冬休み -6-




挿れられてから、そんなに時間は経ってなかったけど、俺はもうイキそうだった。
「麻貴、力抜いて」
樋渡がちょっと苦しそうに言う。でも、俺にはそんな余裕もなかった。
始めは、もうちょっと快く付き合ってやろうかと思ってたんだけど。
結局、面倒になってさっさと先にイってしまって樋渡に怒られた。
「麻貴、達くなら、『イク』って言えよな」
ぐったりしてる俺の隣りに座り込んで後始末をする樋渡は、なんだかとても残念そうな顔をしていた。
「なんで、んなことまで、いちいちおまえに報告しなきゃならないんだよ?」
言った瞬間、樋渡に言い返された。
「俺にだって都合がある。口に出すのが恥ずかしいなら、せめてもう少し態度に出せよ」
一緒にイケなかったのが、よほど嫌だったんだな。
「やだよ、面倒くさい」
してる最中にそんなこと考えてたら、すっきりイケねーよ。
「だったら、合図を決めておくか?」
「バカじゃねーの? そうまでして一緒にイクことにこだわらなくてもいいだろ??」
第一、そんなことしたって100%一緒に達けるわけでもないんだから。
「あのな、麻貴ちゃん」
樋渡はとても真顔だった。
「いい加減にしないと俺も怒るぜ?」
少しだけ厳しい口調になってたけど。
「ヤなもんは、ヤダ」
イク前に樋渡に報告しなきゃなんて、考えただけで萎えるもんな。
「麻貴のことは世界で一番可愛いと思ってるから甘やかしてきたけどな、あんまりワガママばっかり言ってると俺も切れるぜ?」
俺はぜんぜん甘やかして欲しいなんて思ってないのに、樋渡が勝手に構ってるだけだ。
なのに、なんでそんなことで怒られなきゃならないんだ??
俺も逆ギレ。
「ああ、好きにしろよ。ったく……」
言い放ったものの。
「あ、そう。麻貴がそう言うならいいけどな」
返事と同時に樋渡の目が変わった。
身の危険を感じてベッドを抜け出そうとしたが。
カーペットにつま先が触れた瞬間、あっけなく樋渡に腕を掴まれて、そのまま床に押し倒された。
「おまえ、冗談はやめろよ??」
気持ちを逆撫でしないように小声で言ってみたが、無駄だった。
「冗談なんかじゃないけどな、麻貴ちゃん。弁解は聞かないから、覚悟しろよ」
掴まれた腕に力が入る。
「バカ、痛ぇよっ!! もうちょっと力抜け!」
明日、絶対、青痣になるぞ。
「ダメだ。わがままばっかの麻貴ちゃんにはお仕置きしとかないとな」
「ふざけんなよ、ったく……」
チッと舌打ちしたら、ペチンと頬を叩かれた。
「可愛くなくなるから、それはやめろ」
あ〜あ、と溜め息。
カラダ中の力が抜けていく。
「麻貴、ずいぶんと余裕だな。俺に襲われてるってわかってるのか?」
「んなこと、わかってるけど……」
「じゃあ、なんで抵抗しなんだ? 襲われてもいいってことか?」
「じゃねーよ。都合のいい解釈するなよ??」
「じゃあ、抵抗しない理由は?」
理由なんて聞かれてもな。
「樋渡が、」
そう。
樋渡が、俺のことを好きだから。
きっとそんなにひどいことはしないはずだって思う。
どんなに怒っても、すぐに許してくれるだろうと思う。
だから。
「俺が、なに?」
「……なんでもねー」
そんなことを白状したら、何されるかわからないもんな。
「ふうん……いいよ、麻貴。なんとなく分かったから」
どういう理解をしたのか知らないけど、樋渡は楽しそうに笑ってた。
非常にイヤな感じだ。
クスクス笑いながら、俺を抱き締めて。
「麻貴、愛してるよ」
また、そんなことを言いながら、勝手に本日の二回目に突入した。



終わった後はもう目を開ける気にもなれなくて。
