パーフェクト・ダイヤモンド

番外(温泉旅行編*2)




めでたく休みを貰って、弾んだ気持ちで家に帰った。
片嶋も珍しく早く帰って来ていた。
「2日連続でゴルフだけど、いいか?」
片嶋はニッコリ笑って頷いた。
「一度だけ父親と行ったことがあります。いいコースなんですよね」
部長に指定されたのは名門と言われる部類に入るコースだった。
そういうことを知ってるあたりがオヤジ仕込みって感じだよな。
「日曜は何時のスタートですか? 月曜はそんなに早起きしなくても大丈夫ですよね」
ゴルフ場のガイドブックを見ながら、楽しそうにしている。
そういえば、片嶋にはまだ言ってなかったんだ。
「ゴルフは土曜と日曜。月曜は帰るだけ」
「え? 2泊なんですか?」
3日とも空けとけって言ってなかったけど。
大丈夫だよな?
「日曜はゆっくり温泉に入って月曜の昼に向こうを出るって感じだな。まずかったか?」
「いえ。別になんの予定もありませんから」
土曜の宿泊先もそこそこのホテル。
けど、うちの取引先経由で優待してもらってるから意外と金はかからない。
夕食と朝食付きでもビジネスホテル並みだった。
「せっかくの休みなんだから、ちょっとのんびりしようぜ」
俺の下心なんて気付きもせずに、片嶋が子供っぽい笑顔を向けた。
「なんか楽しくなってきました」
俺は嬉しい反面、少しだけ後ろめたい気持ちになった。
ドライブもゴルフも温泉も俺にとってはオマケでしかない。
あくまでもメインは“片嶋と温泉”だから。
……もちろん、そんなことは内緒だけど。
「じゃあ、そういうことで」
まだゴルフ場ガイドを見ている片嶋を無理やりベッドに入れた。
「桐野さん、ゴルフも上手いんですよね。俺、ベストでも90をやっと切るくらいなんです。足手まといにならないかな……」
よほど楽しみなのか、片嶋はあれこれ話すんだけど。
「その話は行きの車の中で、な?」
俺の手は相変わらず片嶋にちょっかいを出してて。
片嶋にしっかりと怒られてしまった。
「今朝、したじゃないですか?」
「ああ……忘れてた」
俺に言わせれば、この至近距離で話をしてて、我慢できる方がどうかしてると思うんだけど。
「じゃあさ、片嶋、」
片嶋のパジャマを脱がしながら。
「桐野さん??」
「挿れないから」
妙な説得をしてみる。
「何言ってるんですか?」
やっぱり、また怒られたけど。
そんなことくらいじゃ止まらないんだよな。
「わりい、片嶋」
片嶋とのことがあるまでは、理性は多い方だと思っていたんだけど。
「え?」
「我慢してくれ」
「ええっ??」
抵抗はほんの数分。
片嶋の気持ちが本当のところはどうなのか分からないけれど、触れた部分はちゃんと反応する。
「ごめんな」
謝るくらいなら、しなきゃいいんだが。
毎度のことで、どうにもならない。
俺の謝罪に片嶋はただ首を振った。
「別にいい」ってことなのか、「謝ったくらいじゃ許さない」ってことなのか。
どっちにも取れる曖昧な返事だけど。
俺の背中に回された腕に力が篭もった。
この程度の理性で温泉旅行になんて行ったら、帰って来る時には片嶋に絶交されてるんじゃないかと思うんだけど。
それでも、きっと許してくれるような気がした。
「片嶋、キスして」
俺からねだるキスももう何度目かわからないけれど。
相変わらず困ったようにそれに応える片嶋の甘い唇。
「……んっ、」
少し苦しそうな表情も。
喉から漏れる声も。
愛しくて。
何度抱いても、まだ気持ちの方が余ってて。
「ダメ、です……桐野さ……」
片嶋が怒るのも無理はないんだけど。


達った後、気を失うようにして眠る横顔を見ながら、もう一度詫びた。




そして、金曜日。
俺はぜんぜん仕事なんてする気分じゃなかった。
本当は一秒でも早く退社したかったんだが、宮野に掴まって、謝る練習に付き合わされた。
「バカ。謝ってばっかりじゃどうしようもないだろ?」
今まで何度こんなことがあったと思ってんだ??
少しは学習しろ。
「でも、謝りに行くんですよ〜?」
近くで見ていた課長も頷いてるし。
……やっぱ、同行するべきだったかもしれないな。
「謝るのは当然だけどな、それじゃあ、なんでミスったかわかんないだろ? ちゃんと原因を話して、今後の対策を説明して、こんなことはもう2度とないんだから大丈夫だって納得してもらうのが謝罪なんだよ。ったく」
こんな基本中の基本からボンヤリコンビの宮野と課長に叩き込んで、一時間半の残業。
「言葉遣いも大事だけどな、棒読みじゃダメなんだよ。つかえてもいいから自分の言葉で説明しろ。……課長もボーッとしてないで聞いてください。宮野がトチったらフォロー入れるんですよ?」
どっと疲れたが、仕方ない。
この後は片嶋とメシの約束で、明日から3連休で温泉だ。
こんなことくらい。
我慢、我慢。



