パーフェクト・ダイヤモンド
ものすごくオマケ

ネコを拾いました。



<外面はいいらしい。>   


「おじゃまします」
そう言って俺の部屋に遊びにきたのは仕事仲間5人。
遊びに来た友人の中には会社が違うヤツもいるけど、みんな仲はいい。
「わあ、可愛い。桐野さんって猫飼ってるんですか?」
女の子の一人が片嶋を見つけて駆け寄ったんだけど。
片嶋はささっとバスルームに隠れてしまった。
「片嶋、なんで逃げるんだよ?」
追いかけて理由を聞いたが。
「……俺、女の子、好きじゃないんです」
なんだか難しいヤツだな。
「男より女の子の方が優しくていいだろ?」
まあ、片嶋だったら宮野だって阿倍だって、間違いなく可愛がってくれるとは思うが。
……あ、溝口はダメだな。
片嶋の背中にラクガキなんかされたら困る。
こんな風に俺はいろいろ心配してるつもりなんだけど。
「桐野さんは女の子の方が好きなんですか?」
片嶋のご機嫌は悪くなる一方で。
「……あのなぁ……」
俺は返事をする気が失せてしまった。
だってな。
この会話、なんかちょっとズレてないか?
でも、返事をしないでいたら片嶋がムクれたので。
「俺は片嶋がいればいいよ」
正直にそう言ったら、片嶋はパッと顔を輝かせた。
たまにそういう可愛いことをするから、俺は簡単に騙されてしまうんだけど。
まあ、ご機嫌も直ったことだし。
「じゃあ、アイツらにも愛想よくして向こうで大人しくしてろよ?」
けど。途端に片嶋は顔をしかめた。
「そういう顔をするなよ。女の子たちにはちゃんと片嶋を構わないように言っておいてやるから。嫌がるようなことをする子じゃないから大丈夫だって。な?」
女の子だけ差別するのもどうかとは思ったが。
片嶋が嫌なら仕方ないと思ったのに。
「でも……俺、男でも調子がいい人はあんまり……それに、頼りない人はもっとダメで、それから……」
どうやら片嶋は男の趣味にもうるさいらしい。
「わかったよ。なら、クッション持って来てやるから、ここで大人しくしてろよ?」
片嶋の気持ちを考えてそう言ったつもりなんだけど。
それはそれで不満だったらしく、また眉を寄せた。
まったく難しいお年頃なのだ。
やっぱり甘やかし過ぎたか……。
なら、たまにはビシッと厳しい態度で出てみようかと思って。
「いいから、ここにいろ。ジャマするなよ?」
キッパリとそう言ったんだけど。
「桐野さん、」
「ん?」
「……それって、いつ終わるんですか?」
俺をじっと見上げたまま、なんだか心細そうに言うから。
なんとなく可哀想になってしまった。
「だったら、膝に抱いててやるから、一緒に向こうに行くか?」
手を差し出したら、片嶋がギュッとしがみついてきた。
片嶋はネコなんだけど。
ときどきそう思えない時がある。
「片嶋、」
顔を上げた瞬間、小さな口にキスをしたら。
驚いた顔の後、ちょっと恥ずかしそうな顔をした。
「他のヤツには触らせないから。俺の膝を降りるなよ? ちゃんと大人しくしてろよ?」
頬を撫でて、もう一度キスをして。
「……大丈夫です」
うつむいたままの片嶋を抱き上げてリビングに連れて行った。
もちろん、みんな俺と片嶋を待っていて。
「わぁ、顔も可愛いですよね。毛もツヤツヤ」
やたらと構いたがるんだけど。
「触るなよ。俺以外のヤツに触られるの嫌がるから」
押し寄せる手から片嶋をガードしながら、膝に乗せた。
片嶋は俺にだけ分かるように、ちょっとだけニコッと笑った。
そんな片嶋を見て緩んでいたら。
「なあ、桐野」
溝口がニヤニヤ笑いながら口を開いた。
「おまえって実は親バカになるタイプだったんだなぁ」
そう言いながら片嶋の頭をつつこうとして、手を出した瞬間に長いしっぽでビシッと引っ叩かれていた。
……ほら見ろ。片嶋をその辺のネコと一緒にするからだ。
でも、溝口は笑ってた。
「すっげーお姫様っぷりだな。桐野、甘やかし過ぎなんじゃないのか?」
「んなことねーよ」
っていうのは嘘だけど。
だってな。
こんなに可愛いんだから甘やかしたくなっても仕方ないだろ?
「やだ。桐野さん、顔が緩んでます」
女の子に笑われて、慌てて顔を元に戻した。
「名前、何て言うんですか?」
宮野が聞いて。
「片嶋」
俺が答えて。
変な名前だよな、って言われるかと思ったのに。
「可愛い名前ですね。片嶋く〜ん」
宮野は喜んで片嶋を呼び続けてた。
まあ、感性なんて人それぞれだから、『片嶋』って名前を可愛いと思うのだって宮野の勝手なんだけど。
でも。
「片嶋く〜ん、こっち向いてよ〜」
……おまえまで緩んでどうするんだよ。
俺の膝に丸くなってる片嶋を、面白がってみんなが一回ずつ呼んでみたんだけど。
「片嶋〜」
「片嶋クン」
片嶋は知らん顔してた。
「返事しないんですね。自分の名前だってわからないのかなぁ?」
女の子たちはちょっとガッカリしてたけど。
「桐野が呼ばないとダメなんじゃないか?」
溝口がまたニヤニヤ笑いながら俺をつつくんだけど。
たとえば俺が呼んで、片嶋が答えてくれたとして。
片嶋のことだから、いつものように『なんですか?』なんて可愛くない返事をするかもしれないし……
いや、その辺は心得ていて、ちゃんと『にゃあ』と返すか……?
う〜ん……
だとしても、あまりにもヘタクソな『にゃあ』だから変に思われるかもしれないしなぁ……
俺の脳裏を片嶋のドヘタな『にゃあ』が通り過ぎて行く。
しばらく悩んでいたけど。
「ほら、桐野。もったいぶってないで呼んでみろって」
溝口に急かされて。
仕方なく。
「……片嶋」
ちょっと心配しながら呼んでみたんだけど。
期待のこもった視線が見守る中、片嶋は俺を真っ直ぐに見上げて。
とびっきり可愛い声で「にゃあ」と鳴いてみせた。

なんだ。やればできるんだな。
っていうか。


……いつもの投げやりな『にゃあ』は何なんだ?



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