嵐のようにキスを繰り返してる樋渡を無視して爆睡した。
でも、寝ていたのは二時間くらいで、目を覚ました時には部屋は薄暗くなっていた。
俺が起き上がったことにも気付かずに樋渡はぐっすり眠っていたから、起こさないようにこっそりベッドを抜け出した。
トイレに行って水を飲んでから、サッとシャワーを浴びた。さすがに少し身体が痛くて動くのは辛かったが、髪が乾く頃には、いくらかすっきりした気分になった。
起こさないようにと思ってそっとドアを開けると、ベッドに腰掛けて煙草を吸っている樋渡の後ろ姿が目に入った。
樋渡が煙草を吸ってるところなんて久しぶりに見た気がする。
背中になんだか思いつめた感じが漂ってて、声を掛けにくい雰囲気だったけど。
「ったく、樋渡、俺がいる時にタバコなんか吸うなよなぁ……」
いきなり文句を言ったら、樋渡が驚いた顔で振り返った。
「……麻貴……?」
なんで疑問形なのか分からなかったけど。
「さっさと灰皿片付けろよ。あ〜、もう、俺、タバコくさい部屋で寝たくねーよ」
空気を入れ換えるためにドアを全開にして、バタバタとクッションで扇いだ。
樋渡は慌ててタバコをもみ消すと灰皿を持って立ち上がった。
「せっかくシャワー浴びてきたのに、煙草くさくなったじゃねーかよ」
樋渡は俺の不満をシリアス顔で聞き流して口を開いた。
「……シャワー浴びてたのか……自分の部屋に戻ったのかと思った」
ああ、そっか。そうだよな。
自分の部屋に帰ればよかったのに、なんで樋渡の部屋に戻って来てるんだろ。
まあ、今更そんなこと考えてもどうにもならないが。
「なぁ、空気入れ換える間、メシ食いに行かねー?」
まだ夕方だけど。
とりあえず腹を満たすことしか考えていなかった俺を樋渡は背中から抱き締めた。
しかも、俺の首筋に顔を埋めたまま何も言わない。
「離れろ、樋渡。おまえ、タバコ臭いぞ」
また文句を言ってみたら。
「……悪い」
それだけ言って洗面所に向かった。
樋渡、なんか、変だ。
……まあ、いつも変だけどな。


それでもメシは食いに行くんだろうと思って、セーターを着込んでリビングで待ってた。
なのに、戻って来た樋渡は、およそ外に出られる格好なんてしてなくて。
「なんでおまえバスタオル1枚なわけ??」
しかも、手にはローションとゴム。
「おまえ、ナンか変なこと考えてんじゃ……」
確認するまでもない。当然のように無言で押し倒された。
「なんだぁ??」
かなり焦って樋渡の身体を押し戻したが、樋渡は相変わらずのシリアスモード。
「まだ煙草臭いか?」
そう言った唇からは歯磨き粉の匂いがした。
「……んなことねーけど」
そんなことを聞いてるわけじゃないんだって。
はぐらかすなよな。
また文句を言おうと思ったら、樋渡はニッコリ笑って俺の唇を塞いだ。
「んんんんっっ、」
もがいたら唇は離したけど。
身体は俺の上に乗ったきり。
「俺は、絶対っ、嫌だからなっ!!」
叫んでいる間にセーターとTシャツをいっぺんに脱がされた。
「これが終わったら夕飯作ってやるから」
「嫌だ。カラダが痛いんだって……」
「じゃあ、後ろからな?」
違うだろ??
俺の言ってる意味を理解しろよ。
「ああ、もうっ!! いいから、どけって」
覆い被さっている樋渡の体は妙に温かい。
なんだかヤル気満々な感じだった。
楽しそうに笑いながら、軽く唇を合わせた後、やっぱり楽しそうに俺に告げた。
「麻貴ちゃん、今日は寝かせないからな?」
えっ……?
「昼間も寝てたんだから大丈夫だって。とりあえず一回ヤッて、それから、のんびり夜更かししような?」
げげげげ?!
