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その後も俺と樋渡の仲は変わらなかった。
樋渡は少しだけ余裕を持ったのか、以前のようにべったり俺に張りついたりしなくなったし、一晩で何回もするなんてこともなくなった。
けど、それだけだった。
あとは本当に何も変わらない。



その日も俺と進藤と中西で飲んでいた。
樋渡は珍しく用があるとかで来なかった。
「へえ。用事って女とデートだったんだな」
中西が指差した方向に樋渡がいた。向かいの小洒落た無国籍料理屋で見たことのない女の子と楽しそうに飲んでいた。
彼女は俺らよりちょっと下くらいの年で、圧倒的にいい女だった。
樋渡といるとものすごく絵になる。
まあ、俺の目にはそんなに色っぽい関係には見えなかったんだけど。
「すっげー美人。やるな、樋渡」
冗談半分で俺が感心していると中西も進藤も眉を寄せた。
「森宮、妬いたりはしないわけ?」
「え? ああ、うん、別に」
会社の近くの店で窓際に座ってるくらいだから、そんな間柄じゃないんだろうと思うのは当然だ。つまり妬くとか妬かないとか言う以前の問題。
「樋渡は女に興味ないわけじゃないぞ?」
「知ってるよ」
「それでもいいのか?」
中西は俺を煽りたいんだろうな、きっと。
「樋渡の勝手だろ? 俺が口出すようなことじゃない」
「森宮ってさぁ」
また中西が何か言いたそうに口を開く。あまりにも俺が素っ気ないせいか進藤も心配そうにしていた。
だから少しだけ付け足しておいた。
「まあ、これで家に帰って来なかったりしたら、ちょっと考えると思うけど」
こんなことがあっても不思議とまったく心配にはならなかった。
「なんだよ、森宮。樋渡のことはやっぱり遊びなのかぁ?」
中西は口を尖らせていたけど、進藤は何も言わない。
たぶんまだ俺が樋渡を可哀想に思って付き合ってるだけなんじゃないかと思ってるところがあって、だから静観しているのだろう。
それもなんだかな……って感じだけど。
「遊びで付き合えるかよ。俺が樋渡とのことにどんだけ抵抗あったかおまえらにわかるのか?」
フォローのつもりで偉そうに言ってみたものの、自分でも疑問に思わないわけじゃない。
樋渡のことは、やっぱり身体だけなんだろうかって未だに思うから、何度聞かれても自信をもって好きとは言えない状態だった。
「森宮、ノーマルだったもんね」
進藤が忘れていたことを思い出したかのようにつぶやく。
ついでにマジメな顔で聞いてきた。
「ってことは、樋渡はテクニシャンなんだ?」
……それも答えにくい質問だな。
進藤がその言葉を冗談で言ってるわけじゃなさそうだってのも結構すごいと思うけど。
「でも、あいつも男は初めてだし、その辺ってどうなんだろ?」
「えっ??」
中西の一言に俺も進藤も驚いた。
「なんだ、知らなかったのか? 態度に出さないだけで樋渡だって悩んだと思うけどなぁ……」
遊び慣れた樋渡のことだから、当然そういう経験があるのかと思っていた。だから、男と付き合うくらいどうってことないんだって。
じゃなきゃ、当然のように俺を押し倒したりは……―――
その時いきなり自分が口にした数々の暴言が脳いっぱいに蘇って、少しだけ樋渡が可哀相になった。
でも、そんな考えにはすぐにフタをした。
……だって絶対、俺、悪くねーし。


その日、やっぱり樋渡はさっさとうちに帰ってきた。
「早かったな」
「そうでもないだろ?」
11時半過ぎ。まあ、早いって言うほど早くはないけど。
「女と一緒だったから今夜は帰ってこないかと思ったのに」
もちろんそんなことは少しも思ってなかったけど。
「もしかして妬いてくれたの、麻貴ちゃん」
