冬休み -4-




樋渡は相変わらず手際が良くて、さっさと押し入る準備を整えた。
「力、抜いてろよ、麻貴」
ゆっくりと入ってきたけど、樋渡のモノは中から思いっきり圧迫した。
久々の感触にどうしても身体が強張る。
「ちょっと辛いか?」
樋渡は心配そうに腰を進めるのをやめて、唇の届く範囲全てにキスを落とした。
キスマークをつけられているのが分かったから、それはそれで不本意だったんだが、如何せん返事ができない。仕方なく少しずつ呼吸を整えた。
酔っているから力なんて入らないだろうと思っていたのに、入っていることを意識すると締まるみたいで樋渡がそのたびに反応するもんだから。
「麻貴、痛い? それともイイのか?」
それはそれで、やな感じだ。
思いっきり否定したいんだけど、言葉にならない。
「……ん……ちょっ…と、待っ…て、」
痛いと言うよりは苦しい。中から圧迫されることなんて普通はあり得ないから、本当に久々だとマジで時間がかかる。
それでも。
「麻貴」
髪を撫でながら、キスをしながら。
樋渡は俺の名前と「愛してる」を繰り返す。
何分経ったか知らないけど、樋渡は焦れもせずにちゃんと待っている。
「…それ、何度も言うの、やめろ……」
「憎まれ口が利けるくらいなら、もう大丈夫かな」
樋渡はわざともう一度「愛してる」と言ってから、ゆるゆると動き出した。
身体の中まで他人に触られて、弱い場所を攻められているっていうのに。俺の身体は自分でも嫌になるほど簡単に高まって変化した。
その場所を樋渡の手が遠慮なくもてあそぶ。
「う……っ、んふ……あ」
声を堪えられなくなると、樋渡が口を抑えた。
「麻貴、声、ダメだって。中西たちに聞こえる」
「そ……んな、こと」
言われても。
抑えられない。
「あ……っ、んんっ」
「ダメだよ、麻貴…他のヤツには聞かせたくない」
だったらアイツらが帰ってからにしろよと思うんだけど。
気持ちとは反対に身体はちゃっかりイク体勢を整えてた。
「麻貴、ここ、いい?」
さっきまで余裕を見せていた樋渡も真顔になってて。
「ん、あ、樋渡……っ」
もう、マジに、ダメだ。
あと少しでイクって時に。
「樋渡〜。」
中西の声と遠慮のないノックの音。
俺は樋渡に口を押さえられたまま、声を殺した。
「……ったく、いいところなのに」
樋渡は忌々しそうに顔を歪めるとズルリと俺の中から引いた。
「……ん……っ」
擦れて与えられた刺激に、無意識のうちに声が出る。
「聞こえるって」
樋渡に注意されたんだけど。
俺だって、出したくて出してるわけじゃないんだ。
その間にもノックは続く。
「ひ・わ・た・りィ〜。いるんだろォ〜?」
まだ酔っ払ってるらしい中西。なんとなく呂律が回ってない。
「うるせえよ、中西。ちょっと待ってろ」
樋渡は面倒くさそうに叫び返しながらゴムを外して、適当に拭いてから服を着込んだ。
「すぐ戻るから、麻貴はここで待ってろよ」
そう言い残してすばやくキスをしてから、渋々部屋を出て行った。



中西と何を話してるか知らないが、樋渡はいつまでたっても帰って来なかった。
「……ラッキー」
途中で止められたのは不本意だったが、何も樋渡を待つ必要はない。
その隙に俺はさっさと一人で抜いて、すっきりしたところでパジャマを着て布団を被った。
「自分で抜いても気持ちよくイケればいいんだよな」
このまま樋渡が戻ってくる前に寝ちまおう。
俺が本当に寝てる時は樋渡も起さないから、少なくとも朝までは何事もなく眠れるはずだ。
幸い酒もまだ残ってて、すぐに眠りはやってきた。
半分くらい夢の中に浸かった時、ドアが閉まる音がした。
でも、無視して寝続けた。
「麻貴、寝ちゃったのか?」
樋渡の声がすぐ近くで聞こえて、同時に樋渡の手が額に触れた。
おかげで眠りが浅くなった。でも、もちろん無視だ。間違っても返事なんてするもんか。
「あ〜あ、しかも、ちゃんとパジャマまで着て……」
ガサガサという音がして、樋渡の声がちょっと大きくなった。
「もしかして、麻貴、自分で抜いちまったのかぁ??」
ついでに深い溜め息が聞こえた。
「それって、あんまりじゃないか? なあ、麻貴ちゃ〜ん?」
……そんなことねーよ。
夢の中で返事をしながら、俺は勝ち誇った気分で爆睡した。



