-ひとなつ-




-6-

翌日、俺は所長の隣り、しかも腕枕をされた状態で目を覚ました。
「おはよう、榊」
朝日を浴びて白い歯がキラッと光った。
「……へ?」
驚いて起き上がろうとしたら、体に妙なダルさが。
しかも。
「……なんで、俺、服着てないんですか??」
あせる俺に所長は涼しい笑顔で言った。
「榊」
「な……んですか?」
なんだ、なんだ、なんだ??
「騙されやすいと言われたことは?」
なんだか記憶に新しいその言葉。
一瞬にして脳裏に昨夜のマスターとのやり取りが蘇った。
そういえば。
「マ……マスターは?」
とりあえず目に見える範囲内にはいなかった。
安心したような、そうでもないような。
「もちろん帰ってもらったよ。せっかくこっちが気持ちよく酔いを味わってる隙に榊に手を出されたくないしな」
そこでなんで俺が出てくるんだ?
っつーか。
「俺、なにを―――」
飲んだんですか。
ってか、飲まされたんですか。
「いや、普通にカクテルだったと思うよ。ただ睡眠薬か何かが入ってただけで」
俺に聞かれてもわからないよ、とまるで他人事のように流された。
どうも全てが飲み込めずにいる俺に、所長は、「悪い奴に騙されないように気をつけろよ」と言った。
「……それって、マスターのことっすか?」
そうなんだろうとは思いつつ確認を入れたら、所長は思いっきりニッと笑って。
「俺も含めて、な」
そんな返事をした。



……分からない。
なんだか全てが分からない。



俺は昨日から現実ととてもよく似た違う世界に紛れ込んでしまってるんじゃないか。
そんなことをマジで思っていたら。
「じゃあ、榊」
「へ?」
「しようか?」
「は?」
またしても理解不能な誘い文句が。
「大丈夫だよ、もう初めてじゃないんだから」
一度やったら二度も三度も同じだろって言うんだけど。
「え? な、な、ななななに??」
あまりの異次元状態に放心する俺のあごを持って、クイッと横に向けた。その方向にはゴミ箱が一つ。
そして、その回りに丸めたティッシュが散乱していた。
さらにチラリと見えているのは見覚えのある色つき半透明の……。
「……ゴ……ム?」
それっていうのは。
もしかして、もしかするのか?

……んなわけ……ねーよな??

「あの……」
「どうした? 具合でも悪いのか?」
そう言う間に所長の手が尻の割れ目に……。
「ちょ、ちょっと、待て……あの、これって……冗談ですよね?」

誰かそうだと言ってくれっ!!

願いも虚しく。
空白になる俺の上に、所長のカラダ。
胸元を這い回る手。
「ちょ……っと」
待て。
待てったら、待て。
「なんだ、夕べは『気持ちいい』って言ってたじゃないか?」
「んなことっ―――」
言われてみると、なんとなく蘇る。
この手の感触。
気持ちいいっていうか、くすぐったいっていうか、ビミョーな感じだったりするけど。
これが女の子の細い手だったりしたら、すぐにでもイケそうな気が。
「なんなら、夕べと同じように目隠ししてやろうか?」
「へ?」
手の感触が結構しっかり記憶されているのに、ビジュアル的なものがいっさい残っていないのはそのせいなのか??
なんてことを冷静に考えている余裕が。
……もう俺にはないぞ。
「や、やめ……っ」
焦っていると抵抗さえままならないっていうことを思い知った。
「窓を少し開けてあるから、大声出すと隣に聞こえるよ。まあ、そのつもりで叫んでるなら、俺は別に構わないけど。どうせ隣はマスターの部屋だしな」
榊の可愛い声じゃ痴話げんかにしか聞こえないと思うけどね……と所長の落ち着き払った声がして。
その瞬間に激しく頭痛がして。
ついでに。
「うっ……」
吐き気が。
「なんだ、榊。二日酔いか?」
所長のクックックという笑い声と。
「トイレはそっちだよ」
その言葉を背にベッドを飛び出した。
もちろん素っ裸だったわけだが、とりあえずそれどころじゃなかったから、所長が俺の海パン日焼け跡を凝視してることなど気に留めなかった。



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