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寝転んだままの体勢でそれを口に含むと、ごくわずかな塩辛さと苦さのようなものを感じた。
男のものなど口に入れたことはなかったが、不思議と嫌悪感はなかった。
樋渡の股間に顔をうずめ、しゃぶりつく俺の髪を長い指がからめとった。
「いいよ、麻貴……気持ちいい」
そう言いながら俺の頬を手の甲で撫でた。
「色っぽいな……いっちまいそうだ。……麻貴、もういいよ」
それでも口を離さない俺の髪をそっと掴んだ。
「もう、いいから……入れさせろよ」
なんの躊躇もなく吐き出される言葉に思わず頬を染めた。
「そういうカワイイ反応はよくないぜ、麻貴ちゃん。虐めたくなるだろ?」
余裕の笑みを見せながら、どこにそんな力があるんだろうと思うほど軽々と俺の体を引き上げて自分の膝を跨がせた。それから、右手を尻の割れ目に滑りこませた。
「いつも指何本入れてるんだ?」
俺の首筋に樋渡の意地悪い声が跳ね返る。
「答えないなら四本入れるけど?」
「バッ……やめろよっ!」
慌てて樋渡から離れようとしたが、逆にキツく抱き締められてしまった。
「じゃあ、何本なのか言ってごらん?」
「……二、本……」
「素直でイイコだ」
樋渡の指がそっと侵入してきた。
「後ろを触らないとイケなくなったのか? もしかして俺のせい?」
「……っ、……だったら、なんだよっ……樋渡が変なことするから……あっ……」
声を押し殺すので精一杯だった。
「俺のこと忘れられなかった?」
指がゆるゆると抜き差しされる。
俺は何も答えなかった。その通りだ。
けど、悔しくて認めたくなかった。
樋渡はもともと自信家だ。俺の返事がどうであろうと関係ない。
「嬉しいよ、麻貴。俺もおまえを忘れられなかった。女の子なんて抱く気にならなかった」
「な……何、言ってんだよ」
「信用してないのか? 3年間カノジョもカレシもなし。おまえのこと考えながら一人でしてた」
それは俺も同じだけど。でも、絶対、樋渡には言わない。第一、忘れられなかったのはあの日のことが衝撃的だったからで、樋渡のことがどうとかそういうんじゃないんだから。
「麻貴は彼女作らなかったのか?」
「おまえと……違って、相手に困って……んだよ」
時折止められ、また動き出す。
その指に意識が集中してしまい、会話をするのさえ辛い。
「何を言うのかと思えば嘘が下手だな。『王子様』」
「進藤のヤロー……そんなことまで……あっ、」
不意に激しく指が動き、俺は思わず仰け反った。
無防備に晒された喉と鎖骨を樋渡の唇が強く吸った。
「なあ、麻貴。俺、自惚れてもいい?」
「な……んのことだよ……」
「麻貴が俺に惚れてるって」
「……バッ……カじゃねーの……」
「意外と照れ屋?」
くそっ。どうしてコイツは―――
「好きだって言ってくれないなら、無理矢理言わせようかなぁ?」
言うが早いか樋渡は俺の身体をベッドに押し倒してうつ伏せにした。
しかも指は入れたままだ。
「待てよっ……ちょっと、樋渡っ!!」
「俺のことも名前で呼んでくれない?」
グリッと中で指が動かされる。
「や……だっ。……うっかり会社で呼んだらどーすんだよ??」
もう少し奥だったら、完全にイッてる。
硬くなったものの先端から、ダラダラと透明な液体が滴り落ちていく。
「俺は呼ばない自信があるけどな」
そうじゃないと遊び人なんて務まらないだろうけど。
「……俺……は、おまえとは違う……んだよ……」
「じゃあ、その色気のない呼び方でガマンするか……」
急に指が抜かれて。そのあと樋渡が背中に覆い被さってきた。
そして肩越しに俺の顔を覗きこんだ。
「なあ、麻貴。俺の名前、知ってる?」
「知……ってるよ」
「ホントに?」
「知ってるって。琉一だろ?」
「もう一回」
アホくさい遣り取り。
「……呼んで欲しいなら、そう言えよ」
その返事に「ふうん」と言って、いきなり、樋渡はまた俺をくるりと仰向けにした。
「後ろからもいいけど、顔が見えないもんな」
じっと目を見てそんなことを言う。
「ほら、呼んでくれよ」
「この状態で??」
「そう、俺の目を見て」
俺はまた赤面した。
ただ名前を呼ぶくらいならいくらでも呼んでやるが、改まって呼ぶなんて恥ずかしいことができるか??
