-その1-
ぐれちゃんはお花屋さんちの子です。
でも、生まれたのはぜんぜん別のところで。
新宿に引っ越してきたのも最近で。
お花屋さんちの子になる前は、かまぼこの家の中に住んでました。
その日の朝、中野とバイバイしたあと、俺はいつものように公園で日向ぼっこをしてて。
「気持ちいいかも。でも、眠くなったかも……ぐー……」
目が覚めたら、公園の出口の近くに変なものが見えた。
「大きなかまぼこみたいのが落ちてる」
それは、かまぼこをすごく大きくして背中に持つところをつけたみたいなやつで。
でも、俺にはなんだかぜんぜん分からなかったから。
「もっと近くにいってみようっと」
噛み付かれたりしないかなって心配しながら、こっそり歩いていって。
そっと網の窓から中を覗き込んでみた。
そしたら。
「……お友達かも」
丸くなって寝ている背中が見えた。
灰色で、ふかふかで。
大きさは俺とあんまり変わらないくらいで。
「ねー、公園に住んでるの?」
今日、引っ越してきたのかなって思ったんだけど。
聞いても振り向いてくれなくて。
その代わりに。
「……ううん」
すごく元気のない声が聞こえてきた。
それを聞いたら、なんだか俺もさみしくなってしまって。
頑張って元気にならなきゃって思ったから。
「俺はね、まもるって言うんだー」
大きな声で自分の名前を言ってみた。
ほんとはお返しにその子も教えてくれるかなって期待してたんだけど。
「ねー……もしかして名前は教えられないの?」
知らない人にはひみつなのかなって思って。
だったら仕方ないなってあきらめた。
本当は一緒に遊びたかったけど。
でも、ジャマだったら悪いと思って。
「じゃあ、またねー」
一度、闇医者の診療所に行ってみんなと一緒にお茶とお昼をすることにした。
「それでねー」
三回目のお茶をしている途中で、やっぱり公園の子が気になって。
「ちょっと公園に帰ってきてもいい?」
まだ中野が来る時間じゃないからいいよねって言ったら。
「何かあるの?」
闇医者が俺を膝の上に抱き上げて聞いたから。
「かまぼこの中に友達がいるんだー。でも、名前は教えてもらえなかったけど」
なんでかな、って聞いたら、「なんでだろうね」って闇医者も首をかしげた。
「でも、残念だったね。せっかく見つけた友達なのに」
「……うん」
「どんな子なの? 子猫ちゃん?」
「えっと、あのねー」
昨日の夜か今日に来た子で、背はきっとおんなじくらいで。
「きれいなねずみ色なんだー。ちゃんと闇医者とも話せるよ」
そう説明したら、
「じゃあ、僕も挨拶しに行こうかな」
おやつをたくさん持って一緒にきてくれることになった。
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