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そろそろイイ感じに酔っ払い始めた時、かかってきた電話は女の声だった。
『久乃木? あけましておめでとう。もしかしてもう飲んでるの?』
「悪ィかよ」
女と言っても高校の時同じクラスだったヤツで、色気など皆無だ。
内容も「三日にぷちクラス会をするから来ない?」というありがちな誘い。
「今年は実家帰らねーし」
今年は、というか、『今年も』だけど。
『なんでよ、近いのに』
「イロイロ面倒だろ?」
『まあねー、うちもそうだなぁ。10時までに帰ってこいとか外泊は絶対ダメとか、もうホントありえないって』
そうなのだ。
ちゃんと大学行ってンのか、とか。
だらしない生活してるんじゃないのか、とか。
彼女の一人くらいいないのか、とか。
ちょっと考えただけで眩暈がしそうなほど鬱陶しい。
「ま、そンな感じだな」
お互いため息を吐きつつ、家族の愚痴と高校時代の思い出話をちょっとだけして電話を切った。
「江藤だった。宮添ンとこにもくるぞ、きっと」
「ああ、昨日かかってきた。おまえが寝てる時に」
「あ、そう」
だったら教えてくれればよかったのにと思ったが、わりとどうでもよかったのでそのまままた酒のビンに手を伸ばした。
「久乃木」
「あー?」
「俺、結構嫉妬深いらしい」
いきなり何の話だと思ったが、振り返ると宮添の目が据わっていた。
「ふーん。そうは見えねーけど」
つか、過去一度たりとも女に執着したことなどなかったような。
「俺もそう思ってた」
「なんだそりゃー。つか、そーゆー話はまず告ってからだろ」
彼女がいない時には関係のないことだ。
だが、最近の宮添はちょっと変なのでそんな言葉にさえあからさまに「ふう」という顔をした。
「あのな、久乃木」
「あー?」
「おまえ、クリスマスの時に好きなヤツいるなら初詣にでも誘ってみろって言っただろ?」
「あー、言った。つか、誘ったのか!?」
いきなり身を乗り出した俺を見て若干引いているのが判ったが、酒の肴には絶好の話題で、しかも滅多にそんな話をしない宮添の相談なのだから楽しくないはずがない。
「……まあな」
「ンで、OKもらったのかよ!?」
「もらった」
「だったら何で俺と行くよ? 先に他のヤツと行ったって分かったらたとえ相手が男で徒歩三分のお手軽初詣でも嫌がるンじゃね?」
少しは考えろ、女タラシのくせに、つかマジでバカだろ……と、ここぞとばかりに思いつく限りの暴言を飛ばしておいたが、ヤツはやっぱり「ふう」と肩が動くほど深いため息をついただけだった。
「あ、もしかして下見か? そっか。おまえ本命には弱いみたいだったもんなー」
そうかそうかと納得していたら、また思いっきり呆れ果てたような「ふうぅぅ」が。
「何そのビミョーな反応は?」
真剣に相談してるのかと思いきや、どうも俺をバカにしているような。
挙句の果てにはヤツ当たり。
「新年だから一応決意もしたってのに……まったくおまえは」
「何の決意だよ。つか、俺にはカンケーねぇだろ」
お互い酔っ払いだから仕方ないのだが、話がかみ合わない。
「久乃木が女にモテない理由が分かった」
「どうせ俺はおまえと違うよ。つか、俺を友達と思ってるならその原因とやらを教えろ。俺がモテまくるようになってもおまえの女だけは取らないって約束するぞ」
そのとき俺がわりと真顔だったせいか、宮添もしばらく考え込んでいた。
なのに。
「……絶対に教えねェ」
結局はその返事。
「はあああ? 俺が女にモテるようになるのがそんなにイヤなのかよ?」
「嫌だ。考えたくもない」
「あ、そー」
なんか無性にムカついたが、酔っ払い相手に怒ってもムダなので酒で流すことに。
「もういい。飲め。おまえなんて潰してやる」
「どうせおまえが先に潰れるくせに」
