らいと・ぶらうん
- Light brown eyes -

番外2 (中編)



そのままベッドに行くものだとばっかり思ってたのに。
予想を裏切って、颯はそのまま俺を抱き締めてた。
どうしていいのかわからなくて、ちょっとかしこまったまま座ってた。
自分の髪がくすぐったくて颯の胸に頬を擦り付けたりすると、目の前にある颯の口元が少しだけ緩むのが分かった。
それもなんだか照れ臭くて、だんだん身動きが取れなくなってきた。
暖かい光が思いっきり差し込む部屋に二人きり。
そのまま本当に何をするわけでもなくて。
やっぱりどこかに行こうかとか、とりあえずお昼はどうするんだろうとか聞こうと思ったんだけど。
颯が俺を抱き直すためにちょっと動いたりすると妙にドキドキしてしまって、自分を落ち着かせるのに精一杯。
結局、何にも聞けなかった。
こんなことなら先にヤルことヤッといた方がいいんじゃないかと思って。
「……あのさ、颯、」
やっと話しかけてみたものの。
「なんだ?」
真っ直ぐ瞳を覗き込まれて。
「……あの……」
また、言葉に詰まった。
『したいんだけど』って、それだけ言えばいいはずなのに。
何故かそれも言えなくて。
ぐずぐずしている俺の代わりに颯が口を開いた。
「バイトは休めないのか?」
俺を抱き締めたまま、おでこにキスをする。
まぶたにも。鼻の頭にも。
「休める……と思うよ」
バイトを休むのなんて初めてだけど。
そしたら、佐伯さんたちが帰ってくるまで本当に二人っきりでいられるんだよな。
颯の携帯を借りて、一番先に電話番号を思い出したヤツに電話した。
『休み〜? 珍しいよな、バイト命のおまえがさ〜』
電話の向こうから呑気な声が響くけど。
「うん、急な用事で。代わり、頼んでいい?」
電話の間ずっと颯が背中から俺を抱いていて。
俺のドキドキは途切れることがない。
それだけじゃなくて首とか耳とかにキスなんかするから、イマイチ電話に集中できなかった。
『いいよ。じゃあ、明後日な〜』
一分後にはあっさりオッケーを貰って。
電話を切ってから颯を怒った。
「もう、やめてよ。ヘンな声出しちゃったりしたらどうするんだよ?」
でも、颯は笑ってるだけだった。
時計を見たら、11時過ぎ。
佐伯さんたちが帰ってくるまで、まだ時間はある。
颯の仕事のこととか家族の事とか、いろいろ聞いてみようかな…って思ったら。
「じゃあ、行くか」
颯がいきなり俺を抱き上げた。
「へ? どこ行くの?」
オタオタしてたら、あっという間にベッドルームに運ばれた。
これって、もしかして??
「だからバイトを休めって言ったわけ?」
そりゃあ、バイトは立ち仕事だから、ヤッたら相当つらくなるけど。
「他に何がある?」
そういう思考回路の差が、俺ってやっぱりコドモなのかもしれないと思うワケで。
「『何がある?』とか言われてもさ〜……」
でも。
佐伯さんも待島さんもデートで、バイトも勉強もなくて、しかも颯が休みの日なんて、この先ずっとないかもしれないし。
こんな時くらいこっそり甘えてみようかなんて思ったりもしたんだけど。
いざとなると何をしたらいいのかわからない。
ああでもない、こうでもないと色んなことがグルグル巡っていくだけだった。
「どうした?」
そんな俺はやっぱり挙動不審だったらしくて。我に返ると颯が心配そうに顔を覗き込んでた。
「……なんでもないよ」
自分でも思うけど、今日はこればっかりだ。
「何かあるなら遠慮なく言えよ?」
「遠慮なんてしてないけどさ」
本当に何の不自由もない。
悩みもないし。
めちゃくちゃ気の利く佐伯さんと、プライベートな時間で専属の先生をしてくれる待島さんと、こんなに俺のことを心配してくれる颯がいて。
強いて言うなら、今はちょっとだけ勉強するのに飽きてしまってるけど、そんなのは俺が緩んでるだけだもんな。
「う〜ん……自転車も買ってもらったしなぁ」
それでも何かないかと思って考えていたら、颯が煙草を手に取った。
「あ〜、もう。ヤル前から吸うなよなぁ」
思わず口が滑った。
颯はクスクス笑いながら煙草をサイドテーブルに戻して、代わりに俺にキスをした。
「……ん〜……っ」
颯のキスは気持ちいい。
優しくて柔らかくて、少しくすぐったい。
そんな気分が身体の奥まで伝わる感じで。
……って思ってたら、いつの間にかボタンを全部外されてた。
颯って意外と手先が器用なんだよな。
「あのさ……颯、」
「なんだ?」
返事はしても服を脱がせる手が止まることはない。
「ホントにする?」
「嫌か?」
間髪入れずに真正面から聞くし。
「嫌じゃないけど、なんかさ、もったいないなぁって……」
せっかく二人でいられるのに。
やったら、きっと寝ちゃうもんな、俺。
「……寝ちゃったら、起こしてくれる?」
颯は笑いながら頷いてたけど。


