Sweetish Days
〜ほのかに甘い日々〜

- 6 -



シャワーを浴びて出てきたツカサはバスタオルを腰に巻いた格好でバッグの中から短パンとTシャツを取り出した。
華奢と言えば確かにそうだけど、予想外に引き締まった身体をしていた。
「ツカサ、何かスポーツしてるの?」
クリンとした目が向けられる。
その身体とアンバランスな感じがした。
「1年の時はサッカー部だったんだ。中学の時も。でも、バイトしたいから止めちゃった」
「え? サッカー?」
言われてみると脚つきがそんな感じかもしれない。
「なんで? 似合わない?」
「まあ、そうかな。ちょっと意外」
「運動しなさそう?」
「うーん、そうだなあ」
服を着ていると筋肉なんてなさそうに見えるんだよな。
首が細いからか。童顔だからか。
「体育5だよ。っていうか、体育だけ5なんだけど」
それも意外。勉強の方が得意なのかと思ったのに。
「2ヶ月くらい前まで毎日バイトしてたんだ。お金欲しくって。けど、成績下がっちゃって、お小遣い値上げするから止めろって言われて。仕方なく週2回なの」
「でも、こんなことしてたら同じだろう?」
「いいんだ。別に。大学は行かないと思うし」
こんな時、ツカサは妙に投げやりな表情をする。
「4年間遊べるのに」
いや、そういう言い方は良くないか。
でも、あれだけ有名な進学校に通っているのに進学しないなんてもったいない。
「親からお金もらいたくないんだ。早く家を出て自分で生活したい」
子供の調査をするような家だ。何かと窮屈なんだとは思うけど。
でも『大学くらい』って思うのはやっぱり俺がオヤジだからなのか。
「バイトしながらでも大学は通えるだろう? 奨学金でも貰ってさ」
「学費と食費は何とかなっても、家賃まで払えないもん」
高卒で就職したところで同じだろう。
そんなことを考えないような子でもないと思うのに。
「高校卒業して、なんの仕事しようと思ってるんだ?」
俺はちょっとキツイ口調になっていた。
水商売とかそういう仕事の中でも結構ヤバイことなんじゃないかと思ったからだ。
そんな情報だってネットで簡単に手に入る。
「何も考えてないよ」
「水商売はダメだぞ?」
自然と厳しい口調になる。
「……どうして?」
「ツカサが可愛いから」
真面目にそんなことを言ってしまった。
俺って親バカの素質があるかも。
「そんなの理由にならないよ」
容姿はまともなところで働いていればこそプラスアルファになる。けれど、使う場所を間違えるとボロボロになって、あっという間に転げ落ちる。
そんなヤツを俺は何人も知っていた。
「とにかくダメ。俺が許さない」
柔らかい言い方をしたつもりだった。けれど、気持ちは顔に表れる。
でも、ツカサも負けない。
「普通の仕事じゃ、生活していかれないもん」
「まともな大学を出て、寮がある会社に就職すればいいよ」
「そんなに長く家にいたくないよ」
大学の寮のほとんどは地方出身者じゃないと入れないからな。
なら、地方の大学に行けばいいと言いたいところだが、それだとツカサに会えなくなる。
考えた挙句に俺は言った。
「なら、ここに住んでもいいよ」
「……え……?」
「だから、大学行くんだよ」
本当は養ってやってもいいんだけど、それはツカサがうんと言わないだろう。
「ゆっくり考えてみて。勉強が嫌いなら仕方ないけど」
「キライじゃないよ」
「そう。よかった」
今から一生懸命勉強すれば、ツカサなら大学くらい行けるはずだ。
「ホントに一緒に住める?」
「家の人がいいって言ったらね」
それを許すような親は、どうかと思うけど。
「……うん」
その返事は微妙だな。
「大丈夫?」
「うん。幹彦さんなら『うん』って言うと思う」
本当に、そんなことを言うだろうか?
俺みたいなヤツが、ツカサの親に許してもらえるんだろうか?
「ね、幹彦さん、」
にっこり笑って俺を見上げる瞳が熱を帯びていた。
「……どうしても、ダメ?」
何のことを言っているのか聞くまでもなかった。
座り込んでいるツカサがもじもじしていた。
色っぽい話なんて少しもしていないのに。
だいたい進学の話って、そういうことから最も遠い位置にあると思うんだけど。
ツカサ、俺の話をちゃんと聞いていたんだろうか。
濡れた髪を指で梳いてやりながら、どうしようか迷っていた。
でも、結局、『いいよ』とは言わなかった。
「ダメなのは、どうしてなの? 高校生だから?」
それもあるけど。
年齢的なことだけじゃなくて、まだ早いと思ったから。
俺とツカサの関係はまだそんなに詰まってない。
それに、ツカサは前に付き合っていたヤツのことをまだ気にしてる。先を急ぐのもソイツを早く忘れたいからなんだという気がした。
「明日、学校だから……また今度な?」
もう子供じゃないツカサをそんな理由でごまかそうとしていた。
「……うん」
ツカサも聞き分けのない事は言わなかった。
けれど、少し落胆していた。
