Tomorrow is Another Day
ものすごくオマケ




<拾ってもらった。>


俺がベッドから落っこちても中野はいつも知らん顔だ。
気づかずに寝てた俺がダメなのはわかってるけど。
そのままにされるのはちょっとさみしいかもって思った。
今朝も目を覚ましたら俺は床の上に転がってて。
中野はベッドの上で新聞を読んでいた。
「ねー、なんで『落っこちたよ』って教えてくれなかったのー?」
聞いてみたけど。
中野はぜんぜん俺の方なんて見ないまま新聞をめくっただけ。
「ねー」
「中野ってば」
「俺の話聞いてる?」
「返事とかしてくれないのー?」
言い続けていると、10分くらいしてから返事をしてくれる。
「うるせえよ」
いつも同じセリフだなって思うんだけど。
中野はそれしか言いたくないんだからしかたない。
ホントは拾って欲しいけど、でも、それはムリだと思うから、
「落ちたら教えてほしいなぁ……」
それだけつぶやいてみた。
でも。
「自分で気付け」
すぐにちょっと怒られてしまった。
確かにそうなんだけど。
それだとちょっとさみしい気がした。
「うー。もういいもんね」
いっつもこんなで、ちっとも会話にならない。
でも、今日はいつもよりたくさん返事をしてもらったから、これでもいいやって思った。


そして。
次の日もまた寝ているときにベッドから落っこちた。
毛布にくるまってなくて、思いっきりドンッて落っこちたから、さすがに俺も気がついた。
でも、すごく眠たかったから、そのままそこで寝てしまった。
布団はかかってなかったけど部屋の温度もちょうどよくて、ぜんぜん平気って思ったんだけど。
その後、ふわって体が宙に浮くのを感じて、空を飛ぶ夢なのかなって思いながら少しだけ目を開けた。
そしたら、中野が面倒くさそうに俺をベッドに上げてくれてた。
……なんだ。
俺の話、ちゃんと聞いてくれてるじゃん。
ちょっと嬉しくなって、
「えへへ」
思わずにっこり笑ってしまったら。
「起きてるなら自分で上がれ」
すぐに怒られてしまったけど。
「うん。ありがと」
ついでに腕に『ぎゅう』ってしてみたけど。
やっぱりそれは思いっきり無視された。
でも、とってもうれしかったから、次の日、闇医者にその報告をした。
そしたら。
「じゃあ、かまって欲しかったらわざと落っこちてみればいいね」
なんだか意味ありげな笑いが向けられて、その時は中野にズルいって思われないかなって心配だったんだけど。


その夜。
一回だけなら試してもいいかなって思って、ポテッとわざと落っこちてみた。
でも、やっぱり中野は知らん顔だった。
「……わざとじゃダメなんだ」
ちょっとガッカリしながら、自分でベッドに上がろうとしたんだけど。
「うわっ」
ちゃんと乗ったはずなのに、足を踏み外して今度は本当にお尻から落っこちてしまった。
「痛いかも……」
ちょっと失敗って思いながら座りなおして、「がんばってもう一回!」って思ってたら。
「ったく」
中野がつまみ上げてくれた。
そのままポイッてベッドの上に投げられてしまったけど。
でも、乗せてもらったことには変わりはなくて。
「ありがとー。俺ね、拾ってもらうの好きなんだー」
でも、拾ってくれるのは誰でもいいわけじゃないんだよって言いながら、またベッドに丸くなってみたけど。
中野はもうぜんぜん聞いてなくて、頭の上に灰が降ってきただけだった。



                                 おしまい



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