Christmas



-3-

夜中にふと目が覚めた。
酒を飲みすぎた日には時々そういうことがある。
つまり、トイレに行きたくなったのだ。
意識がそこそこはっきりした時、真っ先に背中にピッタリとくっついた宮添の体温を感じたが、躊躇なく腰に回された腕を引き剥がしてベッドからの脱出を試みた。
だが。
「……なんで俺のパンツの中に腕通してんだよ。つか、抜けねー」
上から突っ込まれた腕は腿まで見事に突き抜けていて、無理に腕を抜こうとすると伸び切る予感がした。
「女と間違えてンじゃねーよ、ヘンタイ」
仕方ないので潔く全部脱いで目的の場所に行き、そっと戻って何もなかったかのようにまたコイツがすやすや寝息を立てながら温めてるベッドにもぐりこんだ。
「うは、あったけ」
だが、チラリと布団をめくると先ほど置き去りにしたブツはすっかり腕に絡め取られている。
しかも、
「返せ、俺のパンツ」
奪い取ろうとした瞬間に寝返りを打たれてしまい、その布キレはヤツの体の下敷きになった。
「くそー。めんどうなことすンな」
耳元で一分ほど悪態を吐いてみたが、眠気と酔いのせいで頭は働かず、そのへんから新しいパンツを出してはこうなんてことも思いつくこともなく。
「もう知らねー」
面倒になって何もはかないまま寝直した。


窓の外は厳かな聖夜。
俺も安らかな気持ちでぐっすり眠って朝を迎えて……となるはずだったのに。
「う……ん」
またしても目が覚めてしまったのは、首筋がやけにくすぐったかったせいだ。
「……な……んだよ。せっかく気持ちよくエロい夢見てたのに……」
あとちょっとだったんだぞ、と言いながら、やべぇと思ったのはその夢の効果が絶大だったことに気付いたからだった。
妄想ドリームにダイレクトな反応をしまくる下半身。
しかもその部分は何一つ纏っていないわけで。
布団でも剥がされようもンなら、一発でソレと分かる。
なのに。
「久乃木、そのまま寝てろ」
宮添は俺を後ろから羽交い絞めにしたまま耳元でそう呟いた。
「はぁ? つか、おまえ、いつの間に起きて……うわっ」
ただでさえ怠くて頭がボーッとしているというのに。
そのうえ背中からムギュッと抱きしめられた状態では本当に身動きが取れなくて、もぞもぞしている間にヤツの唇が耳たぶに吸い付いた。
「うわあああ……っ」
同時にその手が問題の場所に伸び、しっかりとソレを握った。
「あ、ばか、やめ、おま、よっぱらってンじゃねーぞ」
普段なら宮添は酔ってもあまり変わらない。
饒舌になったりテンションが高くなったりすることはあるが、さすがにコレは……
「いいから黙ってろ。すぐ終わる」
「おまえ、ヤバいって―――」
いや。ヤバイのはむしろ俺。
触れているのがコイツだったとしても体はイヤになるほど正直で。
「う……あ、はっ」
そんなつもりはないのに思いっきり息が漏れる。
「ナンだよ、久乃木。おまえって声出すタイプか」
ヤバイな、と宮添も少し掠れた声で呟いて、それが一層俺の中の何かを煽る。
「ヤバイって……何が……あ、っ」
そんな会話の間にクチュと濡れた音が聞こえ始める。
「こーゆーの、実際聞くとすっげークるんだよ」
声は笑っていたが、密着させたヤツの下半身にはしっかりと異変が。
「わ、なんだ、おまえ……ちょっと待てっ」
「騒ぐな。挿れねーから、脚閉じて腿に力入れてろ」
ヌルヌルしたものが擦り付けられる。
その感触が気持ち悪いとか、そんなことを思うことがなかったのは、ヤツが与える刺激のほうに意識の全部が集中してしまったせいだ。
というか、ここで萎えなかった自分はマジでヤバイ。
しかも気分は盛り上がる一方で。
「あ、あ……っ、も、マズいって……あっ……あ」
「久乃木、おまえ酒のせいかいつもと声が――」
「声なんてどーでも……う、ぁは……っ」
しかも、しばらく自分でもヤってなかったせいで限界が見えるまでの時間も短かった。
「いいから、達けって。俺も出すから」
「え、ヤメロってか、布団が汚れ……ぅあ、あ……んっっ!!」
放ったものはそれを握っていた手が受け止めたが、やはりいくらかはパタパタとシーツの上にこぼれていた。
ヤツの出したものは俺の脚をべったりと濡らして、やっぱり下まで流れ落ちた。
「うぁ、気持ち悪ぃ……」
わずかに汗ばむ肌。
その上をタラーっと滑るドロリとした液体。
「けどスッキリしたろ? ほら、ティッシュ。てか、おまえの濃過ぎる」
いきなり目の前にかざされたのは薄明かりの中でさえ濡れてヌラヌラ光る宮添の右手。
自分のものなんて見飽きているはずなのに、何故か今夜に限って直視できなかった。
「んなもん見せンなっ」
わざとらしいほど顔を背けると布団を被ったままサッサと自身のヌラヌラを拭き取った。
丸めたティッシュはゴミ箱方面に適当に投げて、入らなかったものは見なかったことにして。
「シーツ替えるのめんどーだからコレ敷いとけ」
家主である宮添の命じたとおり、汚れた箇所にバスタオルを広げ、その上に転がると頭まで布団をかぶった。
「……パンツ返せ」
「明日な」
「落ちつかねーよ」
「大丈夫だ。寝たら忘れる」
確かに股間にパンツが不在だというくらいで眠れないほど俺も繊細ではなく。
「宮添、パンツは?」
「はいてねェ」
そんな言葉を含めた現実から目を逸らすことを優先した結果、やっぱりあっという間に眠り落ちた。