そして俺の読み通り、樋渡が俺を起こすことはなかった。
おかげで朝までぐっすり眠ることができた。
けど。
やっぱり、その安穏は朝までだった。
「ま〜きちゃん」
部屋がすっかり明るくなると即、起された。
「先に寝るなんて狡いよな」
ペロッと頬を舐められて。
「やめろ。朝っぱらから」
「もうすぐ昼だぜ?」
そんなに寝てたのか、俺。
まあ、酔ってたからな……。
「進藤と中西は?」
「中西の友達から電話がかかって来て一緒に初詣に行った。その後、ソイツんちで新年会らしい」
アイツらもホントによく飲むよな。
って言うか。
「……おまえが進藤たちを追い返したんじゃないだろうな??」
嫌な予感がしたから聞いてみたんだけど。
「麻貴、冷たいよな。勝手に一人で寝るなんてさ」
俺の質問、わざと無視してるだろ、樋渡。
ってことは追い返したんだな。
「麻貴、俺、溜まったままなんだけど」
無理やり俺の手を問題の個所に持って行った。
本人の言う通り、ヤバイくらい堅くなってた。
「一人で抜いてこいよ。なんなら手伝ってやろうか? 手ぐらいは貸してやるぞ?」
それならさっさと済みそうだ。挿れられるよりずっと面倒じゃないし。
けど、樋渡がそんなヌルい対応で「うん」と言うはずもない。
「それも嬉しいんだけどな。俺は麻貴ちゃんのイク顔が見たい」
こういうところが樋渡は変態チックなんだ。
普通は気持ちよくイケれば良くないか?
「……一人でやってろ」
樋渡のせいじゃないんだけど、充分寝たはずなのに何となく身体がダルい。
できればこのまま夕方まで寝ていたい気分だった。
「じゃあ、一回だけ。ならいいだろ?」
ちょっと猫撫で声なのも気に入らないけど。
なんとなく哀れみも誘うんだよな。
「……そう言えば樋渡、昨日はしないって言ってたよな?」
土壇場で拒否しなかった俺も俺だけど。
「でも、結局、してないだろ。挿れただけでイッてないんだから。……な〜、頼むよ。俺の可愛い麻貴ちゃん」
それは『してない』って言うのかよ??
「麻貴〜。返事して?」
樋渡は、本当にしつこい。他のことならわりとあっさりサッパリしてるんだけど。こういうことだけはダメなんだよな。
ここでハネつけても諦めたりはしないだろう。
サクッと終わるなら、それほど嫌じゃないんだけど。
樋渡にそれを期待するのはどうかと思うんだよな。
「おまえさ、一回って何を数えてんだよ?」
樋渡はそれまで死にそうにヘコんだ顔をしてたくせに、急に楽しそうに笑った。
この状況でオッケーするのは、ちょっと危険かもな。
「イク回数で1回。ならいいだろ?」
いいような気もするけど。詳細はちゃんと確認しておかないと。
「どっちがイクまでってことだ?」
樋渡が基準だったら、延々とヤラれそうだもんな。
「どっちでも。早くイッた方でいいよ」
言葉通りなら、珍しく簡単そうだ。
だったら、さっさと先にイッちまえばいいんだからな。
「ホントに一回だぞ?」
念を押して。
「ああ」
頷くのを確認してから、服を脱ごうとして止められた。
「服は俺が脱がせるよ」
「面倒だろ?」
「いいや。ぜんぜん」
……俺が面倒なんだよ。
さっさと済ませようとしてんのに。
「麻貴のカラダ、気持ちイイよな〜」
パジャマを脱がせるだけのはずなのに撫で回されるし。
まあ、ここでキレられるよりはいいかと思って、好きなようにさせておいた。
「なんでもいいけど20分以内に全部済ませろよ」
「時間制限までアリなのか?」
「嫌ならやめろ」
「……まあ、いいよ、それでも。20分ね。わかったから」
コイツが妙に素直なのも結構コワいんだが。
カーテンを閉めても明るい部屋に抵抗があったから、ズルズルと毛布を手繰り寄せていたら樋渡が笑った。
「麻貴って、ほんっとに可愛いよな」
勘違いするな。おまえに見られたくないだけだ。
なのに樋渡は多分、ものすごく自分勝手に解釈していて。
「やめろ、頬ズリとかすんな」
「じゃ、代わりに」
唇を塞がれて、舌を絡め取られて。
「……ん、ん……っう、」
意識を奪われている間に解されて、押し込まれて。
いや、20分で全部終わらせろって言ったのは俺なんだけど。
それにしても。
「うあ、ああっ」
仰け反った喉元に樋渡の歯が当たった。
緩く噛まれた場所を舌先が這い回る。俺の身体が樋渡をすっかり受け入れるまで続けられる指先の愛撫。胸からゆっくりと下におりて、堅く起ち上がったモノを包む。
なのに手は動かさない。
「……麻貴……イイ?」
もう動いてもいいかということなのか、気持ちいいかと聞きたいのか分からない。
だから、返事はしなかった。
どうせ何も答えなくても、樋渡は勝手にコトを進めるんだから。
「……ん、ふ……あっ……あっ」
思っていたよりもずっとスムーズに抜き差しは繰り返された。
自分の腹に当たるモノから、ダラダラと透明な液体が流れていたけど、樋渡はわざと焦らしてそこに触れてくれなかった。
「麻貴……こんなにあっさり後ろだけでイケるのか?」
樋渡の戯れ事は聞き流して、イクことだけを考えてた。
さっさとイって、さっさと寝よう。
夕べの酒のせいなのか身体はまだダルい。このまま続けても気持ちいいはずなんてない……と思ってたのに。
「ん……麻貴、ここ、ほら、気持ちいいだろ?」
耳に当てられた唇から流れ込む樋渡の声が体の奥で熱になる。
絶妙なタイミングで突き上げられる。
肝心の場所には触れられていないのに、気を許すとイってしまいそうになる。
「あ、あ、ん……っぅ」
目を開ける余裕はなくて、でも樋渡が笑っていることはなんとなく分かった。
「もっとちゃんとねだってくれよ。ほら、ココに欲しいんだろ?」
樋渡の声の大半はもう俺の中を素通りしてるのに。
その場所を抉られて、声を上げる。
「あっ、んん……っっ」
なのにイキそうになると動きを止められる。
妙な体勢のまま自分の背中に押しつぶされた腕に軽い痺れが走る。
「……樋渡、も、早く、」
「ダメだ、麻貴。もうちょっとガマンして」
それからは容赦のない責め。
「麻貴の欲しいと思うだけ、いくらでもあげるから。ちゃんとねだってごらん?」
樋渡の息も上がっていて、その掠れた言葉が脳を麻痺させる。
「……あ、っ……も、イク……っ」
やっと少しだけ目を開けた。視界はわずかに曇っていて、樋渡の顔が滲んで見えた。
目が合うと俺を抱いたまま樋渡が少しだけ微笑んだ。
「いいよ、麻貴……俺の手の中に出して」
樋渡の長い指が先端を擦り上げた瞬間、目の前がスパークして身体が痙攣した。



