パーフェクト・ダイヤモンド

番外(温泉旅行編*3)




寒くて目が覚めた時、まだ真夜中だった。
エンジンを入れてリアシートに戻ると片嶋が目を覚ました。
でも、やっぱり片嶋はぼんやりしてた。
コイツって本当に起き抜けはポワンとしてる。
「寒くないか?」
温かい毛布の中に滑り込んで、片嶋の身体を抱き締める。
「……ん、桐野さんがいないと……ちょっと寒いです……」
またしても、こんな返事をした。
どうやって育つとこんな可愛いことを言うようになるんだろうって、いつも不思議に思うんだけど。
可愛がられたんだろうなとか。
甘やかされたんだろうとか。
そう思っても。
「もうちょっと、こっちに来いよ。ちゃんと毛布掛けて」
もっと甘やかそうとしてる俺ってなんだろうな?
仄かな明かりが差し込むだけの車内でキスを繰り返す。
ようやく周囲が暖まってきたのを見計らって、片嶋にお伺いを立てる。
「抱いてもいいか?」
「駄目です」
即座に返ってきたが、さらっと聞き流して、セーターの下に手を滑り込ませた。
「だから、駄目ですって」
「なんで?」
俺は軽い気持ちで聞いたんだけど。
片嶋からは思っても見なかった返事が。
「したくないんです」
……結構、傷ついた。
「ふうん」
そんな言葉を返したけれど。
ショックは隠し切れていない。
『したくない』って言われるって、どうなんだよ?
「あの……別に、嫌なわけじゃ……桐野さん?」
急に心配そうな顔になって片嶋が俺の目を覗き込んだ。
「でも、したくないんだろ?」
拘るようだが、「したくない」って言ったんだぜ?
「だって、車の中ですよ?」
誰かが見てるわけじゃなし。
「だから?」
「シャワーもないのに?」
まあ、そうなんだけど。
「気にしなきゃいいだろ?」
「あと数時間でゴルフですよ?」
ゴルフなんて適当にやってればいいだろ??
……俺って、勝手かな?
「歩くの、辛いです」
そう言われたら、どうしようもない。
「じゃあ、ゴルフが終わってからならいいんだな?」
「けど、ホテルの部屋で、ですよ?」
「ああ、もちろん」
それでも困った顔をするんだから。
片嶋をその気にさせるのは難しい。
「じゃあ、さ」
とりあえず今はキスだけでガマンすることにした。
見上げている片嶋の顎に指先をかける。
片嶋もなんとなく申し訳ないと思っているのか、自分から唇を合わせてくれた。
催促もしてないのに。
それって、いいもんだなと思って。
「桐野さん、」
「なんだ?」
「なんで笑ってるんですか?」
バレバレだな。
「笑ってるかな……?」
「笑ってますよ」
片嶋の指先が俺の唇に触れた。
その先端をぺロリと舐めて口に含んだ。
「そういうこと、しないでください」
「なんで?」
別に、身体に負担がかかるわけじゃないのに。
「……どうしても、です」
こんな恥ずかしそうな表情が結構好きな俺としては、なんとなくヤラしい気分が増幅されて。
挿れなきゃいいんだという結論のもとに、片嶋の首筋に唇を当てた。
「桐野さん……っ」
拒む体勢もできていなかったのか、急に押し当てられた感触に慌てたのか。
片嶋の身体が硬直した。
「口でするだけだから」
そう言って片嶋の顔を見たら、暗がりでもわかるくらいに赤くなってた。
「ダメですって……」
片嶋はいつまで経っても、そういうことには全然慣れないんだけど。
そんなこと気にしてたら何にもできないしな。
「大丈夫だって。噛み付いたりしないから」
風邪でも引いたら大変なので、上は脱がさず毛布に包まったままジーンズのファスナーを下ろした。
「そんなこと、分かってますけど……う、わっ××」
ちょっと触っただけ。しかも下着の上からだ。
なのに、片嶋に叫ばれてしまった。
「片嶋、俺、まだナンにもしてないぜ?」
返事なし。
でも、抵抗もしなくなったから、この機を逃さず、さっさと下着をずらして口に含んだ。
「う、ぁぁっ×××……」
思いっきり身体が跳ねて、あやうく歯を当てそうになってしまった。
「バカ、動くなよ」
やっぱり、返事なし。
けど、感じてはいるんだろう。
先端から溢れたものが舌に絡み付いた。
「……う、あっ……ん、」
片嶋の声と、吸いながら舐め上げる濡れた音が静かな車内に響く。
ほんの数分。
片嶋の身体は相変わらず素直で可愛い。
「あ、あっ……やっ、桐野さ……っっ!!」
ビクビクッと身体が弾んで、まったりとした液体が口の中に吐き出された
口一杯に広がったものをとりあえず飲み下してから、お茶を流し込んだ。
そんなに長い時間はしていなかったのに、片嶋はクッションにしがみついたまま、くったりとしていた。
「そんなに嫌なのか?」
って言うか。
そんなに良かったのか??