ネクタイを緩めながら擦り寄る樋渡はちょっと意地悪い笑顔だったけれど、なんとなく嬉しそうだった。
「そうじゃなくって」
樋渡はニヤニヤ笑いながらも彼女についての説明をした。
「大阪にいた時、俺のアシスタントをしてた子なんだ」
「へえ。付き合ってたのか?」
何気なく聞いたんだけど。
樋渡の眉がピクッと動いた。どうやら俺はまた失言をしたらしい。
「……あのな、麻貴。大阪の3年間に彼女はいなかったって言っただろ。忘れたのか?」
そう言えばそんなことも聞いたことがあったような。
「それに彼女は俺らの2コ上の先輩と結婚してるよ」
「ふうん」
樋渡は着替えながら、「明日、会社から先輩と彼女の結婚式の写真を持ってくる」と言った。
疑ってるわけじゃないんだから、そこまでしなくてもいいと言っても、「俺の気が済まないから」とか言う始末。
こんな時は話を逸らすに限る。
「けど、すっげー美人だよな」
ちょっと派手目だけど、優しそうな子だった。
「ああ、俺のアシスタントするって決まった時、周囲に敵が増えた」
「いいよな、そういうの……会社が楽しくなりそうだ」
俺、そんなことないもんなとか思っていたら。
「のんきにそういうこと言ってくれちゃうんだな、麻貴は」
「んー??」
「俺には最悪の3年間だったんだぜ?」
「なんで? 仕事も順調で、綺麗なアシスタントがいて、上司に信頼され、後輩に慕われて、言うことないだろ」
樋渡は俺の頬をむにゅっと掴んだ。
「好きな相手にふられたまま、ずっと口も利いてもらえなかったのに?」
「それって、俺のこと言ってんの?」
「当たり前だ。会社を辞めようって何度も思ったんだぜ?」
俺がヤキモチを妬く気にならないのは、樋渡がこんなふうに手放しで俺を好きだって言ってしまうからなんだろう。
なんて思っていたら、樋渡が掴んだ頬を左右に伸ばした。
「痛ぇよ。離せ」
樋渡の手を剥ぎ取って頬を擦る。触ると妙に温かくなっていた。きっと赤くなってんだろうな。ったく、なんにしてもコイツはやりすぎの傾向にある。
で、どうでもいい会話も続く。
「あの時、俺、ちゃんとおまえに電話したじゃねーか。会社、辞めるなってさ」
「進藤に言われてだろ?」
「そりゃあ、そうだけど。電話しない方がよかったってことか?」
「いや……嬉しかったよ」
言いながらほっぺにキスをした。
樋渡なら、その気になればあれ以上の美人だって彼女にできるのに。
バカなヤツだと思うけど。
「麻貴、何考えてる?」
少し心配そうに樋渡が俺を抱き寄せる。
「んー、別に何も……」
甘くて激しいキスが言葉を奪う。
そんなことしなくても、どこかに逃げようなんて思ってないのに。
本当に、バカだよな、コイツ。
「樋渡……」
「なんだ?」
わずかに唇を離して樋渡が答える。
視線を合わせると溶けてしまいそうな目が俺を見てた。
だから、魔が差してしまったんだ。
きっと。
「……おまえのこと、好きになったかも」
一瞬、驚いたように樋渡の瞳が開かれた。
だが、すぐにいつもの樋渡に戻って、俺をきつく抱き締めた。
呼吸も出来ないほど抱き締めておいて、腕を緩めた瞬間にニッカリと笑った。
「―――今すぐベッドに行こう」




その夜、樋渡はなかなか俺を寝かせてくれなかった。
「俺は朝までやっててもいいぜ……っていうか、ずっとこうしていたいなぁ……」
何度、放っても樋渡が萎える気配はなかった。
「おまえ、なんかヤバイ薬とか飲んでるんじゃないの??」
絶対そうだ。
じゃなかったら、ありえない。
「……昔はわりとさっぱりしてたんだけど。相手によるんだな、きっと」
「人のせいにするなっ……っ……うぁ、あ……」
奥までズンと突かれて耐えられなくなって、俺も何度目かの射精をした。
「そんなにイイ?」
樋渡が笑った。
「……ん……イイっ……あっ」
