「義理参加」 ----ネコ片嶋編-----
「……っていうのなんだけど」
チラシを片手に飼い主が概要を説明すると、それまでキリリと見上げていた猫は「ふっ」と大人びた溜め息をもらしました。
そして。
「肝試しなんて子供の行事です」
予想通りの答えを返しました。
「……そうなんだけどな」
どうやったら説得できるのだろうとあれこれ考えてみましたが、
「取引先がスポンサーをやってて、必ず来てくれって言われてるんだ。頼むよ」
結局、そのまま正直に話しました。
そこまで言われても姿勢のよい猫はまだ渋い顔をしていましたが、
「片嶋が一緒に行ってくれないと、今から代わりの子猫を借りてこないとならないから」
もう一度頼まれるとようやく、「仕方ないですね」と頷きました。
頭も良く、器量も申し分ない猫なのですが、何故か『子猫』に対してちょっとコンプレックスがありました。
渋々承知した理由の半分は、自分の代わりによその子猫をつれて行くことが嫌だったから。
そして、残りの半分の理由は。
「サンキュ、片嶋」
そっと自分を抱き上げる飼い主の笑顔が大好きだからでした。
きもだめしの参加賞はペットフード。でも。
「猫の食べ物には興味ありません」
日頃から飼い主と同じものしか食べない猫にとって、それは嬉しいものではありませんでした。
そんなわけで、飼い主は片嶋君に特別ご褒美を用意することにしたのです。
「じゃあ、帰りに片嶋の好きなワインを買ってやるよ」
作戦は大成功。
片嶋君の耳がピクッと動いて。その後。
「わかりました」
渋々だった承諾もご機嫌モードに変わりました。
それから、いつものようにパソコンの前に座るとお気に入りのページを開きました。
そこにはずらりと並んだワインの説明。
もちろん買うべき銘柄を決めるためのお勉強です。
「夏だから、スッキリしたのがいいですよね」
どんなのがいいですか、と飼い主を振り返った時にはもう姿勢の良い猫はすっかり嬉しそうな様子で。
「片嶋の好きなのでいいよ」
後ろで見守っている飼い主が笑うと、片嶋君もニッコリと笑い返しました。
もちろん、飼い主がそう答えるであろうことは最初から分かっていました。
だって、普段からとても片嶋君には甘い人なのです。
「どっちがいいと思いますか? やっぱり、こっちがいいかな……うーん、でも」
たっぷり15分、片嶋君は真剣な顔でマウスを操りながら悩み続けました。
そんな愛らしい様子を見ながら飼い主は思わずクスッと笑いました。
「決められなかったら2本とも買って帰ればいいから」
飼い主がいつだって自分に甘いことを子猫もちゃんと知っています。
だから、最初からワインは2本ともお手ごろな価格のものを選んだのでした。
銘柄とおおよその値段をメモして、飼い主の財布の中にしまいこんで。
ゴキゲンな片嶋君の「肝試しの準備」は完了したのでした。
-------まもネコ編につづく
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