気がつくとゆるやかに二日酔いの朝。
「……俺ら、最低だな」
いっそのこと酷い二日酔いで死にそうになってた方が照れくさくなかったのに。
「別にいんじゃねェの? たいしたことじゃないだろ」
「……そうか?」
すべすべのシーツとは違うタオルの感触を腰の辺りに感じながら、夕べのことをまざまざと思い出す。
俺は結構一大事だと思っているのにコイツはまったくどうでもいいらしく、涼しい顔でペットボトルの水を飲み干していた。
「起きてどっか遊びに行くか?」
いたってフツウ。
というか、変わりなさ過ぎ。
「……だりーよ」
どんな顔で並んで歩けというんだろう。
俺でさえ普通に備わっている羞恥心というモノが宮添の中にはまったく存在しないのだろうか。
現に、次に宮添が口にした言葉はヘンタイまっしぐらで。
「このままおまえが無パンツでゴロゴロしてたら、俺、今度こそズッポリ根本まで突っ込むぞ」
どのツラでそんな暴言を吐いてンだと思ったが、チラリと盗み見たその顔は恐ろしいことにいつもとまったく同じだった。
「おまえ、実はまだ酔ってンだろ。今すぐ女探してヤらせてもらってこい。その前に俺のパンツ返せ」
寝転んだままキッと見上げたら、顔の上にパンツが降ってきた。
「ムキになンなよ。一人で出しても女とヤっても俺に抜かれても一緒だろ?」
どういう理屈だ、それは。
「ぜんぜん一緒じゃねーよ。つか、おまえはおんなじなのかよ。可愛い彼女でも、俺のフトモモでも?」
もぞもぞと布団の中でパンツを装着しながら尋ねたら、宮添がマヌケ面で天井を仰いだ。
「ああ?……まあ、同じじゃねェな」
「ほらみろ」
「てか、おまえが思ってンのとは違う方向で」
「はあ? わけわかんねーよ。俺に分かる言葉で話せ。つか、説明しろ」
「めんどくせェ」
まったく呆れて返す言葉がない。
「今日も絶好調に勝手なヤツだな。どーしておまえのようなヤツと友達になったのか不思議でしょうがねーよ」
コイツとの五回目のクリスマスの朝は何だか非常にビミョーな感じで迎えてしまい、どうしていいか分からなくなった俺は半ば自暴自棄で迎え酒を呷り、その後は二度寝を決め込んだ。
「ぷはー。さすがに日本酒一気はクルなぁ……」
そんなヤケ気味の俺の隣では、宮添がなぜかわりと真顔で天井を見つめていて。
「久乃木」
「あー?」
「年明けたら初詣行こうぜ」
「あー?」
「『あー』じゃねェよ。初詣だ。おまえヒマだろ?」
こういう決め付けがムカッとくるンだが。
だからといって否定できない自分が情けない。
「どーせ俺はおまえと違って年が明けようが春になろうがもういっぺんクリスマスが来ようがカノジョなんてできねーよ」
大きな世話だ。
つか、その気になればいつでもできるっていう彼女と行きやがれ。
……とは思うが、一人で正月を過ごすのも退屈だからしぶしぶ頷く。
「じゃ、そーゆーことで。大晦日から俺ンち集合」
「なんでおまえンちだよ?」
「ココの方が広くてキレイだからだ。悔しかったら反論してみな」
「……できません」
正月まで男同士の不毛な約束。
今だって世間は華やかなクリスマスだというのに。
俺ときたら、昨日コイツと出し合ったベッドでパンツ一枚のまま、心地よく酒が回りはじめて忍び寄る睡魔と格闘中。
「……うー、なんか背中があったけー。でも、首がくすぐってぇ……」
またしても宮添が背中に張り付いているってことが半眠り状態でも認識できて、またビミョーな気分になる。
「いいから寝てろ。別にナンにもしねェから」
「ったりまえだっつの……」
ここで油断したらまた昨夜のような事態にうっかり陥ってしまうかもしれない。
だが、アルコールのせいで気分はすっかりイイ感じになっていて、意識はそのままストンとどこかへ落ちてしまった。
夢の中だというのに、なぜか時折り背中や腹やその下辺りにさわさわとした感触が走り抜けるのだが、それは気のせいだ思うことにした。


12月25日はクリスマス。
だが、俺らには何の関係もない普通の日。
ただひたすら温かい布団の中で、のんびり平和に過ぎていくのであった。


                                         end

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