顔を覗き込んだら、涙目になっていた。
「……嫌とか、じゃ、ないですけど、」
髪を撫でて頬にキスをして。
片嶋が復活するのを待ってたんだけど。
どうしてもそれ以上はさせる気がないらしく、身体に力が入るようになると、さっさと衣服を直してしまった。
まあ、嫌がるのを無理にはしたくないから。
毛布をかけ直して自分の気持ちを落ち着かせようと思ったら、片嶋が俺の手を止めた。
「片嶋……?」
まだ薄っすらと熱の残る頬が俺の顔に触れた。
そのまま聞きかけた俺の唇を塞いだ。
舌を絡める長いキス。
その甘い感触に酔ってしまう前に片嶋を押し留めた。
「……無理しなくていいぜ?」
そりゃあ、俺だってして欲しいとは思うけど。
嫌々ならしてもらわない方がいい。
「無理なんて……」
「けどな、」
片嶋は俺の首筋に唇を当てたまま、顔も上げずに静かに告げた。
「……嫌じゃなかったら、させてください」
顔が見えないのが残念だったけど。
きっと赤くなってるんだろうな。
少しだけ視界に入っている片嶋の耳先がなんとなくピンク色だった。
「嫌じゃ、ないよ」
片嶋の髪を指に通す。
そのまま肌に沿って滑らせると、手のひらに首筋と頬の熱を感じた。
まだ夜が明ける気配はなくて、車内は相変わらず暗い。
でも、俺の腹にキスを落しながら器用にジーンズのボタンを外す指先も十分に確認できる程度には光が入ってきていた。
唇からチロチロと紅くうごめくものが覗く。
先端の割れ目を舌先でなぞる片嶋の表情は、見ているだけで達きそうなくらい艶めかしかった。
片嶋って、されるのはあんなに嫌がるくせに、するのはなんともないんだな。
うっとりしているようにも見えるその表情を眺めているうちに、身体はどんどん高まって、俺の口からも熱が漏れた。
それに目を細めながら、片嶋は何の躊躇いもなく熱くなった物を口に含んだ。
オアズケ続きのせいで、あっけなくギリギリまで高まってしまったそれは、片嶋の口を一杯一杯にしていた。
少し苦しそうな顔で奥まで咥え込んだ時、「……ん…っ」と短い喘ぎが片嶋の喉から漏れた。
その振動と唾液を飲み込む喉の動きを直接感じて熱は更に高まっていく。
溢れたもので濡れた唇の滑りが俺の限界を早くして、無意識のうちに片嶋の頭を押さえて、腰を動かした。
「う…っ、んん、」
片嶋が苦しそうに少しだけ眉を寄せて、焦点の合わない目が俺を見上げた。
その瞬間、止めることができなくなって喉の奥に放ってしまった。
「く…ふっ」
片嶋はむせ返りながらも咥えたままでそれを飲み下した。
その後も、まだ唇を離すことはしないままでクチュクチュと吸っていた。
それ以上されたら、絶対に止まらない。
名残惜しい気はしたが、片嶋の頬を押さえてそっと離してから、口元を拭いてやった。
「ほら」
お茶を渡したら、片嶋はペロリと唇を舐めてからペットボトルに口をつけた。
コクコクとそれを飲み込んで行く喉や口元に見惚れながら、その肩を抱き寄せる。
口でしてくれるのだって十分気持ちいい。しかも、片嶋は妙に上手いんだけど。
やっぱ、挿れる方がいいんだよな。
ちゃんと繋がってる気がする。
……って。実際、そうなんだけど。
「やっぱ、最後までしたいよなぁ……」
ほんの少しおねだりを含む愚痴に、
「ダメです」
間髪入れずに返事があった。
それから、「おやすみなさい」と言って毛布にくるまった。
……ったく。冷たいよな。
結局、俺はあんまり眠れないまま、片嶋の寝顔を見ながら朝を迎えた。
おかげで思いっきり寝不足になった俺は大人しく助手席に移り、片嶋の運転でゴルフ場に向った。