しかも同期の男相手に、このシチュエーションで?
「やだって……」
ぷいっと顔を背けた。
「じゃあ、お仕置き」
樋渡の身体が俺の身体を押え込む。
そのまま再びうつ伏せにされる。
こうやすやすとひっくり返されたり抱き寄せられたりするとなんだか腹が立ってくる。
体格で負けていることを実感すると同時に、抗っても無駄だということを思い知らされるだろ。
樋渡はニヤニヤ笑いながら俺の両手を背中に回し、あっという間に落ちていたネクタイで縛り上げた。
「……な……んで、そんなことするんだよ??」
「お仕置きだから」
「バカ、ほどけっ!」
「駄目。解いて欲しくなったら名前を呼んで『愛してる』って言えよ」
「早くほどけって!」
樋渡はしばらく俺を背中から眺めていたが、背中に覆い被さって耳元でささやいた。
「俺、意外と鬼畜だぜ? 早めに降参した方がいいんじゃないか?」
それから、唾液にぬめった舌先を俺の耳に突っ込んだ。
全身に鳥肌が立つ。
「麻貴、耳も弱いんだな。責めがいがある」
熱が集まり、硬くなっているのを感じた。
たぶん、もうグチュグチュに濡れている。
うつ伏せなのでヤツにばれないのがせめてもの救い……
「腰、上げろよ。それとも、もう見せられない状態?」
樋渡の手が俺の腰の下に滑り込む。
「止めろっ……樋渡……あっ……」
クチュ、という音が耳に飛び込む。
「麻貴ちゃん、淫乱……まだ耳にキスされただけなのに、こんなに濡らすんだ?」
わざとクチュクチュと音を立てて先端を擦り上げる。
「イヤなんていいながらメチャクチャ感じてるんだな」
樋渡の指が俺のモノに絡み付いた。
耳たぶを甘噛みされて、樋渡の唾液が耳に流れ込むのを感じた。
「耳までカワイイな。噛み切りたい衝動に駆られる」
そんな言葉のすべてが下半身の熱に変わる。身体の奥が疼いてたまらない。
「麻貴ちゃん、今日は会社休もうな?」
「バカ、そんなこと……」
「立てなくなるくらい楽しませてやるから」
手の動きが早まり、俺は無意識に喘ぎ始める。
「やっ……やめ……んっ、」
「そう、いい? ここがいいんだ?」
吐息交じりの声に煽られる。だが、イクッ……と思った時、不意に手は止まった。
「愛してるって言う気になったか?」
「な……るかよ、ったく……あっ」
樋渡の手が再び後ろに触れた。
「麻貴が降参しやすくなるように、いいコトしてやるよ」
うつ伏せになっている俺の腰だけを引きずり上げ、閉じないように両足の間に自分の膝を入れた。
肩と顔で身体を支えるしかない状態で抵抗なんてできるはずもなく。
「今度、ビデオを持ってくるよ。色っぽいカッコ撮っておいて、オカズにするからさ」
「……お……まえ、おかしいんじゃないのかっ?」
「麻貴だって感じてるんだろ? こんなに滴らせて。やらしいよなぁ?」
けど、俺のものを強く掴んでいた手はすぐに離れて行った。
「早く、腕、ほどけって……」
どんなに叫んでも樋渡は何も言わない。
肩越しに顔を見ようとしたが、ニヤついている口許がチラッと見えただけだった。
「いい加減に……ひっ……??」
突然、樋渡の両手が突き出された尻の肉を掴んだ。
親指が双丘を割り開く。
蕾がひんやりした空気に触れる。
その箇所にふうっと樋渡の息が吹きかけられた。