結局、起こしてくれなかった。



「うあ〜っ? もう夕方なの??」
目が覚めて、焦りまくった。
だって、ベッドに入ったのは昼前なのに。
窓から差し込んでくる光が夕方の気配。
「夕方って……まだ3時半だけどな」
それにしても、4時間も寝ちゃってるよ?
「ひどいよ、起こしてくれるって言ったのに……」
「悪かったな。あんまり気持ち良さそうに寝てたから」
そりゃあ、俺が悪いんだけど。
しかもすごく気持ちよく寝てたけど。
でも……ちょっと、ショックだ。
4時間あれば、話したり、遊んだりできたと思うのに。
「もう、佐伯さんたち帰ってくるよなぁ……」
佐伯さんたちを邪魔だと思ってるわけじゃないんだけど。
もうちょっと颯と二人っきりでいたかったから、ちょっとガッカリした。
颯はまた少し笑いながら、
「遅くなるって言ってたから、9時か10時頃だろう」
それだけ答えた。
「そうなんだ?」
じゃあ、まだ6時間くらいあるんだな。
少しホッとして、今からでも颯と普通の話をしてみようかなって思ったんだけど。
颯も俺もまだ素っ裸でベッドの中にいて。
毛布の隙間から、颯の腕とか胸とかが見えて。
4時間前にしたばっかりだっていうのに、俺はまたしてもちょっとヤバイ感じだった。
「あ……のさ、」
その三文字を言う間に顔がちょっと赤くなった気がした。
それを見て、何も言わずに抱き寄せる颯の手がダイレクトに後ろに触れて。
押し当てられた腹に俺と颯の熱を感じた。
「…ん……颯……っ」
バイト、休みにしてよかったなと頭の片隅で思ったのも最初だけ。
まだ部屋は明るくて、颯がどんな顔で俺を抱くのかよく分かったから。
後はもう何も考えられなかった。
「う…っ、あ、」
最初だけはどんなに力を抜いていても息苦しさを感じるけど。
快感に変わるのもあっという間で。
「……颯……っ、あ、んん……ふ、ああ」

