愛くて。
笑いそうになるのを堪えながら聞いていた。
ニイさんが言ったのだそうだ。
『洸ちゃんは年上のカレシばっかりだったから、テクニックにはうるさいと思うわよ?』
あのヤロー……
余計な事を。
「もしかしたら、海瀬、俺に気を遣って感じてるフリとかしてるかもしれないと……」
俺がそんな気の利いたことするかよ。
「それで、酔っ払ってる時ならそういう事はないって思って。……まあ、酔ってる海瀬が可愛くて、楽しくなりすぎちゃったのは認めるけど……」
ある意味、ケナゲだけど。
「バカだろ、おまえ。ホントにそれが理由なわけ?」
「悪かったよ」
ってことは、俺の性格がわかってないな。
相手に任せてイマイチなら自分で乗るって。
「俺、下手なヤツでもぜんぜん構わないよ。一方的にしてもらおうとは思ってないし」
「……ごめん」
ああ、もう。違うって。
「堂河内が下手だって言ってるわけじゃないよ。……じゃなくてさ……酔ってる時の方がよかったのかって……」
「だから、そういうことじゃ……」
イマイチはっきりしないのは何故なんだ?
「じゃあ、今からやろう」
悪いけど、俺は本気だ。
絶対、後悔させてやる。
「……え? ここで?……ひとんちだぜ?」
「いいじゃん」
俺には実家みたいなもんだし。
「写真、撮られるかもしれないぜ?」
「大丈夫。服着てないときは撮らないルールなんだ。俺、今、したい」
「じ……じゃ、ゴムとか貰ってくる」
堂河内はすぐに一階へ降りていった。
単純。
あまりに可愛くて。
笑える。


真っ赤な顔で戻ってきた。
「ニイさんにからかわれた?」
「ミニスカートでウェイトレスしろとか言うんだけど。マジかな??」
ニイさんときたら、堂河内にさせる気らしい。
「いんじゃないか? 意外と似合うかもよ」
「バカ、海瀬もだぞ??」
俺は今さらそんなことくらい怖くも恥ずかしくもない。
「俺は似合うから」
「そうだけどさ……」
冗談なんだから、真面目に返事すんなよ。
けど、堂河内にフリフリのミニが入るんだろうか。
ぴたぴたはちょっとエロいかも。
う〜ん……
「海瀬、やる気満々?」
「いいや。ちょっと妄想中」
俺は慣れてるけど、堂河内は嫌だろうなあ。
なんかさ。
……ちょっと楽しいよな。
堪え切れなくなって、キスしている時に笑い出した。
「ナンだよ、海瀬」
「堂河内のミニスカート、なんかエロいよ」
「余計な想像しなくていいんだって。だいたい気持ち悪いだろ? 海瀬ならともかくさ」
「でも、ニイさんはマジだぜ、きっと」
「俺、どうすればいいわけ??」
何度考えてもかなりおかしい。
「いいじゃん。面白そうだ」
SEXしながらこの会話ってどうかと思うけど。
コイツとなら、それも楽しかった。



俺の逆襲のせいで堂河内は簡単にギブアップした。昨日の飲み過ぎが祟ってか、早々に疲れ果てて眠ってしまった。
何度も起こしたんだけど、そのうち突ついても起きなくなった。
「ちぇ、つまんねーの」
退屈なのでシャワーを浴びてから店に顔を出した。
動いたら、やっぱり身体が痛かった。
「仲直りできたのね?」
待ち構えていたニイさんに満面の笑みを向けた。
「うん」
ニイさんからは意外にも本当にホッとした笑顔が返ってきた。
俺が実は落ち込んでたことも分かっていたんだろうな。
今にして思えば、ホントにバカみたいな事で。
「ごめん。心配させて」
「あら、やだ。いいのよ、そんなこと」
照れ臭そうに手を振って、そそくさとポットを運んできた。
「洸ちゃん、本気なのね」
「……うん」
カウンターに座ると熱い日本茶が出された。
ビタミンが多くていいのよ、とか言いながら。
「オトナになったわね」
「俺?」
そんなしみじみ言わなくてもさ。
最近のニイさんは妙に感傷的だ。
俺は全然変わってないと思うのに。
なんだか、調子狂うよ。
「よかったわね。堂河内くん、いい子だから」
「まあね」
返事をしながら思わず照れてしまったら、思いっきり笑われた。
「本当はね、最初に堂河内くんを連れてきた時に思ってたのよ。洸ちゃんの彼氏は絶対この子がいいって」
それももう4年前のこと。
「ニイさんの好みだから?」
「そうよ。明るくて人懐こくて。でも、真面目で一生懸命で」
最初に堂河内を連れてきた時は、まだ恋愛感情なんかなかった。
お互いゴルフを始めたばっかりで、コースデビューの前日にここで飲んで俺んちに泊まった。
本当に普通の友達だったのに。
「洸ちゃんに、いいもの見せてあげる」
ニイさんのお気に入りの写真ばかりを集めたアルバムに、俺と堂河内の写真があった。
「堂河内くんが最初に来た日よ」
俺はいつもと同じく酔っ払いで、バカみたいに口を開けて眠っていた。
堂河内はすぐ側に座っていて、笑いながらそんな俺を見ていた。
いや……見惚れていた。
「こんな顔、好きな人見る時にしかしないよね、ってカナちゃんと話してたのよ」
そうかもしれない。
俺はぜんぜん気付かなかったけれど。
「……ねえ、洸ちゃん」
ニイさんは真面目な話なんて滅多にしない。
けど、今日はちょっと違った。
「誰かがずっと側に居てくれるって、いいものよ?」
ニイさんの視線の先にカナさんがいた。
店の奥で壁にかかっていた写真を夏らしいものに入れ替えていた。
「カナさんとも長いよな」
いつから付き合ってるのか知らないけど。
俺がニイさんに初めて会った時にはもうカナさんは隣りにいた。
「そうねぇ」
ちょっと遠い目をしながらお茶をすする。
「洸ちゃんとも何年かなぁ。堂河内くんとももう4年よね」
「そうだな」
ニイさんと最初に会った日。俺はまだ高校生で制服のまま真夜中の繁華街を酒を飲みながらフラついていた。それでニイさんにとっ掴まったんだ。
挙句の果てにオネエ言葉で説教されて、逆らったら引っぱたかれて。
「やだな、洸ちゃん。なに笑ってるの?」
「いろいろね」
それはほんの偶然なんだけど。
あの時、ニイさんに会わなければ俺は大学にも行かずに今でもフラフラしていただろう。
まともな会社に就職する事も、そこで堂河内に会うこともなかった。
「やあね。洸ちゃんたらオヤジくさいわよ」
楽しそうに開店の準備をするニイさんの背中を見ながら、声をかけた。
いつものバカ騒ぎが急に恋しくなって。
「あのさ、来週末、堂河内の誕生日なんだ」
二人で祝おうかとも思ったんだけど。せっかくだから。
「あらぁ、それはお誕生日パーティーしないとねぇ?」
案の定、食いついた。
堂河内には悪いが、生贄になってもらおう。
そうそう俺ばっかり遊ばれては面白くないし。
まあ、洗礼だと思って頑張ってくれ。
「ふふふ。楽しいわねぇ」
何を企んでるのか分からないニイさんにつられて俺も笑った。
何も知らずに眠っている堂河内の寝顔を思い出しながら。


まあ、覚悟してくれ。
俺の彼氏は大変だぞ、堂河内。


                                        end


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