結局俺は気を失うまでイカされ続けた。
物足りないくらいで止めておいてくれれば次の日が辛くないのに。
無意識になる直前にそんなことを考えた。





翌日、やっぱり樋渡は機嫌が良かった。
いつものように一緒に出社したが、その間もずっとニコニコしていた。
反対に俺はめちゃくちゃダルかった。
樋渡が召使いのように俺のカバンを持って隣を歩く。
「麻貴、今日早く帰れないか?」
「んんー……? 早くって言っても、8時くらいだと思うけど」
「いいよ。じゃあ、飯作って待ってるから、食わずに帰ってこいよ」
「うん」
樋渡が不機嫌になることはあまりなかったが、ここまで機嫌がいいことも滅多にない。
「じゃあな、森宮」
エレベーターを降りる俺の俺の肩に軽く触れた。
別に男同士でもすることだが、なんだか少しドキッとする。
辺りをそっと見回して、俺ら以外誰も乗っていなくて良かったと思った。


樋渡の機嫌がいいという噂はあっという間に俺らのフロアにも届いた。
「『何かいいことあったんですか?』って聞いたら『まあね』って、にっこりですよ。」
女の子たちは真剣だった。
「そうそう。『カノジョですか?』って聞いたら、『まあ、そんなところ』なんて溶けそうな顔しちゃってました」
「やっぱ、オンナかぁ……」
「あの樋渡さんをあそこまで溶けさせる人って、どんなでしょうね?」
はぁ〜、という一部の女子のマジメな溜め息をBGMに噂話は花が咲いていた。
「そう言えば、昨日、派手めの美人とメシ食ってましたよ」
「え〜っ、どこ? どこで??」
「交差点の反対側の無国籍料理屋」
「どこの人??」
「わかんないよ」
「森宮王子、なんか聞いてないです? 今朝、一緒に来てたじゃないですか?」
っつーことは、鞄を持たせていたところも見られてたのか。
まあ、いいんだけど。
「別に、何も……」
ダルくて突っ込む気にもなれなかった。まだ体が痛い。
「進藤君も樋渡さんと仲いいんでしょう?」
「いいけど。知らないよな、森宮?」
「……うん」
どうでもいいけど、樋渡の話なんて早くやめてくれよなぁ……。
「え〜、意外と秘密主義なのかなあ?」
「だったら『まあ、そんなところかな』なんて答えます?」
「う〜ん、どうかなあ」
「本人に聞いてみましょう」
「森宮王子、聞いてください」
「え? 俺? やだって」
冗談じゃない。
「じゃあ、進藤さん」
「え??」
困った顔でちらっと俺を見た。
もちろん進藤は昨日のことを知らない。
先に話しておけば良かったのか?
……んなこと、言えねーよな。
ってか、話されても困るだろ。
なんて言ってる隙に。
「あ、樋渡さんだっ」
すかさず女の子たちが駆け寄った。
こんな絶妙なタイミングで降りてくるなって。
「楽しそうだな。なんかあったのか?」
「樋渡の話だよ」
進藤が口を開く。嫌がってたわりには楽しそうだった。
「俺?」
「今日、機嫌いいなって。何かいいことでもあった?」
「ああ、それな」
樋渡が笑ったまま進藤にこそっと耳打ちした。
「……そんなことで喜んでるわけ?」
「いいだろ、別に」
それだけ言うと、樋渡はニッカリ笑って部長の所に資料を渡しに行ってしまった。
「森宮」
今度は進藤が俺の耳元でささやく。
『樋渡に好きだって言ったんだって?』
それは微妙に違う。
好きになったかも、って言っただけだ。
でも小声で返事をした。
「……うん、まあ……」
そしたら、速攻で呆れられた。
「アホくさい〜」
けど、その一言は俺じゃなくて、そんな事で浮かれてる樋渡に言ってくれ。
「え〜、なになに、二人でひそひそ話なんてずる〜いっ!」
「まあ、たいしたことじゃないよ」
進藤も言葉を濁した。
「でもぉ……」
