パーフェクト・ダイヤモンド
ものすごくオマケ

ネコを拾いました。



<冬はやっぱり>

季節柄かアットホームな番組ではコタツの登場回数が多くなっていて。
それを見た片嶋が。
「こたつって便利なんですか?」
ものすごく真面目な顔で聞くんだけど。
「片嶋の家にはなかったのか?」
ネコがいる家庭にしては珍しいなと思ったんだけど。
「全室床暖房だったので」
その言葉に妙に納得した。
ということは。
ホットカーペットしかない俺の部屋は、片嶋にはちょっと寒かったのかもしれない。どうりでいつでもクルリと丸くなってたわけだ。
そんなことを考える間も片嶋は興味津々といった表情でテレビを凝視しているもので。
「片嶋、コタツ体験しに行こうか?」
気分転換を兼ねて外出することにした。
行き先は『日本の冬はコタツとミカンだ』と言い張る溝口の部屋だ。
女子を連れ込むためにそこそこ片付けているはずなので、足を踏み入れて不快になることもないだろう。
だが、片嶋にはやはりピンと来なかったらしく。
「あったかいんだぞ?」
そう言われた後もいまいち興味なさそうな顔のまま、でも一応「はい」という返事をした。

そんな流れで。
とりあえず溝口に電話をしたら、
『いいよ。ちょうど退屈してるんだ。……あ、食い物買って来てくれ。ショウちゃんとおまえのオヤツ。もちろん俺も食うけど』
もともと手ぶらで上がりこもうとは思っていなかったが、指示通りにつまみ持参で溝口の部屋に行った。
「意外とキレイなんですね」
本当に意外そうな面持ちで若干棘のある発言をしたのは片嶋で。
「桐野んちとどっちがキレイ?」
聞き返した溝口に、
「もちろん桐野さんちです」
大真面目な顔で即答したのも片嶋だった。
片嶋がどんなに失礼でも溝口がそれを気に留めることはない。すぐにご自慢のコタツに案内してくれた。
「中に入ってもいいぞ」
溝口がコタツ布団をめくると、片嶋は思いっきり不審そうな顔をした後で、俺を振り返りながら中に入っていった。
だが、10秒もしないうちに出てきてしまった。
「暑いです」
どうやらコタツはあんまりお気に召さなかったらしい。
しかも、
「どうよ、ショウちゃん。いいだろ、コタツ」
溝口に聞かれて、「あんまり」と正直に答えていた。
「なんでだよ。あったかくて気持ちいいだろ? 日本の冬って感じでさ。あ、ショウちゃん、もしかして上に乗ってるミカンが嫌だったのか?」
片嶋はネコだけど、みかんは好きだ。
ちゃんと自分で皮を剥いて食べる。
「じゃあ、なんでだよ?」
溝口の更なる質問に、
「だって、テーブルの上が見えません」
口をへの字に曲げたままちょっと顔を上げて見せた。
うちはガラスのテーブルなので、真下からでも机上の状態がわかる。
でも、コタツだと片嶋の背丈ではテーブルの上は未知の世界になってしまうのだ。
それが気に入らなかったらしく、
『こたつは楽しくなかったのでもう帰ります』
そんな顔で俺の足をつついた。
片嶋がそう言うなら仕方ないなと思ったんだけど。
「チッチッチッ、ショウちゃん、それは使い方が間違ってるんだよ」
溝口が得意げに口を挟んで。ついでに、
「コタツのときはショウちゃんはそこじゃなくて桐野のひざの上に座るんだよ」
そうすればテーブルも見えるだろ、と言われて。
その瞬間に片嶋の黒目の部分がパッと大きくなった。
どうやら片嶋はコタツの四辺に一人ずつ座らなければいけないのが気に入らなかったらしい。
案の定、ひざの上に乗せたら、テーブルの上なんて見もしないで俺と向かい合っていた。
「でも、桐野さんが寝転んだ場合はどうするんですか?」
自分のポジションまで心配するあたりが片嶋らしいけど。
「桐野が寝転がったら、ショウちゃんは桐野の腹側にある布団の隙間に入るんだよ。ほら、こうすると三角に隙間ができるだろ?」
俺をわざわざ横にして、溝口が説明すると、片嶋が隙間にもぐりこんできた。
「どう、ショウちゃん。コタツいいだろ?」
溝口に聞かれて、今度は片嶋も真面目な顔でちょっと頷いた。
それから、「掃除するの大変じゃないですか」とか、「部屋が狭くなりますよね」とかいろいろなことを溝口に確認してたけど。
「掃除はショウちゃんも手伝ってやればいいだろ? それに、冬は部屋が狭いほうが暖かく感じていいんだって」
「……そうですか」
そんな遣り取りをした後、片嶋はコタツ布団を手でつつきながら、しばらく考え込んでいた。



帰る頃には片嶋もすっかりコタツに馴染んで、部屋を出るときには少し名残惜しそうな顔さえしていた。
それがなんだか可愛かったから、帰りは少し遠回りをして、大型電気店で車を止めた。
「どうしたんですか?」
最初、片嶋は不思議そうに俺を見上げていたけど。
「コタツ買って帰ろうか?」
そう言ったら、一瞬パッと顔を輝かせた。
なのに。
「でも、もうすぐ春です」
こんな時でも片嶋はとても現実的だ。
本当は欲しいんだろうってことは分かっていたから、なんとか片嶋が「うん」と言いやすい理由を考えることにした。
「オフシーズンの今なら安くなってるかもしれないだろ?」
その言葉を聞いた片嶋は、助手席にちょこんと座ったまま、やっぱりキリッとした顔でコクンと頷いた。


行ってみたらコタツは本当にすっかりバーゲンになっていて、
「なんだ、結構安いんだな」
コタツ布団など一式揃えたとしてもそれほどの金額にならないことが分かった。
「いいんですか?」
カード払いのサインをする俺を見ながら片嶋は一応そう聞いてきたけど、シッポはすでにピンピン動いていて。
「ああ。帰ったら早速コタツ生活だな」
素直に「欲しい」って言わないところが片嶋らしいよな、なんて思いながら、少しだけ笑ってしまった。



帰ってすぐに大騒ぎをしながらコタツを出して、
「片嶋、スイッチ入れて」
そう言ったら、小さな手がボタンを押した。
「暖かくなってきました」
コタツ布団に顔だけ突っ込んで、片嶋が実況中継をする。
それを見ながら、おやつと飲み物をスタンバイして、テレビをつけた。
寝転がったとたんに片嶋がこたつの中から顔を出し、すっぽりと胸元に収まると、冬毛でふんわりした毛並みが時折り頬に当たった。
「もうちょっと温度上げるか?」
そう聞いてみたけど。
「桐野さんがあったかいからちょうどいいです」
にこにこしながら俺のシャツにつかまっている手が、また妙に可愛かった。
日本の冬は、こたつとみかん。
それから、ご機嫌でふわふわの片嶋。
「桐野さん」
「ん?」
「コタツって楽しいですね」
「……そうだな」
そう答えて。
胸元で楽しそうにテレビを見ている片嶋のおでこにキスをした。



もうすぐ春。
暖かくなったらコタツは要らなくなるけど。
その時はまた別の楽しいことが待っているに違いない。


                                 end



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