Sweetish Days
〜Saturday〜
-2-




「大丈夫か?」
ベッドの隅に腰かけて、膝を抱えて丸くなってるツカサの顔を覗き込む。
顔色は大分戻ったなと思っていたら、ツカサが上目遣いで聞き返した。
「……もうほとんど治っちゃったって言ったら怒るよね?」
ツカサがそんなことを思う理由は、実は仮病だったために後ろめたい気持ちがあるからか、それとも真っ直ぐ家に帰れなかったことに対しての申し訳なさなのか。
あるいは……ホテル代の心配だったりしたら、俺は経済力を疑われているわけだが。
「別にホッとするだけで腹なんて立たないよ」
理由はどうあれ、怒ろうなんて思いもしなかったけど。
その返事を聞いてもツカサはなんとなくシュンとしたまま「ごめんなさい」を繰り返した。
「謝らなくていいよ。具合悪くなるのは仕方ないし、ツカサのせいじゃないんだから」
車の中では本当に顔色も悪かったんだから、仮病だったわけではないだろう。
なのに、ここまで申し訳なさそうにされると却って気になる。
「気にすることないよ、ツカサ。それより、横になってしばらく様子を見た方がいいんじゃないか?」
「……うん」
額に手を当てて熱がないのを確認してから、布団をめくると、ツカサは言われた通りにベッドにもぐりこんだ。


30分くらいそうやって寝ていただろうか。
その間ずっと俺は隣に座ってツカサの寝顔を眺めていたが、手持ち無沙汰だったせいか、ふと魔が差して血の気の戻った頬を撫でてしまったら、くすぐったそうに目を開けた。
「ごめん。起こしちゃったな」
「ううん」
嬉しいと言いながら、いつもの笑顔を見せたツカサは、もう一度「ごめんなさい」と謝ったけど。
その後で、
「こういうところ、一度入ってみたかったんだ」
少しだけ目を輝かせて、そんな言葉を呟いた。
「そっか。よかったよ」
ツカサはこの手のホテルも初めてではない。
それは分かってるけど。
「ホントにお城みたいだよね? 部屋の中は外側ほどわざとらしくなくてイイ感じ」
そう言いながら起き上がると、クローゼットや家具やらをあっちこっちいじっては「わあ」と楽しそうに声を上げた。
つまり、可愛らしい造りのホテルには入ったことがないってことなんだろう。
……と、勝手に解釈しておいた。
「ツカサが気に入ったならいいけど。でも、ホテルに入ったこと、誰にも言うなよ」
「うん、僕、口は堅いよ?」
思い切り無邪気な笑顔がそう答えた。

今更だけど。
「本当に頼むよ。特に松浦とカオルには」
「大丈夫だって」
やっぱりこういう場所にツカサを連れて入ることに罪悪感はあるわけで。
いくら焦っていたからと言っても、乗り物酔いなら何もこういう場所じゃなくてもよかったんだよな……と、ホテルに入ってから気づくあたりが俺もダメなんだろうけど。
「近くに駐車場もなかったし、ゆっくり休めそうなファミレスやカフェもなかったしな」
誰に対してというわけでもない言い訳をしながら、俺はちょっと溜め息をついた。
けど、ツカサは……と言えば。
「幹彦さん、あのね」
すでにハイテンションモードに戻っていて。
「王子様の衣装、もらってきちゃった」
じゃじゃーん、と言いながら羽根付き王子様服を広げて見せた。
「だって『似合うからあげるよ』って言われたんだもん」
屈託なくそう言い放たれて。
ついでに。
「あ、ちょうどお城にピッタリだよね?」
そんなセリフと共に既に着替えの体勢に入っているツカサに何と返していいのか分からず。
「……コスプレしてたら、時間なくなると思うんだけどな」
気付いたらそんな言葉をかけていた。
もちろん「ゆっくり休む時間がなくなる」って意味だったんだけど。
この言い方だと誤解を招くかもしれないなと思った時にはもう遅く。
「幹彦さんのエッチ。じゃあ、今からシャワー浴びてくるね?」
ツカサのスイッチは思いっきりオンになってしまった。


それから約20分後。
水音はまだ続いていた。
「ツカサ、倒れたりしてないか?」
「うん、大丈夫」
どうやらシャワーが長いのは、自分で下準備をしているせいらしい。
心配がバカらしくなるほどの元気な声が返ってきた。
その後、ツカサはシャワーを止めないまま楽しそうにバスルームから顔を覗かせて、
「幹彦さんも来て」
そんな言葉で俺を誘った。
長湯で顔色もすっかり桜色。体調も万全のようだった。
となると、その勢いのままバスルームで……なんてことになってしまわないとも限らない。だが、体調が戻ったばかりのツカサにはやはりそれはキツイだろう。
そんな結論に基づき、
「ああ、でも、それは終わった後にしような」
とりあえずやんわりと断ってみた。
もっとも、それは大人としての立場を優先させただけで、実際の所は濡れている上にうっすらと上気した肌にかなり誘惑されてしまっていたけど……。




