No Good !
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ヤってるときは気持ちいいとしか思わなかったが、目が醒めて記憶を辿ると、なんかちょっと淋しい気持ちになった。
なんで、こんなSEXなんだろ。
俺が起きてる時にすればいいのに。
人格がない時の方がいいって言われてるみたいで、なんだか悲しくなった。
「堂河内って、俺が飲んだくれて寝てる時にしかヤらないのな」
「え?? あ、いや……」
酒を用意しながら、堂河内が慌てた。
「そうじゃないよ。じゃなくって、あ、海瀬っ、待て!」
「わりィけど、俺、今日先に寝るわ。おまえ、ソファで寝てくれ」
さっさとベッドに入る。
もう何を言われても聞く気にならなかった。
考えれば考えるほど、悲しくなりそうだったから。
「海瀬、違うって……なあ、海瀬……」
ベッドに潜りこんで俺の背中に必死に話しかける。
「うるさいな。俺、寝るから、話しかけんな」
布団に掛けた堂河内の手をピシャリと払い除けて、頭まで布団をかぶった。
「……ごめん、海瀬。そんな風に受け取ると思わなくって……」
「そんなにマグロくんが好きなら、店で引っ掛けてくれば? 今くらいの時間なら酔っ払って寝こんでるやつもいるぜ? 過激なのが好きなヤツもコスプレ好きも、なんでも揃ってる」
「海瀬、ほんと、違うって、」
堂河内がうろたえてるのも分かったけど。
「もう、これ以上話しかけるな。一言でもしゃべったら追い出すからな」
堂河内は何も言わなくなった。
黙ってテーブルを片付けて、黙ってソファで寝た。
なんでこんなに腹が立つんだろう。
楽しければ、気持ちよければ、いいんじゃなかったっけ……
適当に楽しくて、適当に笑えて、構われて……
そんなのばっかりだったのに。
堂河内は違う。
俺の中で、決定的に、違うんだ。



行き詰まると店に足が向いてしまう。もはや条件反射。
ホント何年も同じことしてるな、俺。
「洸ちゃん、悩み事?」
「っていうか、考え事」
悩んではいないけどさ。
ちょっと落ち込んではいるんだよな。
「なによ、鬱蒼とした顔しちゃって。やなことでもあったの?」
「うん、まあ、そうかな」
嫌っていうか。
でも、悲しいとか言ったらバカにされそうだもんな。
「あと30分くらいで堂河内くんが来るから慰めてもらったら?」
駄目だよ、それ。
会社でも避けてんのに。
「じゃ、俺、帰るわ」
「え〜っ? なんで? さては、ケンカしたのねぇ??」
「っていうか、いろいろ考え中なわけ」
俺が一方的に怒ってるだけだ。ケンカじゃない。
「何よ、ラブラブだったじゃないの?」
そーだけどさ。
「……な、ニイさん、」
「はあい?」
真面目に相談する気が失せるこの返事。
でも、他に話せる相手がいない。
「俺、起きてるとそそらない?」
「ナニ言ってるのよ?」
俺はこんなに真剣なのにせせら笑いやがって。
「堂河内、俺が起きてるとヤらないんだ」
「そんなことないでしょ?」
「ここでパーティーした日からずっと」
そうだよ。もう一ヶ月以上経つって言うのに。
「カレにはっきり聞いてみたら?」
「言ったよ。酔い潰してからしかやんないんだなって」
「堂河内くんはなんて?」
「違うって。……でも、実際、そうなんだ」
あれ以来、堂河内は俺のマンションには来ていない。
「じゃあ、それとなく聞いてあげるわよ。バカみたいな理由だったらミニスカートでウェイトレスしてもらうからね?」
そんな冗談に笑う元気もなく、俺は自分のマンションに帰った。


