<夏休みの宿題:その後> ---ネコ麻貴編:おまけ---
子猫が寝てしまった後、下僕三人はそれぞれ自分に割り振られた宿題を真剣な顔でチェックし始めました。
とは言っても小学校レベルの問題集。
社会人である男にとって難しいものなど……ないはずだったのですが。
「樋渡、ごめん。俺、文系科目は苦手なんだよね」
困った顔でそう告げた下僕その2はこう見えて理系。
自分に割り振られた宿題のうち、国語の問題集をその1に渡し、代わりに算数を持っていきました。
「中西は大丈夫なの?」
自分だけでなく周りの心配までするところが下僕その2らしいところですが。
「平気、平気。っていうかー、全部でたらめ書いておこうっと。『まきちゃんはせんせいのうちのこになりたいです』とか。どーよ?」
ゲラゲラ笑っているその3の隣りで、その2は「森宮がそんなに可愛いこと言うわけないんだから、すぐに嘘だってバレるよ」と呆れていましたが、下僕その1だけはその言葉を真面目に聞いていました。
そして、おもむろにその3の襟元を掴むと、ずるずると玄関まで引き摺っていき、そのままポーンとドアの外に放り投げたのです。
「樋渡、それってあんまりじゃ……」
その2は慌てて捨て下僕を拾いにいってあげましたが、戻ってきたその3はケロっとした顔で言いました。
「じゃあ、俺、工作〜。すっげー森宮っぽいのを作ってやるぞ〜」
その言葉から、先生が理解に苦しむようなものが出来上がるだろうという予測は容易にできたのですが。
「……うん、いいかもね」
下僕その2は「それくらいでちょうどいい」と思いました。
そうでなくてもマイペースな子猫が自分の好きなように作る工作なんて、きっと突拍子もないものに決まっているからです。
そして、どんなにコメントしがたいものが提出されても、先生はきっと子猫心を傷つけないために花丸をくれるはずと信じたからです。
「じゃあ、きっまり〜」
そうやって微調整を行った結果、下僕その2が問題集2つ、その3が工作、自称恋人の下僕その1がその他全部を「麻貴ちゃんと一緒に」やることとなりました。
「麻貴ちゃんをひざに乗せてお手手にえんぴつを持たせて、麻貴ちゃんの手の上から俺がえんぴつを握って、一緒にお勉強」
けれど、その言葉に「え?」と思ったのは下僕その2でした。
「樋渡って右利きだよね。森宮って左利きだよね? 膝じゃなくて隣に座らせないと上からは握るのは難しいよ」
そんな意見に、下僕その3が当然のように答えました。
「どうせ森宮は寝てるだけなんだから、別にどっちの手でエンピツ持ってもいんじゃないの〜?」
確かにその通りです。
「でも、それって『一緒にお勉強』するってことには……」
ならないよね、という下僕その2の言葉さえ、
「明日から麻貴ちゃんと二人でお勉強♪」
すでに遠い星まで行ってしまった下僕その1の耳には届きませんでした。
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