パーフェクト・ダイヤモンド
ものすごくオマケ

ネコを拾いました。



<ネコなんだから>   


そんなこんなで。
片嶋との二人暮しはかなり楽しかった。
相変わらず撫でられれば「くすぐったい」とか「恥ずかしい」とか文句を言うくせに。
片嶋は毎晩ちゃんと狭いベッドに潜り込んできて、俺にぴったりくっついて丸くなる。
「桐野さん、」
「なんだ?」
「あったかいです」
ニッコリ笑うんだけど。
「おまえ、ネコなんだからさ、」
自分で熱を出せよ。
湯たんぽにもならないネコなんて。
って思ったんだけど。
「気持ちいいです」
目を細めてふわりと笑って。
おでこを俺の肩に押し当てたりするから。
「……まあ、別にいいけどな」
ネコなんだから。
こんなに可愛かったら、あとはどうでもいいよな。
だから。
「片嶋、」
魔が差した。
「はい?」
「ちょっと遊んでから寝よう。な?」
「え??」
片嶋はネコなんだけど。
遊ぶのがあまり好きじゃないらしくて。
「でも、もう夜ですよ。俺はいいですけど、桐野さん、明日も早いんですよね?」
こんな見え透いた説得を始めた。
「少しだけだから、な?」
「けど、」
片嶋はねこじゃらしにも、ボールにもねずみのおもちゃにも興味を示さない。
趣味といえばパソコンとテレビで。
唯一ネコらしい遊びと言えば、ムニムニしたクッションと戯れることくらいだった。
「でも、俺、もう眠いです」
ネコは夜行性だろ??
「おまえ、どういう育てられ方したんだよ??」
本当に、全てにおいてネコらしくない。
「普通に育ちましたけど」
こうやって何でもサラッと答えるところも。
『ネコ差別はやめてください』と言わんばかりの不満そうな表情も。
「おまえってさ、ネコの常識を覆すヤツだよな」
俺の認識は間違ってないと思うんだけど。
片嶋には何一つ当てはまらない。
「ネコにだって個性はありますから」
そりゃあ、そうだろうけど。
……これって個性とかいう問題か?
「片嶋、子供の頃からそんな?」
子猫時代を知らないから、どうなんだろうって思って。
でも、きっと可愛かっただろうなと思ったら、少し残念な気がした。
もっと早く出会って一緒に住んでいたら、ジャレたりはしゃいだりする片嶋だって見られたかもしれないのに。
「前の飼い主に遊んでもらわなかったのか?」
俺と遊ぶのが嫌って言われたら、かなりショックだけど。
「拾われたばっかりの頃は遊んでくれましたけど。でも、俺の他にもいろいろいて……別れる直前はもっと小さいネコを可愛がってて……」
そう言った時だけ、ちょっと淋しそうな顔をした。
きっとそいつは子供っぽいネコが好きだったんだな。
片嶋が大きくなったから、他のチビ猫に変えてしまったのかもしれない。
その辺のネコなんかより、片嶋の方がずっと可愛いのに。
趣味の悪いヤツだ。
「けど、おまえももうちょっと可愛く『遊んで』って言えば遊んでくれたんじゃないか?」
子供っぽいままだったら、もしかしたら別れなくても良かったのかもしれないと思って。
「気に入ったおもちゃとかでおねだりしてさ。今、いろんなのがあるんだろ。シッポを引っ張ったら動くネズミとか」
そんなことを言ってみたんだけど。
片嶋はクッションをムニムニ押しながら、眉間にシワを寄せて言った。
「だって……それじゃネコみたいです」

……おまえはネコだろ。

とにかく、片嶋に遊んでもらうまでの前置きはとてもとても長い。
いつもこんな会話を繰り返す。
それにもそろそろ慣れてきたけど。
「今日はなんでいきなり逃げの体勢なんだよ?」
ちょっと遊んでくれれば俺だって気が済むのに。
「だって、」
その続きは口の中でもごもごと言った。
「……桐野さん、変なことばっかりするから……」
思い当たることなんて何もなかったんだけど。
そんなこと言ってても、仕方ない。
とりあえずいつもの無理やりな手段に訴えた。
片嶋はやっぱりネコだから。
ムギュッと抱き締められたら身動きは取れない。
片嶋もいつもと同じで初めはバタバタ暴れたけど、そのうちに諦めてクッタリと体を預けた。
「そんなに嫌がるなよ。ちょっとだけだから。な?」
「でも……」
『でも』とか、『だって』とか。
片嶋はネコのくせに言い訳が多すぎるけど。
「嫌なら嫌って言えよ」
最終確認を取れば、ちょっと困ったように首を傾げて。
「……嫌じゃないです。けど……」
なんだかんだと文句は言っても、ちゃんと俺に付き合ってくれるから。
「片嶋ってさ、」
こうやってどんどん片嶋を好きになって行ってしまうんだな。
「はい?」
「可愛いよな」
そんな言葉にちょっとだけうつむいて。
「……一応、ネコですから」
またネコらしくない返事をした。

片嶋は、どんなネコよりもネコらしくないけれど。
やっぱり、世界で一番可愛いと思う。

「何して遊ぶ?」
片嶋を抱き上げて鼻先に顔を近づける。
パチパチと眠そうに瞬きをしながら、片嶋は渋々返事をする。
「……なんでもいいです」
ちょっと投げやりだ。
「じゃ、一緒に風呂入ろうか?」
体も温まるし、洗ったらふわふわになるし、と思って少し笑ったら。
「それ、遊びじゃありません」
片嶋にキッパリ否定された。
「楽しかったらなんでもいいだろ??」
片嶋は理屈っぽいところがちょっとだけ可愛くない。
そういうことを言ってたから、コロコロ無邪気に転げまわる仔猫に飼い主を取られてしまったんだろう。
そんなことを言っても、片嶋はまた『ぜんぜん平気です』って顔をするんだろうけど。
そんな強がりなところも。投げやりなところも。
俺は可愛いと思ってるんだけどな。
……なんて考えていたら。
片嶋が冷たい目で俺を見上げて言った。
「そんなの、ぜんぜん楽しくないです」


世界で一番可愛い俺の片嶋は、ときどきこんなことも言うけれど。
それでも。
「桐野さん、なんで笑ってるんですか?」
「まあ、気にするな」
やっぱり俺は片嶋のことが好きなんだよな。



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