秘部に樋渡の呼吸を感じる。
「止めろ、樋渡、そんなとこ、見るなっ……」
「どうして? カワイイぜ。ヒクヒクしてる」
堅く閉ざされた場所を指で押されて背中が粟立つ。
「止めろって……」
入れるならさっさと入れて終わらせろと言いたかった。
だが、意志に反してダラダラと先走りが溢れてくる。
樋渡が不敵な笑みを浮かべた。
「直接舐めてやるよ。おまえの尻の穴。舌突っ込んでさ」
「……変態っ!」
「なんとでも。けど、人のこと変態呼ばわりしておきながらアンアン喘いだりしたら、一日中ベッドに拘束だからな」
口の端で笑いながら人差し指で入り口を擦る。
「声、出すなよ?」
温かくてぬめっとしたものがそこに押し当てられた。
「うわっ……」
気持ちいいとか悪いとかじゃなく、ただ驚きで叫んでた。
生き物のように動く舌先が皺に沿って動く。
抵抗しながらもヒクつく穴に潜りこもうとする。
「止め、あっ……樋渡っ……」
入り口に侵入してきた舌を感じると気が狂いそうだった。
「あっ……、やっ、んっっ……」
樋渡の手が前を扱く。
ジュルッという唾液の音が耳のうぶ毛を逆撫でする。
「ダメっ……樋渡……あ、ああっ!!」
叫び声をこらえることができなかった。
イキそうになる寸前で、樋渡が動きを止めた。
「ダメだよ、麻貴。俺、まだなんだから」
俺の腕を縛っていたネクタイを解きながら、樋渡が俺の腰を支えた。
手が自由になっても、俺にはもう抵抗する気力は残っていなかった。
身体にこもった熱が、理性の全てを剥ぎ取っていた。
「いくよ?」
樋渡が卑猥な音を立てながら、ゆっくりと俺の中に侵入してきた。
「あっ……はぅんっ……」
背中を仰け反らして快感に震えた。
「気持ちイイだろ? な、麻貴?」
「んっ……あっ……」
「麻貴ちゃん、お返事しようね?」
樋渡が腰を引いた。
俺の中を圧迫していた物がぬるりとした感触と共に引きぬかれた。
「あっ……」
「返事、してよ?」
樋渡は俺の高まりを確認し、自信たっぷりに付け足した。
「イイんだろ? 言わないと挿れてやらないぜ?」
俺は返事ができなかった。
「麻貴ちゃん?」
樋渡の指が少しだけ俺の先端を撫でた。
「……ん……イイ……っ」
カッと頬が熱くなるのを感じた。
樋渡がニヤッと笑った。
「ちゃんとおねだりしなって言いたいところだけど、カワイイから許してやるよ」
樋渡の熱いモノが再び入り口に押し当てられた。
「ほら、麻貴ちゃん、もう一度、な?」
グジュッという音がして、脈打つ塊が俺の中を一杯にしていく。
「あ、うぁぁっ……」
深く侵入した後、樋渡は俺の片手を後ろに導いた。
「ほら、入ってるだろ? 麻貴のココ、こんなに広がるんだぜ?」
広がった入り口と繋がった自分の根元を触らせ、俺の表情を確認した。
その手を俺の高まりに持って行くと今度はヌルヌルした雫をしたたらせている先端を触らせた。俺の手の上から樋渡の指がくびれの辺りに絡みついた。
「一人でやってもこんなにならないだろ?」
視線を感じて振り向く事ができなかった。
ただ顔の火照りはだんだん激しくなっていった。
「麻貴、動くよ」
樋渡の腰が更に奥まで差しこまれた。
「んっっ……くっ……」
ゆっくり抜かれ先端だけ入ったところまで来ると、今度は一気に突かれた。
「やっ……んっ」