妙な電話に掴まらないうちに、ダッシュで会社を出た。
片嶋とは駅で待ち合わせ。
いつもなら9時10時は当たり前の職場だけれど、片嶋も早く出てきたらしい。
「すみません。遅くなって」
人目を引きながら改札を抜けてくる。
その笑顔に俺も見惚れながら笑い返す。
「いいよ。俺もさっき来たばっかだし。それより何食いたい?」
俺と違って片嶋はその日の気分で好き嫌いが発生するから、一緒にメシを食う時のメニューは片嶋の気分次第。
毎回、結構妙なことを言い出して俺を楽しませてくれるんだが。
今日も然りだった。
「眠くなるといけないので軽くでいいんですけど」
帰って寝るだけなのに、その返事。
全くもって「??」だったんだが。
近所の居酒屋に入って、メニューを見ながら、
「何飲む?」
俺の問いに首を振ったことに更に驚いた。
「飲まないのか?」
身体でも壊したんじゃないかと心配して尋ねたが、片嶋はにっこり笑って答えた。
「今日、出ませんか? 俺、運転しますから」
「へ?? 泊まるところ確保してないぜ?」
まあ、どこでもいいって言うなら、どうにでもなると思うけど。
「車で寝たいです。ダメですか?」
それは全然構わないけど。
車で寝たいって、なんだ??
それよりも。
……中でヤレんのかな?
一瞬、そんなことを考えたのが顔に出たのか。
「桐野さん、変なこと考えないでくださいね」
釘を刺された。
まあ、いいけど。
結局、俺も飲むのを止めて、メシだけ食って家に帰った。


野郎の旅行支度なんて簡単なもんだ。
片嶋は着替えを詰め込んだカバンとは別に、毛布二枚とお気に入りのクッションをしっかり抱きかかえていた。
「おまえ、ちゃんと着替えとか持ったのか? 忘れ物ないのか?」
自分の持ち物よりも片嶋を心配してしまう俺に、
「大袈裟ですよ。国内なんだから忘れたら途中で買えばいいでしょう?」
相変わらず冷静な突っ込みが返ってきた。
けど、そんな片嶋がやっぱり可愛くて。
外に出たら迂闊なことはできないと思って無理やり長いキスをした。
「桐野さん、いい加減に出掛けますよ」
いつまで経っても解放しない俺に、片嶋が呆れて笑ってた。
「ああ、そうだな」
よく考えたらもう暗いんだから、車の中だろうと外だろうと、人気のないところならいくらでも出来るんだよな。
「じゃ、行くか」
俺は上機嫌で、鼻歌交じりに車を出した。
「運転、途中で代わりますから」
「いいって」
「でも、疲れませんか?」
「ぜんぜん」
楽しい時は疲れなんて感じないものだ。
何よりも、片嶋と初めての旅行。
しかも、3連休。
その上、二人で温泉だもんな。
俺は、多分、怪しいくらいにニヤついてた。



信号待ちの間に助手席に視線を投げると、いきなり片嶋と目が合った。
もしかして、俺のことをずっと見てたんだろうか。
ってことは、ニヤニヤしてたのも見られたんだろうな。
でも、それに対しての突っ込みはなかった。
「桐野さん、運転も上手いんですね」
感心したようにそんなことを言う。
片嶋、もしかして俺に見惚れてたのか?
「おまえは?」
片嶋も仕事の時は冷静沈着。運転も上手そうだけど。
「誰かを乗せてる時は安全運転ですけど」
けど?
「一人の時は? 酒飲んでも運転するとか?」
「飲酒運転はしませんけど。ちょっとだけスピードが出過ぎるんですよね」
見かけによらず、ってタイプなんだな。
「じゃあ、明日、お手並み拝見と行くか」
怖いような。楽しいような。
「祖父母を乗せることもありますから、普段はものすごく安全運転ですよ」
勝気そうな笑顔が片嶋らしいけど。
信号がまだ赤なのを確かめて、片嶋を抱き寄せてキスをして。
少し長くなり過ぎて、後ろの車にクラクションを鳴らされた。
「ちゃんと前を見て運転してくださいね」
片嶋にも笑われて。
俺、相当浮かれてるんだろうな。
……まあ、自分でもそう思うけど。