「どうだった?」
「……ん……何が……?」
感想、言えってことか?
言ってやってもいいけど、おまえが喜ぶようなことは一個もないぞ。
「疲れた。ダルい。眠い」
樋渡は余裕の笑みを崩すこともなく、俺を抱き寄せて髪にキスをした。
「じゃなくて。久々にちゃんとヤッた感じはどうって聞いてるんだ」
そういうことを聞くから、余計に疲れが出るんだろ。
「……もうおまえとは口利かねーよ」
「答えてよ、麻貴ちゃん」
タダでえさえ、脳が半分死んでいるのに。
「ま〜きちゃん?」
ムリにでも返事をさせようとするその性格が嫌いだ。
「照れちゃってんのか? ホント、可愛いよな〜」
俺が無視しても、樋渡は絶好調にゴキゲンで。
それもまた腹が立つ。
「……樋渡さ、ナニがそんなに楽しいんだよ」
ったく。人の気も知らないでニカニカ笑いやがって。
「そりゃあ、麻貴ちゃんが」
俺の顔を無理やり自分に向けて、すりすりと頬を擦り合わせてから、またニッカリと笑った。
「このくらい積極的に応じてくれるとさ」
その短い言葉の間に三回もキスをして。
「愛を感じるよなぁ〜」
このセリフでわずかに活動していた俺の脳細胞は死滅した。
「……それ、おまえの錯覚だろ」
もうダメだ。
絶対、今年は同居を解消してやる。
目が覚めたら、樋渡に三行半を突き付けて。
必要最低限の荷物を持って。
その前に引っ越し先を決めなきゃいけねーんだな。
とりあえず実家に帰ればいいか。
けど。今更、親と同居なんて鬱陶しい。
だいたい面倒だよな。
あ〜、世の中、面倒なことが多過ぎる。
それも全部、樋渡のせいだけど。
「俺、もう一回寝るから。起こすなよ」
「いいよ、ぐっすりおやすみ〜、俺の可愛い麻貴ちゃん。あ、こっち向いて寝ろよ。可愛い寝顔が見られなくなると淋しいから。な?」
また悪い夢を見そうで、しばらくの間、起きるか寝るか迷ったんだけど、結局、寝ることにした。
だって、俺、今年は寝正月って決めてたんだよな。



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