「参加規定があるらしい。」 ----まもネコ編-----
さて、3匹のうちで一番の問題家庭は……というと。
「これねー、今日もらったんだー。『きもだめしのおしらせ』っていうんだよ」
子猫が一生懸命に話しかけても、飼い主である胡散臭い男はソファに座って新聞を読んでいるだけ。
いつもと同じで返事なんてしませんでした。
でも、これはまだ前振り段階だから何の反応もしてもらえないだけだと思った子猫は気にすることなく勝手に話し続けました。
「それでねー、『かいぬしさんといっしょにさんかしてね♪』って書いてあるんだー」
そこまで話してからようやくチラッと自分の飼い主かもしれない男を見上げてみましたが、その時もやはり黙ったまま新聞をめくっただけ。返事はありませんでした。
「……行ってみたいなぁ。ひとりでも行けるのかなぁ」
子猫は小さな声でそんなことを呟きながらチラシの隅を折り曲げてたりしてみましたが、どうしても「一緒にきて欲しい」とは言えません。
それでもその後しばらくは「もしかしたら」という気持ちでじっと返事を待っていましたが、30分経っても1時間経っても状況は変わりませんでした。
「あのねー」
最後にもう一度だけちゃんと頼んでみよう。
そう決心して口を開きましたが、その途端に男から面倒くさそうな視線が投げられて、子猫は慌てて口をつぐみました。
「……やっぱりいいかも」
無理にお願いをして嫌な顔をされるくらいなら、こんなチラシなんて見なかったことにしてしまおう。
しょんぼりしながらも、そう決めて眠ったのでした。
けれど、その翌日。
「まもちゃんも行くよね?」
診療所で一緒に宿題をしていたぐれちゃんにそう聞かれて、つい「うん」と答えてしまったのです。
でも、一緒に行って欲しい相手は今日も仕事。
帰りは深夜になるでしょう。
「……どうしようかなぁ」
少ししょんぼりしている姿を見て可哀想に思った香芝医師が、『きもだめし』のチラシに書いてあった問い合わせ先の番号をプッシュしてから携帯をまもネコに渡してくれました。
「ありがと、闇医者。……あ、出たかも!」
その瞬間から小さな猫はおおはしゃぎ。
「こんにちはー。えっとねー、ひとりで行っちゃダメなの?」
「肝だめしのことなんですが」とか「チラシを見たんですが」なんて前置きさえないまま、いきなり質問をしてしまいましたが、事務局のお姉さんは優しい人でした。
偉い人にいろいろ相談してから、
「じゃあ、来る時と帰る時だけはお友達の飼い主さんにご一緒してもらってくださいね」
そう言ってくれました。
「うん、ぐれちゃんのお姉さんがいるから大丈夫だよ。お弁当もおいしいんだー」
『そう、いいわね』というキレイな声を聞いてから、まもネコも「バイバイ」を言って電話を切りました。
「大丈夫って言われたかも」
診療所で患者モドキたちにそんな報告をした時、
「よかったなあ、マモルちゃん」
そう言ってくれましたが、心の中では全員が、
「飼い主と一緒に参加したら、一番怖いのはお化けじゃなくてヨシ君だからなぁ」
そう思っていたに違いありませんでした。
とにかくこうして、飼い主が全く遊んでくれない家の子猫もめでたく肝だめし大会に参加できることになったのでした。
-------「きもだめし。」につづく
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