別に疲れてなかったけど、片嶋がコーヒーを飲みたいと言うのでサービスエリアに入った。
お茶とコーヒーを買って、明日行くゴルフ場の説明をする。
こんな時間なのに結構人がいて、だから、なんとなく人目が気になった。
俺たちの関係がバレようが、男二人でいちゃいちゃしてとか思われようが、そんなことはぜんぜん構わないんだけど。
……いくら片嶋が可愛いからって、用もないのにチラチラ見るなよな。
「コンペならもう少し都心から近い方がいいんじゃないですか?」
片嶋は視線など気にする様子もなく、ゴキゲンな笑顔で話し続ける。
「でも、まあ、泊りがけだからな」
「だったら、温泉とかあった方が間は持ちますよね。代理店の相手をさせられるのって意外と面倒でしょう?」
片嶋ならにっこり笑って全員酔い潰すんだろうけど。
俺にそんな芸当ができるはずはない。
「どうせなら食事も選択式にしたらどうですか? コンペの後の表彰式で軽く飲むでしょうから、食事は軽くって方もいるでしょうし。宴会が苦手な方もいらしゃるでしょう?」
それはそうなんだけど。
……なんで仕事の話になるんだよ。
せっかくの休みなのに。
「まあ、その辺は部長にでも相談してみるよ。出席者の年齢層も確認しないとな」
俺は話を終わらせようとしてるのに。
「桐野さんの担当以外からも来るんですか?」
わざと仕事の話ばかりするんだろうか。それとも天然なのか?
片嶋だとどちらもありそうで判別がつかない。なので、聞いてみた。
「片嶋、それって、わざと?」
「え?」
「せっかく二人で遊びに来たんだから、普通はもうちょっと色っぽい話とかしないか?」
「わざとじゃ……」
ないらしい。
けど。
「色っぽいって、どういう話のことですか?」
コイツもストレートに確認するし。
けど、いい年した男が確認するようなことじゃないよな?
「片嶋ってさ、デートとかしたことないのか?」
「……ありますけど」
男同士だとムード作ったりはしないのかな。
でも、アイツには仕事の話なんてしないって言ってたのに。
「おまえら、いつも何を話してたんだ?」
そしたら片嶋が首を振った。
「話なんてしなかったです。会って、食事して、寝るだけ」
メシ食ってる時だって、話くらいすると思うんだけど。
いや、それ以上に。
そういう関係だったなら、やる時にあんなに恥ずかしがらなくてもいいと思うんだけど。
「ふうん。まあ、なんでもいいけど……仕事の話はやめような?」
「分かりました」
片嶋の口調も、こういう時は問題だな。
デートしてるって気がしない。
「休みの日だけタメ口にしろよ」
そう言っても。
「そんな器用な事できませんよ」
きっぱりと断わられてしまった。
まあ、仕方ないか。
「片嶋、マジで車の中で寝るつもりか?」
今からでもどこか泊まるところを探そうかとも思ったんだが。
片嶋はあっさり「はい」と言って。
しかも、なんだか楽しそうにしてるから。
サービスエリアの駐車場の隅で、リアシートを倒して毛布を敷いた。
寒くなったらエンジンをかけないとな。
厚めの毛布を取り出して、片嶋と一緒に横になった。
一応、人通りのない隅っこだけど。
でも、やっぱりヤレないよな……
ちょっと残念だけど、まあ、仕方ないか。
狭苦しい車内だけど、そんなに悪くもない。
片嶋お気に入りのクッションに二人で頭を乗せて。
「意外と暖かいですね」
晴れていて星も見えたけど、思ったほどは寒くなかった。
「朝は冷え込むから覚悟しておけよ?」
まあ、早めに起きて車を出せばいいか。
ゴルフの前に朝飯を食って、身体を温めて。
う〜ん、なんだか。
……寝られない。
「桐野さん、」
こんな気分の時に片嶋がキスなんてねだるから。
「ちなみに片嶋はこの状況でも全然平気なわけ?」
「大丈夫ですよ。桐野さんと違って理性は少なくないですから」
あ、そう。
シモネタは苦手なくせにそういう冗談は言うようになったか。
「じゃあ、俺も寝るかなぁ……」
どうせ俺の方が早く目が覚めるだろう。
だから、この仕返しに片嶋の起き抜けを襲うことにした。



Home    ■Novels    ■PDのMenu       << Back  ◇  Next >>