どこか納得していない表情のまま、Tシャツの裾を引っ張って下着を隠した。
その仕草が愛しくて、そっと瞼に口付けた。
唇にキスをしたら、そのまま押し倒しただろう。
そのくらい俺は切れていた。
「ツカサ。服、脱いで」
俺の言葉に驚いた顔をしていたが、理由は聞かずにTシャツを脱いだ。
明かりを落としてベッドにツカサを座らせる。
「下着も脱いで。それから、脚、開いて。」
言われるままにスルリと脚から下着を抜き取ったが、シーツで腰の辺りだけを隠してしまった。
俺はそっとシーツの下に手を滑り込ませて、内腿に指を這わせながら、少しずつ脚を開かせた。
細く締まった脚は滑らかで心地よかった。
戸惑いと期待が見え隠れするその表情が初々しい。
シーツを除けて、透明な液があふれ落ちるその先端を口に含んだ。
「や……」
という短い声のあと、すぐに喘ぎ声に変わった。
ツカサを子供扱いするつもりなど本当はなかった。
紳士の振りだって、結局はツカサにいい人だと思われたかっただけで。
欲しくて仕方ないのに、自分の気持ちよりその他のいろいろを優先してしまう。
けど、簡単に限界は来る。
自分の都合だけでツカサを振り回して。
ツカサは恥ずかしそうに頬を染めていたが、抵抗はしなかった。
「……幹彦さ……ん……、あ、うっ、ん……」
いったん口を離し、ツカサをベッドに横たえた。
抱きしめた体は熱く、ぐったりとしていた。
「ガマンしなくていいからね?」
先にそう言ってから再び舌を絡めた。
「あ、うっく……」
腰に手を回し、後ろを弄る。
「いや……あ、ああっ……」
唾液で濡らした指を少しずつ沈めると、艶かしい声に変わる。
「う、んんっ……っ、あ、」
後ろはすでにこの行為に感じ始めており、熱くヒクついていた。
中を探るように動く指に体が顕著に反応する。
喘ぎながら耐え切れずに腰を動かすツカサの妖艶な痴態に俺自身も我慢ができなくなりそうだった。
理性が飛びかけたとき、ツカサが声を押し殺しながら熱を放出した。
ドクドクと溢れ出てくる粘液を搾り取るように飲み込みながら、俺は少しホッとしていた。
このままあの喘ぎ声を聞いていたら、ガマンしきれなくなって最後までしてしまっただろう。
ツカサに無理をさせてしまったに違いない。
キレイに舐め取った後、ウェットティッシュで拭き取った。
ツカサはまだ息が整っていなかったが、「僕も」と潤んだ目でねだってきた。
俺も服を脱いだ。
舌を絡め、歯列をなぞるような激しいキスのあと、ツカサが俺のものを口に含んだ。
俺の体の上に四つんばいになり、尻を突き出した格好でクチュクチュとそれをしゃぶった。
ツカサのものもまた上を向いてきていた。
やわらかい髪を撫でながら、快楽に酔い痴れた。
ツカサは器用に舌を使って俺を追い上げていった。
慣れていることとは別に、一生懸命なその様子がさらに俺を欲情させた。
上手いねと誉めていいものかどうか悩んだものの、結局俺は何も言わなかった。
代わりに手を伸ばしてツカサのものに触れた。
硬度を増すその部分を執拗なくらいに擦り上げるとツカサは簡単に高まった。
「……だめ……っ」
一瞬、唇を離して短く訴えた後、俺の手の中に2度目を放った。
俺も限界だった。
「ツカサ……口、離して……」
ツカサはチラッと俺の顔を見上げたが、咥えたまま首を振った。
「出すよ……?」
その問いかけにコクンと頷いた。
唾液と愛液に濡れた唇を見つめながら、ツカサの口に放出した。
ツカサは何でもないようにそれをコクンと飲み込んで、ペロペロと後から溢れてくるものを舐め取った。
俺がしたようにウェットティッシュで拭ってから、そこにキスをした。
屈託のないそのキスが妙に可愛くて、俺はツカサを抱き締めた。
「このまま眠りたいな」
うっとりした顔で見上げるツカサに俺はもう脳の芯まで溶かされてしまっていた。
前に付き合っていたのはどんな男なんだろう。
何で別れたんだろう。
今までに何人とこういう関係になったんだろう。
聞いてはいけないことばかりが頭を占領して、なかなか眠ることができなかった。
「……幹彦さん、眠れないの?」
真夜中に突然ツカサが顔を上げた。
「ん……なんか、ドキドキするなぁって思ってね」
俺の返事にクスクス笑って、眠そうに目を閉じた。
幸せそうに笑うことが、むしろ痛々しく感じられるのは、ツカサの過去を推し量ってしまうせいなのだろうか。
笹原は、物静かで、抱かれることもあまり気が進まないようだった。
口でし合うことも一度もなかった。
それでも何の不自由も感じなかったし、そういう奥床しい笹原が好きだった。
スポーツなどしたこともないような白くほっそりとした体を思い出す。けれど、もう俺の中ではすっかり過去になったんだと実感した。
目の前でやわらかな寝息を立てているツカサが、俺の現在なのだから。



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