<夏休みの宿題> ---ネコ麻貴編---
その頃、「麻貴ちゃんのお城」という名のマンションの一室には下僕三人が集結していました。
「麻貴ちゃん、宿題はどれかな?」
早めに予定を立てような、とはしゃいでいる下僕その1を無視して、下僕その2がペラペラと夏休み用の問題集をめくりました。
「科目ごとになってるから5冊もあるんだね。これ以外にも絵日記や読書感想文、工作なんかもあるんだ?」
真面目に心配している下僕その2の隣りで、その3は笑い転げていました。
「うはぁ、大変だな。森宮ぜんぜん勉強できなそうなのに」
その言葉に下僕その1の眉がピクリと動きました。
そして素早い動きで鞄から「可愛い麻貴ちゃんの成績表」を取り出したのです。
ちなみに。
成績表のタイトルのうち「可愛い麻貴ちゃんの」の部分は下僕が愛猫を迎えにいった際に担当教諭の目の前で書いたものです。
でも、「勝手に書き足さないでくださいね」といったコメントは一切ありませんでした。
『何も見なかったことにした方が自分のため』
そう考えた先生の判断が正しかったことは言うまでもありません。
「ほーら、麻貴ちゃんは全部花丸なんだぞ」
下僕その1はそう言いながら、とても自慢気に花のスタンプが並んだ紙を広げました。
「へえ、意外と成績いいんだね」
えらいね、と褒めてあげる下僕その2に。
「それより、先生のコメントがすげーよ」
その3が指を差した先には、
『起きている時間がもう少し長くなるといいですね』
そう書かれていました。
「……これって樋渡も返事を書くんだよね?」
下僕その2は少し心配しながら尋ねてみました。
自分だったら「すみません」と謝る以外、何の言葉も浮かばないと思ったからです。
でも。
「もちろん」
下僕その1に困った様子はありませんでした。
「……ちなみに、なんて書くつもりなのか聞いてもいい?」
恐る恐るといった様子で尋ねてみたのですが。
「そうだな……『睡眠学習なのでご心配無用です』って感じかな」
本気でそう思ってるとしたら、少しヤバイかもしれない。
でも、本当にそう思っていそうなのでやっぱりヤバイのだろう。
「……樋渡、あのさ―――」
下僕その2は飼い主である男の心配をしつつ、そのあたりを確認しようと思いましたが、その時にはもう話は宿題のことに戻っていました。
「麻貴ちゃん、宿題は一日三ページくらいでいいかな。絵日記は寝る前に二人で一緒に書こうな?」
勝手に宿題消化のスケジュールを決めていく下僕をどう思ったのか、半目の子猫がムックリと起き上がりました。
そして、やけに楽しそうな下僕その1の顔を見上げ、あくび交じりに小さな手を宿題の置かれた場所に差し出したのです。
そして。
「ごはんの」
「たおるの」
「ぱんちの」
宿題の山を3つに分けてから、またすぴすぴ幸せそうな様子で眠り始めたのでした。
「森宮……それってあんまりじゃないかな……」
普段は何も考えていないように見える麻貴ちゃんですが、もしかしたらそうでもないかもしれないと思った夏の夜でした。
……「きもだめし」準備編につづく
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