その言葉にまたムカッときて。
キッチンまでダッシュして、リビングの床にありったけの酒ビンを並べて臨戦態勢。
「できるもンならやってみろ」
そう言い放ったものの。
「本当にいいんだな?」
そんな宮添の返事に怯んでしまい、慌てて笑いを浮かべて「カンパーイ」などとごまかしてみたのだった。
そしてまたヒマに任せてグラスを傾ける。
テレビをつけたが酔いが回ったせいか脳を素通りしていくので、後はひたすらぼーっとしていた。
「なーんか、晴れてきたぞ。太陽がまぶしい。っつか、まだ午前中かぁ。何やってんだろーな、俺たち。あはははは」
床に座ったまま顔だけベランダに向けて空を仰いだ俺の前に、何故か突然宮添がひざまずいた。
「な……ンだよ?」
尋ねてみたが、答えはないまま。
「だから、なンだって聞いてンの」
ずずっと顔だけが近づいて。
「宮添ってば」
思わず体を後ろに引こうとしたが、背中にはベッドの角が当たっており。
「ちょっと待てぶつかるって……おい」
そのまま成す術もなく唇が重なった。
「おまえっ、酒グセ悪ィぞ!」
宮添とは長い付き合いだし、お互い死ぬほど酔っ払ったことも一度や二度でなく、思い出したくないほどバカなことをした記憶も数え切れないほどあったし、この程度なら笑って流すまでもないんだが。
「俺は酔ってない」
宮添は涼しい顔で否定すると当たり前のように俺のすぐ隣に座った。
それも肩が触れるほど近い距離だ。
「ウソつくんじゃねーって。目ぇ据わってンじゃねーかよおおお」
もう酔っ払いの度合いどころか自分の体の幅も分からないのか、コイツ。
そんなことを考えながら俺がズズっとズレてみたのだが、少しでも離れるとまたすぐに密着される。
「ンだよ、酔っ払い。ちゃんと自分の定位置に座れってーの。だいたい男にキスして楽しいかよ?」
そんなことを言ってる間に俺の体は壁に押しつけられ、逃げ場がなくなる。
そして、そこでの宮添の一言が。
「明日の朝、一滴も飲んでない状態でさっきと同じことしてやるよ」
「あー?」
われながらマヌケな返事だ。
だが、宮添も明日になればすっかり忘れているだろう。
そう思いつつ、とりあえず窮屈な場所から脱出しようと試みたが、どうやら俺も相当酔っていたらしく脚に力が入らない。
中腰になるよりも前に体はズルリと横に崩れ、倒れたのは宮添のいる方向。
どんなに酔っててもそれなりに避けるだろうと思っていたのだが、何故かそのまま座ってたもンで、俺はすっぽりと宮添の腕の中にハマり込んでしまったのだった。
「……受け止めなくていいから、退いてくれよ」
文句を言ったが、それも即座に却下された。
「頭でも打って怪我でもしたら後が面倒だろ。病院も近所のドラッグストアも今日は休みだ」
そりゃあ、まあ、もっともだけど。
「……おまえって酔ってても言うことはマトモなんだよなー」
酔っ払いのくせにと心の中で呟いた瞬間、冷たい視線が。
「酔ってない。さっきからそう言ってるだろ」
「あー、そうだったなー。わかったわかった」
もう何を言ってもムダらしいので適当にあしらう。
「とりあえず起こしてくれね? 体に力が入らねーし、腕が変なとこに――」
その上、酒が絶好調に回ってるせいで睡魔がひたひたと忍び寄っていた。
窓の外は真っ昼間の空だというのに。
それ以前に、さっき起きたばっかだろーよ、俺。
「また眠いってヤバイよなぁ」
ぼんやりと視線を戻すとこちらを見下ろしていた顔が近づいてきて。
「う……ん? 何だよ……っつーか……んっ、ふっ」
またしてもキスされて。
しかも。
「ちょ、待て……っ」
いつの間にかウエスト部分のボタンを外されたジーンズの中に熱を持った手がスルリと滑り込んでいた。
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