〜・ ぐれちゃん物語 ・〜
(まもネコ視点)

  
クッキー↑のつもり

-その2-


闇医者と二人で公園に行ったとき、出口にあったはずのかまぼこは端っこに移動していた。
でも、灰色の子はまだ中にいて、朝と同じようにまるくなってた。
「こんにちは」
闇医者が優しい声で話しかけても。
「……こんにちは」
その子はやっぱり元気がなくて。
「どこから来たの? お母さんはいないのかな? 名前はなんていうの?」
何を聞いても首を振るだけ。
いっこも返事はしなかった。
「でも、ここに一人でいるのはつまらないでしょう? 僕の仕事場で一緒にお茶を飲まない?」
そんなふうに誘ったら、やっと。
「……『ここで待ってて』って言われた」
そう答えたけど。
でも、もっとギュッと背中を丸くしただけで、かまぼこから出てはこなかった。
「ねー、おなかすかないのー?」
持ってきたおやつを渡そうとしたけど、あみあみになった窓だけ開けるのは無理みたいで。
「ねー、ちょっとだけ入ってもいい?」
「……うん」
でも、どうやったらいいのかわからなくて、闇医者に開けてもらった。
「あのねー、おやつ持ってきたんだー」
かまぼこの中で二人してぎゅうぎゅうになって。
でも、「一緒に食べよう」って誘ったら、さっきよりちょっとだけ楽しそうな声で「うん」って言ってくれた。


その子は全部が灰色で、並んだらやっぱり大きさも俺と一緒くらいで。
「年も同じくらいかなぁ?」
自分が何歳なのか知らないけど、闇医者に聞いたら、
「きっとそうだね」
って言ってたから、じゃあ、やっぱり友達だって思った。
「あんまり年の近い子がいなかったから、うれしいかも」
俺がはしゃいでぐるぐる言ってる間、かまぼこの中の子はずっとおやつの魚味クッキーをもぐもぐ食べていた。
「よかったら俺のも食べてね」
いっぱい持ってきたよって言ったら、「うん」ってまたちょっと元気な返事があって。
よかったなって思ってたら、闇医者がその子の足元に何か落ちてるのを発見した。
「それ、なにー?」
白い封筒。
きっと手紙だなって思ったけど。
表側に『ご○○な方へ』って書いてあった。
……ほとんどひらがなのところしか読めてないけど。
「闇医者なら読めるよね?」
そう聞いたら、灰色の子に「ちょっとだけ見せてね」ってお願いしてから、手紙をあけた。
闇医者はまじめな顔でそれを見ていたけど。
きっと楽しいことは書いてないんだなってことは俺にもなんとなくわかった。
広げたのを俺も覗き込んでみたけど。
「えっとー『が、って、この子を、えなくなりました。ご、な、が、って』……漢字ばっかりでわからないかも」
かまぼこの子に「漢字読める?」って聞いてみたけど「ううん」って首を振った。
同じくらいの年の子だったら、みんなきっと読めないんだって思ったから、ちょっと安心した。
「なんて書いてあるの?」
闇医者を見上げたら、やっぱりちょっと困ったような顔をしていて。
もしかして、聞いちゃいけなかったのかなって思ったんだけど。
でも。
「……『迎えに来るまで、どこかのお家で預かってもらってください』って」
返事はそんなに悪いことじゃなかった。
俺だって、いつも中野が来るまで闇医者のところで遊んでるし。
この子もきっとそうなんだって思ったから。
「ふーん、そうなんだ。じゃあ、闇医者のところに行くの?」
でも、診療所は夜になったら閉めなくちゃいけないから。
「一緒に帰れるように中野に頼んでみようかなぁ?」
ちょっとそう思って。
でも。
中野は俺一人でもすごく嫌そうだから、二人に増えるのなんてぜんぜんダメっぽい気がした。
「どうかな」って聞いてみたら。
「そうだね。診療所の患者さんに聞いてみようね」
闇医者もやっぱり中野じゃダメだって思ったみたいで、「大丈夫だよ」って言ってもらえなかった。




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