微妙な夏休み
-7-



大きく開かされた腿の内側に唇が押し当てられる。
濡れた指先が宛てられた場所が待ち切れないようにヒクヒクと動いた。
「もう指じゃ満足できない?」
何も答えないと分かっているくせに返事を求める。普段ならそう言うところが腹立たしいと思うはずなのに、身体はその言葉に煽られて熱を増す。
触れられた場所が疼いて、収縮するのを感じた。
「我慢できないみたいだな」
中指がゆっくりと窄みを押し開いて内部に埋め込まれる。少しずつ体勢を変えながらも、差し入れられた指は抜かれることなく中でうごめいた。
「すぐにしてあげるけど……その前に」
身体を投げ出して横たわる俺の目の前に愛液に濡れたものが突き付けられた。
「舐めて」
唇とそれの間には舌を伸ばしても触れることは出来ない距離があって、俺を戸惑わせた。
嫌なら顔を背けろと言うことなのかもしれない。
けれど、その10センチ程度の空間を縮めるために俺は少しだけ身体を起こした。
「麻貴、今日は素直だな」
艶を含んだ声と共に後ろに入れられた指が増やされる。
「……っ……っん」
思わず身体を捩じらせた時、視界の隅に笑みを含んだ樋渡に口元が見えた。
「麻貴、口、開けて」
わずかに身体を寄せて、先端が唇に当たった。途端に熱が伝わって、柔らかく含むとヒクッと動いた。
特有の味と匂いが広がって、グッと深く飲み込むと舌さえ動かせないほど口内を圧迫した。
「……ん……っく、ん……」
硬度と容積を増したそれが咽喉の奥まで塞いで、唾液さえ飲み下すことができない。
「麻貴」
呼ばれても視線を移す余裕はなかった。
樋渡の指が頬を撫で、同時に後ろを解していた手が欲しい場所を抉った。
「う……っ、んん」
むせ返りそうになった瞬間、口を一杯にしていたものが少しだけ引き抜かれて、透明な液体が口角を伝ってタラリと流れ落ちた。
「もう、いいよ、麻貴」
わずかに掠れた声が響いて、それから。
「すぐに気持ちよくしてあげるから」
余裕の笑みと深いキス。
そのまま片足だけ持ち上げられて、解された後ろに熱いものが宛がわれた。
「う、あ……っっ」
ヒクつく場所をゆっくりと押し広げながら入り込んできた。
「無理はさせないから。力抜いて」
呼吸を忘れてしまいそうなほどの圧迫感が身体の記憶を呼び戻す。
「そう、いい子だから……」
腸壁がこすれるその感触に背筋が粟立った。
「ん……気持ちいいよ、麻貴。いつもより熱い……それに、キツイな」
無理な体勢でキスを落とす。甘噛みされた肩先から伝わる吐息の熱さと甘い声。
「……っ……ぁ、ん……んっ」
前をやわやわと弄んでいた手は括れに指を絡み付かせてヌルヌルと先端を滑った。
「もうグチャグチャだな」
笑いながら、濡れた指で俺の唇をなぞった。濡れて光る手が目の前にかざされて、また身体が熱を上げた。
「麻貴、ここがいいんだろ?」
すぐにでも吐き出してしまいたい欲求とこのままずっとこうしていたい気持ちがぐちゃぐちゃに交じり合って、思考回路を曇らせて行く。
「やめ……っ、あ、樋渡っ、」
何かを言われるたびに頭が真っ白になって、理性が消えていく。
「それとも、もっと奥がいい?」
知っててわざと外してる。そんなこと分かってるんだけど。
「うっ……あ、ん」
欲しいと言えない唇の変わりに、身体がその先の快感をねだる。
「いつでも達けよって言いたいところだけど……せっかくだから、できるだけ長く遊ぼうな?」
一度引き抜いてから、俺の身体をうつ伏せにして、背中に唇を当てた。
「半月もおあずけだったんだから、少しくらい楽しまないと」
「……おまえが勝……手に家出し、てたんだろ……」
笑みの浮かんだ口元で柔らか唇を含んだ。
それから、腰だけを上げさせて再び身体を繋いだ。
「……うっ……あっ」
樋渡の悪戯な笑みと突き上げる衝動。
こんなことを承知してたら、また熱が出る。
そうは思ったけれど。
結局、この状態で止めることなんてできなかった。