二人きりの休みは、そんな感じで終わったのだった。



「ただいまぁ。颯ちゃん、東騎クン、お土産買ってきたよ〜」
ちょっとウキウキしてる佐伯さんの声が聞こえたから、玄関まで出迎えた。
「お帰り。楽しかった?」
このニマニマ笑いを見たら、聞くまでもなさそうだけど。
「うふふ〜。はい、お土産」
渡されたのは結構大きな包み。
「開けてもいい?」
「どうぞ〜。マチちゃんと二人で選んだんだよ」
箱の中に、パジャマが二組。しかも、おそろいだ。
「明るい方の青が東騎クンのだからね」
もう一つはブルーブラック。
颯のパジャマっていう感じだな。
「冬なんだから、終わったらパジャマくらい着ないとダメよ?」
佐伯さんたら、また、そんなことを笑顔でさらっと。
「普通そういうこと言う?」
まあ、佐伯さんだからなぁ。
ちらっと見たら、俺と同じことを思ったらしい待島さんが苦笑してた。
「ボタンも少ないから、留めるのも外すのも楽だし。颯ちゃん、東騎クンにちゃんとパジャマ着せてから寝かせてあげてね。入塾試験も控えてるんだから」
颯はそんな佐伯さんにも慣れてるせいか、笑いもせずに頷いてた。
まあ、颯がちゃんと聞いてたかどうかは疑わしいんだけど。
「じゃあ、東騎クン、お部屋にパジャマ置いてきて」
そう言われて、自分のパジャマを持って部屋に行こうとしたら。
「そうじゃなくって、それは颯ちゃんの部屋に置いておくのよ」
「へ? なんで……?」
「なんでって。颯ちゃんのお部屋にお泊まり用ってことでしょ」
同じ家の中なのに『お泊り』って変だよな?
どうしようかと迷ってたら、颯が無言で自分のパジャマを差し出した。
どうやら一緒に置いてこいってことらしい。
佐伯さんと待島さんがニコニコ見送る中、俺はなんとなく赤くなりながら颯の部屋にパジャマを置きにいった。


会社からの電話で颯が書斎に引っ込むと、入れ替わりに佐伯さんが俺の隣りに座った。
「で、どうだった?」
「何が?」
「二人きりのお休み。ムッツリ颯ちゃんに構われまくった?」
佐伯さんにニンマリ笑われて、返事に詰まる。
「え? あ、ああ、あの、別に、あんまり、えっと……」
さすがに「ずっとベッドにいた」なんてことは言えない。
「なぁに、それ〜。せっかく留守にしてあげたのに」
すっごい不満そうに言われて、俺はちょっと引いてしまった。
「それって、わざとってことなの?」
「そうよ」
そっか……。
佐伯さんがデパートの開店時間より早く出掛けるなんて変だと思ったんだ。
そりゃあ、二人でいられて嬉しかったけど。
だからって、そんなに気を利かせなくてもさ……なんか照れ臭いじゃん。
「佐伯さんも待島さんもいてくれても全然構わないのに」
半分は照れ隠しでそう言ったら、待島さんがニッカリ笑った。
「うん、分かってる。でも、今日は颯に追い出されたんだよ」
言った途端、佐伯さんに「メッ」って怒られてた。
どうやらそれは言わない約束になってたらしい。
「それってさ、颯がデートしてこいって言ったの?」
そんなこと言うのかな。
でも、佐伯さんも待島さんも頷いた。
「そうよ。颯ちゃんがね、」
そこで佐伯さんが「ふふふ」って笑って。
「たまには東騎クンと二人っきりになりたいって言うから、出かけてあげたのよ」
「……ホント?」
そんなこと、言いそうにないんだけど。
「でも、ナイショよ?」
当たり前だよ。
そんなこと、俺が颯に言えるわけないじゃん。
なんとなく書斎に目を遣ると佐伯さんに笑われた。
「でね、東騎クン」
「なに?」
「今日、颯ちゃんとナニしてたのか白状しなさいって」
「えっ……ダメだよ、それは」
つい、ムキになってしまい。
「あらぁ、内緒なの? ふうん」
さらに突っ込みたそうな空気を撒き散らしながら、待島さんと顔を見合わせた。
「颯、ムッツリだもんなぁ……」
待島さんまでそんなこと言うし。
だからといって今日一日を振り返ると反論もできない。
黙り込んでたらもっと笑われて。
「よかった。楽しかったのね〜?」
さんざん頭やほっぺを撫で回された。
俺は佐伯さんのことも待島さんのことも大好きなんだけど。
こういう時はちょっと困る。



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