不満そうな女の子たちの相手は進藤に任せることにして、俺は自分のデスクに向き直った。
それでもダルくて油断をすると机に突っ伏してしまいそうになる。
マジで潰れる前に明日の会議の資料でも目を通しておこう。
しかし、進藤の周辺では気の散る会話が続いていた。
「ん〜、ご想像の通り、樋渡のコイビトの話だよ。残念ながら、さっさと諦めた方がいいよ」
「その人って例の『マキちゃん』でしょう? そんなに好きなのかなぁ…」
「う〜ん……他は目に入ってなさそうだなぁ」
「え〜っ! やっぱりィ……ショック」
進藤は真正面から俺の顔を見て言った。
「一緒に暮らしたいらしいよ?」
「きゃあああっ!!」
終業時間内だというのにフロアは大騒ぎだった。
今だって一緒に暮らしてるのと同じだと思うけどな。
樋渡は違うと思ってるんだろうか。
「な、森宮?」
「え? ああ、そう、なのかな」
それにしても、なんで俺なんだろう。こんなにもてるのに。
それだけは今でもナゾだ。




「じゃあ、お先」
7時半。俺は会社を出た。
樋渡はなんと5時きっかりに帰ったらしい。
それもうちの女の子から聞いたのだけど。
「森宮王子、デートですか?」
「家に帰るだけだって」
「え、じゃあ、みんなでご飯食べて帰りましょうよ」
「悪いけど、また今度」
「やっぱりデートだぁ」
「いいなあ、みんな。楽しそうで」
「みんなって、樋渡と森宮だけじゃない」
進藤が意味ありげに口を挟む。
「どんな人か見てみたいですよね?」
「樋渡の? 森宮の?」
課長までこの会話に悪乗りしてきた。
「どっちもで〜す」
女の子たちが口を揃える。
「樋渡の彼女は美形でちょっとわがまま。だけど、気まぐれでたま〜にメチャクチャ可愛いことを言ったりするタイプ。森宮のは、遊んでるようで実は一途で世話好き……って感じかなあ」
これが課長の意見。
進藤が妙に納得していた。
美形? わがまま? きまぐれ? 可愛い? 全部ハズレだろ?
樋渡は、一途かどうかは別にして『世話好き』は当たりだな。
……余計な世話しか焼かないけど。




「ただいまぁ」
樋渡を待たせるのもなんなので、わりと急いで帰ってきた。んなわけでちょっと息切れしていた。
「麻貴、早いな」
玄関を入ってすぐのキッチンで樋渡は野菜を切っていた。
一応さっさと着替えて手伝おうと思って、樋渡の脇を摺り抜けようとしたら止められた。
何かと思ったら、「ただいまのキス」を強要してきた。
樋渡は片手でガスコンロを弱火にしながらも深く舌を差し込んできた。
「待てって……着替えてくるから。手伝うよ」
一応、抵抗してみた。
けど、樋渡には関係ない。
「素肌にエプロンにしてくれよ。割れ目にリボンってよくないか?」
相変わらずの変態発言を平然と口にした。
「バカなことばっかり言ってるなよ。まったく……」
再びすり抜けようと試みた時、樋渡の手が俺の腰を抱いた。
「……変態ヤロー」
樋渡は不敵な笑みを浮かべて言い返した。
「でも、俺が好きなんだろ?」
言うんじゃなかった。今更遅いけど。
「俺は『なったかも』って言ったんだ」
それでも樋渡は余裕綽々でふふん、と笑った。
「昨日の麻貴の潤んだ目と濡れた唇、一生忘れないから。今日、会議中に思い出してイキそうになった」
「おまえな……」
樋渡のたわごとを真に受けるのは止めよう。
俺はさっさと着替えに行った。
樋渡が5時に帰っただけのことはあって、リビングは恐ろしいほどピカピカに掃除されていた。しかも、菓子とか、つまみとか、酒とか、いろんな物が棚に並んでいる。こうやって買ってくるものは全部樋渡の財布から出てるわけで。
「俺、そろそろ樋渡に食費を払った方がいいのかもしれないな」
そんなことを考えながらテレビをつけた。ニュースを見ながら着替えていると、怪しげに笑った樋渡が部屋に入ってきた。