「楽しいよなぁ、冬休みって」
樋渡のスイッチがいつ、どんな理由で入ったのか、俺には全くわからなかった。
「ちょっと、待て。おまえ、ヤリ過ぎだって……」
俺がどんなに叫んでも樋渡は俺の上から離れない。さっさとジーパンを脱がしてクッションを重ね、その上に俺をうつ伏せにした。
水っぽい音がして、すぐに冷たい感触が尻に広がった。その後、樋渡の指が滑り込んできた。
「うわっっ×××!!」
いきなり、2本。しかも、すぐに3本になった。
「麻貴ちゃん、行くよ?」
言い終わらないうちに、指を抜いて代わりに押し当てた温かいモノを俺の体に押し込んできた。
痛みしか感じないだろうと思っていたのに。
「う、あ……っ、っく」
今日三回目ともなれば、身体は簡単に樋渡を受け入れた。
「麻貴、」
後ろから樋渡が何度も俺を呼んで。
背中を舐めながらも、手は俺の身体を弄っていた。
「……愛してる」
何度も言われて飽き飽きしていたセリフなのに。
なぜかそこで俺の身体は反応した。
「んんっ、ぁっ、あ、」
樋渡のモノを締め付けているのが自分でもわかった。
「麻貴……可愛いよ」
樋渡の声が笑ってるような気がしたけど。
「あああっっ……」
奥を突かれたと同時に我慢できなくなって、声を上げた。
さっきの反応を、樋渡は絶対勘違いしてる。そう思うと無性に腹が立つんだけど。
「麻貴……愛してる」
耳元で何度も繰り返されて。
俺はあっけなくイってしまった。
もちろん「イク」なんて予告をする余裕はなかったけど。
樋渡はちゃんと一緒にイッたらしく、俺の背中の上に潰れたまましばらく起き上がってこなかった。
動けないのか、挿れてあるモノを抜こうともしない。
「ん……っ、樋渡っ……ど…うでも、いいけど、もう抜けよ。ダルいって……」
ハァハァと口呼吸しながら言ったんだけど。
樋渡からは相変わらず的外れな返事が来た。しかも少し笑ってた。
「麻貴、なんでそうやって俺を煽るんだよ?」
イッたはずの樋渡のモノは、なぜか変わらずに俺の身体を圧迫してた。
「な、んのこと……だよ??」
言い返した瞬間、逆にグッと押し込まれて。
「う、あっっ」
掠れた声が喉を通って、樋渡の手に止められた。
「ん、麻貴……このままもう一回、な?」
許可を求めているようで、実は一方的な樋渡の「な?」が結構ムカつく。
「バカ言うなっ」
「軽くだから」
動きは止まっているから、辛うじて普通に会話ができるけど。
樋渡が触りまくるから、ヤバイことに俺もまた勃ち上がってきた。
「可愛いよ、麻貴」
「バカ、おかしいぞ、おまえっ……んんっっ」
先端を親指の腹でギュッと擦られて、思わず声を漏らした。それと同時に中に入れられていたモノがさらに肥大したのを感じた。
「じゃあ、麻貴、今度は上な?」
いきなり腹に両腕を回されて、身体を抱き上げられて慌てふためいた。
「うわっ!! 止めろっ!! 4回もできるかっ」
叫んでみたけど。
そうでなくてもイッたばっかりで、抵抗なんてできるはずもなく。
「バカ、明日、会社なんだぞ??」
すでに自分の体さえ支える自信がなかった。
「う、あ、ああっっ……」
背中を樋渡の胸に預けたまま、抱き上げられた衝撃で奥まで押し込まれたモノの感覚に仰け反った。
「大丈夫だ。麻貴が行けなかったら俺も一緒に休むから。」
それのどこが『大丈夫』なんだよ??
樋渡の考えてることなんて、きっと俺には一生理解できない。
「もう一回だけだから、大丈夫だって。な?」
深く貫かれて声も出せないままに喘いでいる俺の背中に、樋渡の唇が押し当てられた。



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