No Good !
- 2 -



勢いよくトイレのドアを閉めて座りこんだ。
ビールに濡れた唇から覗く堂河内の舌先が絡みつくところを想像し、ビキニパンツの下を妄想する。
「……ん、ッく……」
脳天が真っ白になるほど気持ちよく放出した後、俺は涼しい顔で部屋に戻った。
それにしても、三回立て続けに抜けるなんて、俺もどうかしてるよな…なんて変に感心しながら。
堂河内はソファに座ってテレビを見ていた。
「寝ろよ。朝、起こしてやるから」
「ん? なんで?」
俺は目線で部屋の隅に置かれている私服を指し示した。
「ああ、朝がいい?」
……朝が……いい??
俺は堂河内の言う意味がわからなかった。
「あれ? 吉田に聞かなかったのか?」
「何を?」
「ゴムの件」
同行してもらった帰りに買ってたことを聞いただけだ。
あ、そう言えば……
「ああ、何か言ってたな。堂河内がすっごい楽しみにしてるって……」
けど、それが今の会話と一体なんの関係がある?
「あれ、海瀬にプレゼント」
はあ??
「俺はそのために早く寝て、起きたつもりなんだけど、海瀬が朝って言うならガマンして待つぜ?」
……え……?
目が点になっているだろう俺に堂河内がニッカリ笑って付け足した。
「ごめん、海瀬。実は昨日、バーに行ってニイさんに聞いちゃったんだ」
ぐっがーん……
あの、おしゃべりオカマ野郎!!
内緒にするって約束したのに、結局、喋ってんじゃねーか。
「お祝いにローションくれたぜ。すっごくいいから使ってみろって」
「お祝い? 何の??」
「俺と海瀬に対するお祝い。むろん、海瀬がOKした場合だけど。」
つまり、それは、その……?
「俺、オトコは初めてなんだ。優しくリードしろよ?」
呆然とする俺に極めつけの一言。
「黙って寝てれば海瀬が勝手に乗ってくれるってニイさんが言ってたけど? ニイさんと寝た事あんの?」
「ねえよっ!!」
まったく!!
「え? じゃあ、俺、からかわれた?」
「たぶん、そうだろ」
いや、そうなのかどうか、俺にはわからないが……
「せっかく、ゴム買ってきたのに」
あっけらかんとそう言われても笑う気力もなかった。
堂河内も真面目な顔になった。
「……なあ、海瀬、俺のこと好き?」
面と向かって聞かれるとは思っても見なかった。
急速に顔が赤らむのが自分でもわかった。
堂河内はそんな俺の態度を前向きに受け留めたらしい。
「じゃあ、ニイさんの言ったこと、あながち嘘でもないんだ? なら、抱いてもいい?」
それにさえ何の返事もできない。
こんなチャンスはないって言うのに。
この期に及んでなんで照れてるんだ、俺は。
「もしかして、海瀬、タチなの?」
それには慌てて首を振った。
「なら、いーじゃん。な?」
俺はあたかも目線を落とすついでのようにして、少しだけ頷いた。
のどが渇いて声なんて出そうになかった。
「よかった。せっかく勝負パンツはいてきたのに」
堂河内がケラケラ笑って俺の目の前に立った。
股間が、ほんとに目の前にあった。
「先に言っといたら海瀬も勝負パンツはいてくれた?」
堂河内はかがんで俺の顔を覗きこみながら笑った。
「……アホ。そんなもん持ってねーよ」
夢にまで見た堂河内のやわらかい唇が押し当てられた。
男二人で座るには狭いソファに体を押しつけあって唇を貪った。
けど、堂河内が大事なことを思い出したように「あっ」と言うから、その甘い行為は中断された。
「なんだよ?」
もう、いいところなのに。
「そう言えば、海瀬、抜いてきちゃったんだよな?」
「……え、あ……? うん?」
そんなこと、俺も忘れてたよ。
堂河内の手がトランクスの上から俺の股間を撫でた。
「なんだ。全然、大丈夫みたいだな」
ぼそっと耳元で呟かれて、俺は赤面した。
三回抜いて、まだ勃つか??
我ながら信じられない。