冷気に晒されてなお汗ばむ肌をこすり合わせながら、グズグズと内部をかき混ぜる。時折、動きを止めて受け入れて広がった場所をまるく指でなぞった。
「……ぁっ……ん」
指が這っている場所が皮膚なのか内部なのかも分からない。ただ、ビクビクと痙攣して引けそうになる腰を樋渡の手ががっしりと押さえ込む。
「いっぱいいっぱいって感じだな」
背中にも、ペニスを飲み込んだ部分にもねっとりと絡みつくような視線を感じた。熱を持った肌の上を悪戯に指が這うたびに受け入れているものを締め付ける。
「ここ、綺麗だよ、麻貴」
言いながら、不意をついてグッと押し込む。腸壁をこすりながら一気に奥深くまで貫かれるその刺激に声を堪えることができなかった。
「あ、あっ……っ」
「麻貴、今日はずいぶんと敏感だな。病み上がりだからスパークしやすいのか?」
体力が落ちているせいで抵抗もできなくて。されるがままに腰を揺すられて、身体が震えた。
「んん……っ……樋渡……っ」
本当の本当に我慢が出来なくて。
「もう、達きたい?」
言われた言葉が理解できないほど、脳が白く煙っていくのを感じた。
後ろから突っ込まれたまま抱き締められて、顔だけを後ろに向けられて舌を舐め取られる。
「ん、っく、ふ……」
ピチャピチャと濡れた音が耳から飛び込んで身体を犯していく。
「麻貴、気持ちいい?」
前に回された手が硬く張り詰めたものを扱き上げる。
「やめ……っ、あ」
これ以上引っ張られたら身体がもたない。
なのに。
「……っ、あ……ぅん……っ……」
突き上げられた身体は遠慮なく仰け反り、堪えても吐き出される声が咽喉を刺激する。
「……麻貴、あんまり可愛い声を出すなよ」
そんなことを言われても、俺だって好きで出してるわけじゃない。
「っ、んんっ、」
我慢したつもりでも止まらなくて、ただ喘ぎ続ける。
それからは樋渡も何も言わなくなって。
「麻貴……」
時々俺の名前を呼ぶだけ。
いつもならニッカリ笑いながら見下ろしているのに、今日は荒い呼吸を繰り返すだけ。
「……樋……渡、も……ダメ……っ」
何度も達きそうになって、けど、そのたびに動きを止められて。
「麻貴、声……出すな……って」
背中を抱いたまま呟いたあと、引き抜かずに身体を返した。
「……んっ……あっ……」
すぐに唇を塞がれて会話ができなくなって。
「ん、っ……ん……」
絡みつく舌と唾液が深く口内を弄る。
長くて激しいキスの後。
「……麻貴、一緒に達こうな?」
一緒にも何も、止められなければすぐにでも達きそうな状態だった。
もう、意識も半分くらいしかなくて。
「心配しなくても、足りなかったら、後でゆっくり満足させてやるから」
切れ切れの言葉は首筋に触れた唇から肌を伝って直接身体の奥に響く。むず痒いような疼きにビクビクと身体が痙攣して、思わずギュッと目を閉じた。
「そ……んな必要ねー……って……あ……っく」
その瞬間に思いきり突き上げられて。
「やめ、樋渡っっ……あ、っんんっ!!」
樋渡の手の中に放った瞬間、耳元で押し殺した声が響いた。
「麻貴……っ」