ニイさんから電話がかかってきたのは、0時を回った頃だった。
『堂河内くん、潰れたから迎えに来て』
「はぁ……?」
俺の間抜けな返事など聞かずに、ニイさんは電話を切った。
堂河内が酔い潰れた?
あの、バカみたいに酒の強い堂河内が……?
俺を嵌めて仲直りさせる気なんだろうと思いつつも店に出向いた。
堂河内は本当に潰れていた。
「あんまり飲ませるなよ」
「そうでもないわよ。疲れてたんじゃないの? 洸ちゃんのこと、ずいぶん悩んでたみたいだし」
「なんだって?」
「本人から聞いてあげなさいよ。ちゃんと理由も聞かないで拒否しちゃダメよ」
何故か俺が怒られる。
悪いの、俺か??
「まともな理由なんてあるわけないだろ?」
「まあ、なんて言うのか。カワイイわね」
ニイさんが堂河内の短い髪を指に絡める。
もちろん絡まってないけど。
「触るなって」
「そういうこと言うと、泊めてあげないわよ?」
「いいよ。背負って帰る」
「あ〜ら、その細腰で?」
背丈は堂河内とさほど変わらないんだけどな。
俺は、なんて言うのか、堂河内とは違ってちょっと華奢なのだ。
というか、堂河内が骨太で筋肉質なんだ。
圧倒的に重い。
「泊まっていきなさいって」
「じゃあ、そうする」
簡単に言ったけれど、2階まで運ぶのもけっこう大変だった。
家まで背負ってはいけなかっただろう。
「じゃ、俺、」
「ナニ言ってるの? 洸ちゃんが一緒にお泊りしなきゃ意味がないでしょ?」
また怒られるし。
「明日、堂河内が起きたらうちに来るように言ってくれれば……」
「いいの。泊っていきなさい」
ニイさんには逆らえない。
ほんとうに家族みたいな人だから。


俺んちの家族は俺の性癖を受け入れられなかった。
だから、相談事はもっぱらニイさんにしていた。
もっとも、真面目な答えを貰った事は数えるくらいしかない。
それでも、話せば気が楽になる。
バカみたいな答えが、嬉しい時もある。


「おやすみ、洸ちゃん。ちゃんと同じ布団で寝てあげなさいよ?」
俺はニイさんのほっぺに軽くキスをして2階に上がった。
堂河内は爆睡していた。
思ったより酒臭くはない。
ネクタイとズボンとワイシャツ、靴下を脱がせて布団を掛けてやる。
俺もその隣で横になる。
俺が怒ったから、悩んでたのかな……
そう言えば会社でも元気がなかった。
堂河内にしては珍しく、課長に注意されていたっけ……
あんなに怒らなきゃよかった。
例えばそういう性癖があったとしても俺は堂河内を嫌いにはならない。
けど、意識のある時にも抱かれたい。
ちゃんとそう言えば、堂河内だって俺のリクエスト通りにしただろう。
俺も俺だよな。
好きだって分かる前は、こういう関係になれるのなら何でもするって思ったのに。
例えば男っぽいのが嫌だと言うなら、女装くらいはしただろう。
どんどん欲張りになっていく。
堂河内が優しいから。
ニイさんの結婚式ごっこに嬉しそうに付き合ってくれた。
毎日のように俺のマンションに来た。
半分同棲みたいになっても、毎日会いたいと言った。
俺って、相手に求めるだけで自分はなんにもしてないんだな。
真剣に付き合おうとすればするほど、いろんな事に気付かされる。



ぐっすり眠っている堂河内の頬に口付けた。
思う以上に柔らかく、ふわりとした感触だった。
Tシャツの下に手を入れる。
すべすべとしていて、硬く引き締まっていた。
それでも無防備に眠っている。
愛しさが募って、抱き締めたくなる。
口に含んで勃たせ、上に乗って入れてしまおうかと思った。
……堂河内もそんな気持ちだったのだろうか。
愛しくて仕方なくて、眠っている間も自分のものにしたいと思う。
そんな気持ちを責めるなんて……
目が醒めたら、自分から謝ろう。
そう思いながら眠りついた。
堂河内の手に自分の指を絡めて……



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