45°

forty-five degrees

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おまけ-

<chapter 1>  恋心

普段は他人の行動になど全く関心を示さない水沢だが、たとえばスポーツなどで相手の心理やこの先のプレーを予測しなければならないような時には意外なほど的確にそれを掴む。
つまり、その気があれば相手の心理など容易に見通せるというわけだ。
だが、最大出力でビームを放っている俺の恋心に気付かない。
あえて無視しているのか。
あるいは、心の底から関心を持っていないのか。
間違いなくどちらかだろう。
……と思ったが、水沢の性格を考えると、「なにやら妙なものを感じてはいるが、それがどういう種類の感情なのか分からない」という可能性もなきにしもあらず。
いずれにしても前途は多難。
なのに、それがまた俺の気持ちに火をつける。

そんなわけで。
「おや、志野君。また『秘密の花園』へ行くの?」
「……その呼び方はなんだかいかがわしい気がするんですが」
エロ教師の戯言は適当に流して、いつもの屋上。
目標発見後、即座に隣りに腰を下ろし、
「水沢って、恋愛したことある?」
最初から直球で聞いてみたのだが。
水沢は本を枕に空を仰いでスヤスヤと眠りこけていた。
「毎日昼寝って幼稚園児並みだな」
だが、その寝顔にちょっとムラッと来て。
そっと眼鏡を外してキスをする。
たとえば、ここで水沢が目覚めたとしてもまず間違いなく無反応だろうということ判っているのだが、それでもこんな愚行がやめられない。
「背徳感」という言葉の意味を心の底から理解してしまった感じだ。
仮にもここは学校で、許可なく立ち入り禁止の場所。
眠っている相手に同意のないキス。
しかも、相手は水沢勇吾。
俺のライバル兼一生涯の親友なのだ。
この条件だけで、もう俺の気分は盛り上がる一方。
そして、あまりに無防備な寝姿を見るにつけ、
『このまま勢いでシャツのボタンを外して、この身体を……』
などと、その先を―――つまり、はだけた胸や水沢と体を繋ぐところを想像してしまう俺はもう末期。
漠然とした妄想ならまだしも、コンクリートの上では体が痛いだろうとか、入れるための用具を何も持っていないとマズイだろうとか、やる前は勢いでいいとしても終わったらやっぱりシャワーが必要だろうとか、現実的かつ具体的なことがあれこれと気になって仕方ない。
溢れる妄想の根本には、
『水沢は何をされても無反応に違いない』
そんな予想が敷き詰められている。
外れていない確率99%。
それでは面白くないなどと思うより先に、
「ということは、勢いでヤってしまっても大丈夫なんじゃないか?」
などと先へ進む方向で考えているのが始末に終えない。
いや、他人事じゃなく。
それはまさしく俺自身の話なんだが。

そんなことを真剣に考える自分はおかしいという自覚はある。
だが、自覚があればいいというものでもなく。
俺も健康な男子高校生。
体は反応するし、静めるためには放出が一番だろう、なんてことを思うとやはり水沢方向に手が伸びてしまう。
だが。
「やあ、志野君。調子はどう?」
こういう時、必ずと言っていいほど横槍が入る。
そう。
鍵がかかっているはずのドアがいきなり開いて、顔を出すのは常にあのエロ教師―――もとい、副理事長。
そして、その視線は明らかに俺の手と股間をいったり来たりしているわけで。
「……別に普通です」
「出してあげようか?」
口でも手でもいいよ、と爽やかに誘われたのだが。
聞き間違いであって欲しいと思う俺は、まだまだまともな高校生なんだろう。
いや、そんなことはともかく。
「ここって、どっかに監視カメラがついてるんですか?」
そうじゃなければこのタイミングはありえない。
だが。
「僕のアンテナは学校中の楽しいことをキャッチできるんだよ」
「……そうですか」
電波を飛ばしているのはおまえだろう。
そんな言葉を吐き出してしまいたい衝動を抑えつつ、心の中で『コイツは宇宙人』と仮定してみる。
おそらく性交渉は男女間ではなく同性の間でのみ行われる種族。
もしくは男性しか存在しない星で生まれ、地球に飛来した。
それなら全てに合点がいく。
我ながらなかなかいい設定だ。
よし、これからはコイツを宇宙人と思うことにしよう。
……だからといって、今現在コイツが邪魔なことに変わりはないんだが。
「それで、ご用件はなんですか?」
「君の応援」
だったら今すぐ立ち去ってください。
声には出さなかったつもりだが、どこからかダダ漏れていたんだろう。
「若いっていいねぇ」
ご希望に応えてあげよう、という言葉を残し、楽しげな足取りで去っていった。

風薫る、のどかな屋上。
グラウンドからは部活動に勤しむ生徒たちの声。
だが、毎度絶妙なタイミングで顔を出す宇宙人のせいで、時々ここがどこなのか分からなくなる。



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