――――……愛してる……



聞き飽きたセリフだけど。
その後は何も考えられなかった。



10分後。
「……おまえはそれがよけいだっつーのに……ったく」
ぐったりしてるくせに、条件反射で抱きしめられたまま文句を言った。
でも、樋渡はすでに緩みきっていた。
というよりは遠くに行ってしまっていた。
どこまで行ってしまったのかはかなり不明。
なんの返事もないまま、そのあとたっぷり15分は経過して。
その後。
「……麻貴と一緒にイケるのなんて、すっごい久しぶりだよなあ」
ニヤけた顔を見て思わず「けっ」と吐き捨てた。
だいたい、いつもはおまえがしつこいだけだろ。
「じゃ、麻貴ちゃん」
「なんだよ」
「今度は麻貴ちゃんが満足するまでしてやるからな?」
まったく、これだから。
残された夏休みが思いやられる。
「いらねーよ。もう、触るな」
そうは言っても樋渡の腕の中。
ダルいから抵抗する気にもなれず、そのままになってた。
樋渡は「まあ、それでもいいけど」と言った後で、また首や耳を舐めはじめた。
「……やめろ」
俺の言葉など素通りしていったらしく、やめるどころかエスカレートするばかり。
散々舐め回した挙句に深いキス。
「……んんんんっ!!」
抗議の声はなんとか聞こえたらしく、塞いでいた唇を少しだけずらした。
「いつもこういうのがいいよなぁ。両思いって感じで」
それそのものが錯覚だと言いたかったが。樋渡は完全にスイッチが入っていて、俺の手には負えそうになかった。
「な、もう一回続きしようぜ。好きなだけ達かせてやるから」
その言葉に、治ったはずの風邪がぶり返しそうだった。
もはや、ぐったり。
「麻貴、」
「……あああ?」
もう返事をするのも面倒になってたって言うのに。
「愛してる」
間髪入れず、抱きすくめられて激深で濃厚なキス。
「んんんんっっ!!……ぷはっっ……よけいなことすんなっ!!」
叫んで思い切り体を押しのけた。
「よけいじゃないだろ。大事な愛の確認作業」
「アホか」
俺に愛がないことは確認できるかもしれないけどな。
「いいだろキスくらいで叫ばなくても。一緒にイッた後なんだから」
それをいちいち口にするのがムカつくんだってことに樋渡は気付いてない。
「おまえな……」
マジに殴りたくなってきてこめかみがピクピクしたが。
樋渡は珍しくそこで引いた。
「あ〜、はいはい。分かりました。ご機嫌直して。俺の麻貴ちゃん」
それも多分、絶好調に機嫌がいいからなんだろう。
「その呼び方はやめろって」
「なんで? 可愛いのに」
また抱きしめようとしている樋渡の手をビシッと払い落として、足で樋渡の腹を押した。
「もう、いいから。さっさと離れろよ」
ここで終わりなら俺も楽だし。
出すもの出してスッキリ昼寝だ、と思っていたのに。
「麻貴、」
樋渡の視線がかなりイッてて。
「……なんだよっ??」
「俺、絶対、麻貴のこと幸せにしてやるからな」
また違うスイッチが入ってしまったようだった。
「俺にして欲しいことがあったら何でも言えよ?」
こうなったらもう何を言ってもダメだろうけど、言うだけは言っておいた。
「じゃあ、とりあえず1メートル離れてくれ」
1メートル先は間違いなくラグもカーペットもない床の上だが。
「なんだよ、照れちゃって。麻貴ちゃん、そういうところが可愛いんだよな」
相変わらず、どういう思考回路なのか俺にはわからない。
「樋渡、マジで一回精密検査受けてこいよ」
どこかヤラれてなければここまで能天気なリアクションは取れないはずだ。
それに。
「麻貴、腹減っただろ? すぐメシ作るから待ってろよ。何食いたい?」
こうやっていきなり普通の生活に戻るところもなんだかなぁ……って感じだし。
でも。
「んー、カレー。あと、サラダ」
腹は減ってたので、俺も自分の希望だけは伝えておいた。
樋渡はチュッと軽くキスをしてから、素早く服を着て。ついでに俺を抱き上げてソファに寝かせてから、キッチンカウンターの向こうに消えて行った。



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