【一応接客係:ネコ麻貴のお客様】


店のナンバーワンの名前は「麻貴」。
女の子のような名前の男の子で、ぬいぐるみに間違われるほど動きが少ないのが特徴です。
他の猫たちに比べてものすごく稼ぎがいいというわけではありませんでしたが、血液型がB型で店名と同じだからという理由で看板扱いにされました。
表向きはナンバーワンなので王子様扱いされていましたが、本人は特に偉そうでもなく、ただ毎晩面倒くさそうにソファでコロンと寝転んでいるだけです。
大変ネコらしい性格のため、どんなに金持ちの客が来ても何のサービスもしないのですが、ふわふわの毛並みは撫で放題、膝に乗せるのも抱っこも思う存分楽しめるので、お客様にはとても好評でした。


そんな仔猫には収入の大半をつぎ込んで通いつめる大バカ者……訂正、「得意客」がいました。
「麻貴ちゃん、今日も可愛いな。ツメ切ってあげようか? それともブラッシングがいいかな?」
特別に作らせたお世話道具も持参です。
毎日来ては勝手に下僕と化してデレデレしているだけなのですが、昼寝の邪魔なので子猫はとても迷惑に思っていました。
しかも、蹴飛ばしても引っかいてもパンチをしても、まったく効き目がありません。
「んー、麻貴ちゃんのおてて、可愛いな」
かえって喜ばれてしまうので腹立たしい限りでした。


子猫は考えました。
そして。
「相談? 客を追っ払う方法ないかって?」
店が開く前、オーナーに尋ねてみたのです。
でも、質問そのものを即座に却下されてしまいました。
「駄目に決まってるだろ。お客様は神様なんだから。神様って分かるか?」
子供にはちょっと難しい質問だったかもしれない。
そんなオーナーの心配をよそに子猫は即答しました。
「まよねーず」
もちろん真顔です。
「……まあ、何を信仰しようが自由だからな」
とにかく接客担当がこんな態度では店の評判に響きます。
その心構えは間違っているということを小さな猫にも理解できるよう説明しなければなりませんでした。
「まあ、あれだ。分かりやすく言うと金づるだな。どんなに鬱陶しい客でも財布の中には札が入ってる。明日のおいしいご飯になるんだぞ。マヨネーズも食べ放題だ」
ストレートで身も蓋もない言い方でしたし、何より子供にその説明はいかがなものかと思いますが、「おいしいご飯」のフレーズが効いたのかマヨネーズに釣られたのか、十分に主旨は伝わったようでした。
雇い主の言葉のあと、子猫はまた考えました。
「なんだ? 今度は特定の客だけ避ける方法か? そうだな、別の、そいつよりずっと金持ちの得意客を作ればいい。それなら俺も協力するしな」
その手があったか!
……と思ったかどうかは判りませんが、子猫は神妙な顔で頷きました。


そして、開店時間。
「麻貴、こら。起きろ」
オーナーの期待に反し、子猫の態度は普段と何も変わりありませんでした。
「新しく金持ちの客作るんじゃなかったのか?」
そんな耳打ちにも子猫はグルンと寝返りを打っただけ。
そうです。
もともとマイペースな子猫はつい数十分前の自分の決心さえすっかり面倒になってしまったのでした。
そんなわけで。
「麻貴ちゃん、今日もかわいいでちゅねー」
ゆるゆるサラリーマンはその後も一番の得意客のまま、給料のほとんどを注ぎ込む日々を送るのでした。
めでたし、めでたし。



  -Fin-


Home   ■Novels   ■PDネコ部屋      <<Back ◇ Next(フロア見習い)>>