そのとき俺はボクサーパンツ一枚という恰好で、しかもテレビに集中していたため、樋渡の接近にまったく気づいていなかった。
部屋着の5分丈パンツを手に取った時、後ろから抱き締められた。
部屋には樋渡しかいないと分かっていても、さすがに驚く。
「なに驚いてるんだ?」
樋渡はすでに硬くなっていた。
尻に当たるそれを感じると、俺自身も反応してしまう。
「樋渡、料理、途中だろ?」
気を逸らそうとしても。
「後は弱火で煮込むだけだ。放っておいていい」
あっさりとかわされる。
「何しに来たんだよ」
「当然、セックス」
「ばか、俺、シャワーも浴びてないのに……」
「構わないぜ。煮込み時間、30分。その間のちょっとだけだからさ」
「ちょっとって、樋渡っ……」
「大丈夫、新しいローションも買って来たし、すぐにイかせてやるから」
「バカッ……」
「逆らうなよ、麻貴ちゃん。絶対、気持ちよくしてやるから」
そういう間にも樋渡の右手は俺の前を玩ぶ。
中途半端にずらされている下着。
立ったままいじられて濡れていく。
「そろそろ後ろもな、麻貴ちゃん?」
反対側の手が俺の口許に忍び寄った。
「口、開けて」
人差し指と中指が口の中に突っ込まれる。
「ちゃんと濡らしておかないと、痛いのは麻貴ちゃんだよ?」
俺の口から絡め取った唾液を滴らせながら、指は俺の後ろに指し込まれた。
「初めに人差し指。次は中指。それから2本で中を掻き回して……っと」
「あっ……ふっぅ……」
「麻貴ちゃん、いい声。気持ちいいい? なあ、答えて?」
「っ……あ、いいっ……」
「もっと?」
「ん、も……っと……」
「こんなにカワイイ顔でそんなこと言うんだ?」
「あっ、っ……」
グチュ、クチュリ……と不規則な摩擦音。
俺の内壁を細い指の先がこすり付けられる。
一度指が抜かれ、弛緩したところに三本まとめて突っ込まれた。
その瞬間に発したグジュッという音が樋渡の笑みに変わる。
「緩くなってきちゃったかな」
何の遠慮もなくズンズン突かれて、俺は無意識のうちに腰を揺らした。
「欲しくなった? もうガマンできない?」
「……ん、りゅ……ういち」
「やっと、おねだりの仕方がわかってきたな。続きを言って」
こんなのは嫌だって思うのに。
「欲し……い」
口が勝手に言葉を発した。
「何を、どこに?」
「りゅうい……ちのを、ここ……に」
どうでもいいから、早くしろって言いたいけど言えなくて。
「麻貴のココ、だらしなく口を開けてヒクヒク動いてるぜ?」
「……言うな……って……あっ、」
不意の刺激に身体全部がビクッと跳ねた。
「舐めてあげるから、立ったままベッドに手をついて」
もうどうにもならなくて、言われるままにベッドに手をかけた。
こんな時の樋渡に逆らってもエスカレートするだけだから。
……いや、そんなのは、きっと、自分に対する言い訳なんだけど。
「いい眺めだな」
樋渡は尻の割れ目を開き、唇を当てた。
滑る舌先が秘部に押し当てられる。
跪き、顔を埋めている樋渡が姿見に映っていて、それに比べて俺の身体がなんだか華奢に見えた。
ピチャピチャと音を立てて入り口を出入りする舌。
俺を弄ぶ長い指。
「ここもここも全部俺のものだ」
樋渡の吐息混じりの声が体の芯を熱くする。
「……もう、入れ……」
掠れる声でやっとそう言った。
「いいよ、麻貴……欲しいだけやるから」
そのままベッドに倒れ込み、肌を合わせた。
「麻貴……」
名前を呼ばれる度に実感する。
樋渡の長い指。この手も唇も全部、俺のもの。
「……ん、ああっ……っっ」
樋渡の腕の中で果てながら、そう思った。


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