抱き起こされてベッドに移動した。
それより堂河内は俺相手に勃つんだろうか?
男は初めてだって言ってたのに。
それより、ニイさんは何て言ったんだ?
なんで一気にここまで発展してしまったんだ?
俺にはどうもよくわからなかった。
頭の中はぐるぐると無駄にいろんなものが巡っていた。
そんな俺の傍らで堂河内は真剣な顔をしていた。
そっと俺に覆い被さった。
抱き締められた時、腹にしっかりとそれが当たった。
ふうん……大丈夫そうだな。
俺相手に欲情するのかという基本的な心配はしなくてもいいらしい。
だが、それとは別の心配が……
「ど……堂河内……」
「なんだ?」
俺は手でそれを確認した。ビキニから完全に顔を出している。
「……はいんないよ。俺、しばらく、やってないし……」
妙に口篭もった。
ここまで来てそんな会話をすることは、俺でさえ予想していなかった。
「え? あ、ああ、そっか……」
俺が言うまでもない。デカイということは本人も自覚してるだろう。
「じゃあ、慣れるまでオアズケ?」
堂河内がオトコと初めてじゃなきゃ、うまく入れてくれるんだろうけど。
「無理すると裂けるって言ってたもんな」
冗談のようで冗談ではない。堂河内は笑いもせずに真面目な顔で自分のモノと俺の尻を見比べている。
でも、がっかりしていた。
「おまえ、ニイさんに何聞いてきたんだ??」
「そりゃあ、もう、いろいろ」
ニイさんも堂河内のサイズまでは聞かなかっただろうしな。
せっかくのチャンスだけど、うまくいかないよりはいい。
次までに俺がもう少し自分で慣らしておけばいいことだ。
それに一応普通に洗ってはきたけど、こういう状況は想定していなかったから、十分な準備もしていない。
「堂河内、口でしてくれよ。うまいんだろ?」
自分で話を振っておいて、疑問がわいた。
オトコとした事ないって言ってたくせに、上手いってどういうことだ??
変じゃねーか??
「おう。練習してきたから」
「練習??」
「心配しなくてもアイスだよん。ニイさんのご指導つき」
あのヤロー……
いや、俺のために協力してくれたんだと思っておこう。
「堂河内、変なこと言われなかったか?」
「言われたぜ。いっぱい。『上手にできるようになったら、あたしにもしてね〜』とかさ」
だよなあ。
ニイさんのモロ好みのタイプだ。
長身、短髪、筋肉質、能天気。
「『洸ちゃんは愛され慣れてるから上手くないと愛想つかされるわよ〜』とか」
「なんだ、そりゃ……」
「海瀬の昔の写真も見せてもらったし」
昔の、写真……??
めちゃくちゃ嫌な予感。
ニイさんのカレシは自称カメラマンなのだ。
俺が彼氏を連れてくるたび、ニイさんのカレシが面白がって写真を撮っていた。
それこそ、彼氏が変わるたびに写真は増えた。
それをニイさんは全部持ってるはずだった。
「ちなみに、どんなヤツ……?」
恐る恐る尋ねてみた。
「まだ10代の海瀬が超ディープキスしてるやつ」
げ〜っ……そりゃあ、多分、最初の男だ。
つーか、俺、高校生じゃん。
よりによってそんな大昔の写真をっ……
「海瀬、舌とか出しちゃっててさぁ……。まあ、可愛かったけど」
いや、もっとヤバイやつもあるはずだ。
「髭面のオヤジに抱かれてトロンとしてるとことか」
「バカ、あれは酔っ払ってただけだ。だいたい、アレ、ニイさんのカレシだぞ?」
それはニイさんが撮ったヤツだ。俺がすっごい酔っ払って店で潰れたときの。
飲んでから朝までの記憶が全くなくって、その時どさくさに紛れて俺を抱いた男がそのあとしばらく彼氏になってたという……。
そいつとの写真が一番ヤバイんだよ。
素っ裸で絡んでる写真を見て、俺は次の日、蒼白になったのだ。
それを撮りながらニイさんのカレシは勃ってたとかで、ニイさんとケンカになったいわくつきの写真。
それ以来、服を着ていない写真は禁止になった。
まあ、さすがにアレは捨てただろうな。
「なんでもいいよ。けど、」
堂河内が不敵な笑みで俺の手首を掴んだ。
「俺、妬いたぜ?」
耳に舌が入りこむ。
ゾクッとした感覚が押し寄せ、肌が粟立った。
「耳が弱いってことも、ニイさんに聞いたのか?」
「いや、隣で寝てる時にわかった」
堂河内は笑いながら唾液で濡れた耳に息を吹きかけた。
俺の意思とは関係なく、カラダがビクンと跳ね上がる。
「酔っ払って寝てるときに、こうやって遊んでたって知ってた?」
「知らねーよっ!!」
それも俺が酔い潰れてる時だろう??
まったく……
「海瀬……」
堂河内が手を止めた。舐めていた耳を唇から話して真正面から俺を見た。
俺は、少し怯んだ。
「な……なんだよ?」
「俺のものになって」
「……え、」
「俺、おまえを束縛するかもしれない。けど、」
耳を疑った。
「絶対、大事にするから」
そんなこと、真顔で言うなよ。
「……プロポーズ、みたいだな」
「そのつもりだけど」
俺は照れ隠しに笑ってしまった。
けど、返事はした。
「せいぜい大事にしてくれよ」
堂河内がぎゅっと俺を抱き締めた。
すごくイイ感触だった。


……けど、それって、ヤル前に言うセリフかな?



Home     □ Novels       << Back  ◇  Next >>