片嶋は自分で言ってた通りの安全運転で、ドライブは快適だった。
しかも、頭上には真っ青な空が広がっている。
朝はかなり冷え込んでいたが、日中は暖かくて風もない絶好のゴルフ日和だった。
飛び入りの二人連れオヤジと4人でコースを回って、昼過ぎに解散。
スコアもまあまあ。俺はいつもと同じくらいで83だった。
自己申告ではベストで90を切るくらいと言っていた片嶋も、88。
「片嶋って、ゴルフ上手いんだな」
「桐野さんこそ」
俺の方が断然飛ぶんだけど、寄せるのは片嶋の方が上手いかもしれない。
「転勤先でゴルフ三昧だったからな。けど、おまえ、そんなに頻繁にはやってないんだろ?」
「社会人になってからはあんまり行ってませんけど。でも、俺、高校の時からやってるんですよ」
高校??
そりゃあ、上手いはずだな。
まあ、一緒にやるなら上手いヤツの方が面白い。明日のゴルフも楽しめそうだ。
彼女とはゴルフなんてしたことがなかったし、こういうのはホントにいいなと思う。
スタートが早かったので、終わったのが2時。
そのまま片嶋の運転でドライブをして、景色なんかも楽しんだ後、ホテルに入った。
「じゃ、片嶋」
「はい?」
「約束通りに、な?」
もちろん、忘れるはずなどない。
本日のメイン。
けど。
「なに言ってるんですか。昼間から」
片嶋が俺の言葉に流される事もめっきり減った。
確かにまだ明るいんだけど、そんなにキッパリ断わらなくてもいいだろ。
まあ、それを口説き落とすのが楽しいんだけどな。
「じゃあ、とりあえず風呂に行ってみるか?」
「そうですね」
荷物を置いて、大浴場に向かったのが4時。
「夜中の2時まで入れるらしいですよ」
脱衣所に貼られていた案内を片嶋は真剣に読んでいた。
「ああ」
だから??
「夜中だったら泳げそうじゃないですか?」
片嶋って、マジに温泉好きなのか?
まあ、こんなに喜んでくれると連れてきた甲斐があるってもんだけど。
「夕飯の時に酒飲んだら、眠くなりそうじゃねーか?」
どうせ死ぬほど飲むくせに。
「いいですよ。桐野さんが寝てたら、一人で来ますから。遠慮なく先に休んでくださいね」
酒より風呂なのかな?
……だったら、家でも入れよ。
「いや。俺も行くけど」
2番目のメインが片嶋と二人でゆっくり風呂に入ることなんだから、置いて行かれるのは腑に落ちない。
設備や案内に気を取られていて、ぜんぜん服を脱ごうとしない片嶋を置いて、俺はさっさと風呂に入った。
時間が時間だから、ガキんちょが沢山いた。
水遊びをしているのを眺めながらボーッと浸かっていたら眠くなってきたので、20分も経たないうちに片嶋を置いて部屋に戻った。
仮眠を取って。
「桐野さん、夕飯です」
片嶋に起されて。
少し酒を飲んだら、また眠くなって。
「はしゃぎ過ぎですって」
片嶋に笑われて。
お休みなさいのキスをしてもらって、また仮眠。
よく考えたら夕べはほとんど寝てないもんな。
2時間後、わりとスッキリと目覚めて片嶋を見ると髪が濡れていた。
「片嶋、俺が寝てる間も風呂にいたのか?」
「露天風呂があるんですよ」
本気で風呂好きらしい片嶋が、深夜になったらまた風呂に行きたいと言うから、俺も付き合うことになった。
もちろん、その間は一度もさせてもらえなくて。
反動が来ても知らないからな??
後で困るの、おまえなんだぞ??
……まあ、半分は爆睡していた俺のせいなんだけど。
楽しそうに道路マップを見ている片嶋の背中を見ながら、こっそり愚痴をこぼしてみた。



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