Halloweenの悪魔
4倍?





夜中に目が覚めた。
そっと起き上がったつもりだったけど、アルに気付かれてしまった。
「僕、トイレ行ってくるね」
「……俺も一緒に行く」
眠そうに目をこすりながらベッドから降りる。
広げたまま眠ってしまったらしく、羽にも寝ぐせがついていた。
いつもならトイレは部屋のすぐ隣にくっつけてあるけど、今日からはちょっと離れた場所。
練習を兼ねてわざとそうしたのだ。
トイレには迷うことなく着いたけれど、大きな鏡に映った自分の顔はやっぱりちょっと心配そうだった。
「アル、眠くてもちゃんと手洗ってよ」
「そしたら手をつないで帰っていいか?」
「うん」
行きは急いでいたからあんまり思わなかったけど、戻る時はなんだか遠い。
目の前は静まり返った長い長い廊下だし、今迷子になったらすごく怖い。
アルが一緒で本当によかった。
「来週も勇者の勉強するのか?」
「するよ。でも、バジ先生もう帰っちゃうかな?」
仕事の邪魔はしたくないけど、もっともっといろんなことを教えて欲しい。
「お願いしたら聞いてもらえるかな?」
「だったら、メリナに言ったほうが効き目があるぞ。バジが断われるはずない」
噂をしながら歩いていたら、廊下が交差している場所でバジ先生にばったり会ってしまった。
聞こえてないといいなってちょっとドキドキしたけど、バジ先生の顔を見る限りぜんぜん大丈夫そうだった。
「こんな夜中に二人で散歩か?」
「違う。トイレの帰りだ」
散歩も楽しいけどなと言ったあと、アルが大きなあくびをする。
夜だから変身呪文が弱いのか、真っ白な歯は何本か尖ったままだ。
「先生はどこへ行くんですか?」
もうみんな寝てる時間なのに、パジャマじゃなくて普通の服を着ていた。
ポケットに入っているのはたぶん昼間のせっけんだろう。
まるく膨らんでいた。
「ああ、ちょっとフェイの部屋にな」
指差したのは窓の外。門の側にある塔の方向。
ついでに空を見たら大きな三日月と小さな半月が浮かんでいて、庭を見たら踊ってる花もあって意外と賑やかだった。
僕が勝手にすごく夜中だと思っているだけで、本当はまだそんな遅い時間ではないのかもしれない。
「何しに行くんだ?」
尋ねたのはアルだ。
僕も知りたかったけど、さっきのアルのがうつったらしく、大きなあくびが出てしまって返事は聞き取れなかった。
「そんじゃな。こんな時間に迷子になるんじゃねえぞ」
僕らが行くのとは反対の方向に歩きだしたあと、大きな背中はスッと見えなくなった。
「バジ先生、何の用事だって言ってた?」
フェイさんと仲直りしに行くんだといいなと思ったけど。
ちゃんと聞いていたはずのアルはちょっと首を傾げた。
「……たぶん『4ばい』」
しかもアルにしては珍しく自信がなさそうだった。
「4倍?」
「そうだ」
さっきの質問の答えとしてはちょっと変だって思ったけど。
でも、言われてみたら確かにそんな感じだった。
「何が4倍なんだろうね?」
「そこまでは聞かなかった」
「じゃあ、明日確認してみようか」
「そうだな」
二人でうなずき合ったあと手を繋いだまま部屋に帰り、ベッドにもぐりこんでぐっすり眠った。


翌日。
「えー、出かけちゃったのかぁ」
朝ごはんの席にバジ先生がいないので居場所を尋ねたら、ニーマさんが「夜まで外出されるみたいです」って教えてくれた。
「ご自分のお屋敷で用事を済ませてくるっておっしゃって、ずいぶん早くにお出かけになりましたよ」
ニーマさんが指差したのは市場の斜め右あたり。
バジ先生の家はそっちの方角なんだろう。
「そっかぁ。残念だなぁ……」
アルと二人でがっかりしていたら、「どうかしたんですか?」って聞いてくれた。
でも、夕べのことを話すとニーマさんもやっぱり首をかしげた。
「4倍、ですか?」
「うん。4倍」
アルと二人でうなずいて返事を待つ。
「そうですねぇ……」
そう言ったきり、ニーマさんはしばらく考え込んでいたけど。
「ええと……たぶん、お仕事中だとゆっくりお話しできないので、終わってからお部屋に行ったんじゃないかと……でも、『4倍』っていうのは―――」
そこまで聞いたとき、アルがパッと顔を輝かせた。
「じゃあ、4倍長く話せるってことだな!」
「あ、そっか!」
僕も「きっとそうだ」って思ったんだけど。
後ろで聞いていたばあやさんだけが、なぜかちょっと眉を寄せていた。


次の日になってお城に戻ってきたバジ先生は、そのことでばあやさんから怒られたらしい。
僕は自分の家に帰ってしまったあとだったから現場を見ることはできなかったけど、アルが得意げにそう教えてくれたのだ。
「『子供に変なことを話さないように』って言われてたぞ」
「ふうん。『4倍』は変なことかな?」
「メリナが言うんだからそうなんだろ」
僕の住んでる世界では別にそんなことはないけど。
こちらにはこちらの常識があるんだからって思ってうなずいておいた。
「じゃあ、僕らも気をつけないとね」
「そうだな」
とりあえず。
またバジ先生が怒られるとかわいそうだから、今後その話はしないでおこうって約束した。



                                     fin〜

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