繰り返される腰の動きと、激しくなる手のいたずらに射精感が高まる。
ぐりぐりと腰が回され、樋渡の荒い息が耳に届いた。
「麻貴……イクよ……」
艶めいた声に頭の中が真っ白になった。
やっとイクことを許された瞬間、身体に痺れが走った。
「あっ、ダメっ、樋渡……っっ……!!」
上ずった自分の声と同時に身体の中に打ちつけられる飛沫を感じた。
俺も樋渡もそのままベッドに倒れこんだ。
もう、呼吸をするのがやっとだった。
信じられない疲労感にぐったりと横たわる。
呼吸が整うまで樋渡は俺の身体を抱き締めていた。
ときどき髪を撫で、何度かキスをして……
いつの間にか俺は眠っていた。



目が覚めたのは、樋渡が枕元においてあった携帯を取り上げようとして床に落としたからだった。
樋渡は俺の髪を撫でながら会社に電話をかけ、体調が悪いから休みたいと告げた。
「麻貴も会社に電話しろよ」
時刻は8時30分。
どう考えても会社には間に合わない。
もっとも時間がたっぷりあったとしても、この状態では会社には行けなかっただろうけど……。
課長はもう席についているはずだ。
俺は後ろめたい気持ちで電話をかけた。
「あ、森宮ですけど……」
喘ぎすぎたせいで自分でも信じられなくらい声が掠れていた。
電話に出た女子社員が驚きまくっていた。
『大丈夫ですかぁ? 死にそうですよ、森宮さん』
死にそうなのはホントだけど。
「あ、うん、大丈夫。……課長、いるかな?」
電話に出た課長も驚いてた。
『森宮が風邪を引くのなんて3年ぶりだろう?』
確かにあの日以来、カゼで休んだことはなかった。
『とにかくゆっくり休めよ』
あっさりとOKをくれたのはいいが、進藤に頼みごとをする前に電話は切られてしまった。
仕方なく進藤の携帯にかけ直した。
『なんだ、ほんとにすっごい声だね。俺、てっきり二日酔いかと思ったよ』
二日酔いなら会社に行けただろう。
『だって樋渡も休んでんだよ。昨日森宮のこと送ってからどうしたんだ?』
「え? あ、……さあ?」
俺は曖昧な返事をした。まさかすぐ隣にいるとは言えなかった。
『まあ、心配しなくていいよ。樋渡は森宮と違ってえらい元気な声で電話してきたらしいから。多分、ズル休みだし。きっと女のとこにでも泊まったんだよ』
俺はそれには答えず、仕事の話だけして電話を切った。
「けど、おまえ、ほんとすごい声。喘ぎ過ぎだって」
隣で電話を聞いていた樋渡が可笑しそうに笑う。
「そんなに感じてくれて嬉しいよ、麻貴ちゃん。ヤルなら、やらしい相手との方が萌えるもんな」
「……アホか」
酒も悪夢もすっかり醒めていた。
「あのな、麻貴ちゃん。あんなに気持ちイイって叫んでたくせに、いきなりシラフになるなよ」
言いたいことはたくさんあったが、言い返す気力はなかった。
「まあ、そこが麻貴のカワユイとこだけどな」
にやけながら俺をからかう。
樋渡の言葉は全部無視した。
「……俺、寝るから。起こすなよ」
それだけ言い放って布団を被った。
眠っている間ずっと背中に樋渡の体温を感じていた。
どうしてこんなことになったのかなんて、考えたくもなかった。



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