俺がシャワーを浴びて戻ってきた時、ツカサはベッドの真ん中に座っていた。
ホテル備え付けのローブを纏っていたが、女性用と思われるワンサイズ小さいそれが、よくあるタオル地のものとは比べ物にならないくらいの薄布でできていて、体の線がやけにはっきりと判る。
しかも、いつの間にライティングをいじったのか、部屋もほどよく明かりが落とされ、やけにムーディーな色合いになっていた。
「幹彦さん、早く。時間なくなっちゃうよ」
お誘いは相変わらずあっけらかんとしていて、いまいち色気には乏しい感じだったが。
それにしても。
手を伸ばして前屈みになると胸元にピンクの突起がチラリと見える。
しかも。
「そのローブって、ちょっと透けてないか?」
「そうかな?」
後ろにライトがあるせいか、体のラインもくっきりで。
その瞬間、「高校生とラブホはまずいだろう」とさっきまで真面目に思っていたはずの俺の脳から、何かが消え去っていった。


差し出された手を取って、ツカサの体を抱きしめると熱を感じた。
もしかしたら、また具合が……なんてことも思ったのだが。
「昨日、してもらわなかったから」
少し口を尖らせてそんなことを言われてしまって苦笑い。
「DVDの途中でツカサが寝ちゃったんだろ?」
いつもは高校生にしても子供っぽいくらいだと思うけど。
こんな時はやっぱり全然違うわけで。
「そうだけど……」
見上げる瞳はもう潤んでいて。
そっとキスをすると、やわらかい唇が緩く開いて舌先を受け入れた。
「ん……ぁぅ……ふっ……んん」
待ちきれないようにツカサの手が俺の首に回されて。
それを片腕で抱きとめながら、もう片方の手でローブの紐を解くと、肌からスルリと薄布が滑り落ちた。


時計を気にしながら、ツカサの身体をそっと横たえる。
やわらかく唇を啄ばみながら、はだけた胸元に手を滑らせた。
もう気持ちが昂ぶっているのか、色付いた突起は硬さを帯びていて、軽く爪弾いただけで「あっ」という声が漏れる。
そのまましばらく指先で弄んだけど、時間に押されて早々にその手を腹部に下していった。
滑らかな肌はすでに十分な熱を持ち、時折り粟立つ。
腹からさらに下に滑らせていくと濡れた先端が指に触れた。
やわらかく握り込むと、ツカサの手も俺の中心を探し当てる。
両手で愛しそうに包み込みながらも、こちらの与える刺激のせいでその手は時々止められ、その代わりに身体をピクピクと振るわせた。
「気持ちいい?」
幾分焦らす気持ちで、手を止めてそう問いかけると、半開きのままになっていた唇から熱い吐息が漏れた。
「……う……んっ、気持ち……いい……」
涙を浮かべたまま焦点の合わない瞳が向けられ、「もっとして」と音にならない声がねだる。
そんな様子に煽られて、次第に理性を持続させるのが難しくなっていった。
「ツカサ、少し足開いて膝を立てて」
言いながら、少し強めにその中心を擦り上げると身体が仰け反り、顎が上がる。
「幹彦さ……ん……もう、して……」
震える睫毛を見下ろしながら、なんとか理性を押しとどめたけれど。
「すぐには無理だよ。ちゃんと準備してからじゃないと」
俺だって余裕なんてないし、もちろん焦らしているわけでもない。
でも、大人の振りをしながら、そんなことを言うと、ツカサは喘ぎにも似た少し苦しげな声を漏らした。
その後、赤い舌先が緩く開かれた唇の間から覗き、深いキスをねだって。
頬を押さえて唇を合わせるとやわらかくそれを迎えた。
「……ぅん……っ」
恍惚の表情を浮かべた視線が虚ろに宙をさまよって、口角を濡らして溢れ落ちる唾液が首筋を伝う。
その間に受け入れる部分に指を這わせた。
シャワーを浴びている間にそれなりの用意をしていたせいだろう。
ツカサの身体はすんなりと三本を受け入れた。
だが、本当に欲している物を得られず、その腰は何度も艶めかしく誘うように揺れた。
「……ね……もう……」
上ずった声が音のない部屋に響いて。
縋るように細い指先が俺の肌を掻く。
「いいけど……無理はするなよ?」
車中での青白い顔が嘘のように、薄っすらと色付く肌を見下ろしながら。
体を起こすとツカサの足を持ち上げ、ゆっくりと入り口にあてがった。
「あ……ぁんっ」
ズルリという感触。
それと同時に強く締めつけられて、思わず息を詰めた。
同時に身体の下で苦しげにも聞こえる声が漏れ、それを声を聞きながら、やわらかい身体を腿が腹に付くほど折り曲げた。
そして、最奥まで深く繋ぐと色付いた唇に舌先を這わせた。
「ん……く、ふっ……っん」
受けれいた物をキツく締めつける身体。
痛みや抵抗の気持ちからではなく快楽によって流される涙。
根本まで深く呑み込んだまま細い腰が揺れ始め、焦らすように時折動きを止めると濡れた瞳が続きをねだった。
「あ……うん……っ、幹彦さ……んっ」
かすれた声が「もっと欲しい」と言葉を刻む。
無理をしてまた具合でも悪くなったら……なんて心配も、もう気持ちを上滑りしていくだけだった。
「あ、あ……っっ」
突き上げるたびに唇から声が漏れ、身体がしなる。
次第に汗ばむ肌を手のひらで感じながら、自分の抑制が効かなくなるのを感じていた。

腰を打ち付ける音。
肌が擦れ合う感触。
そして、途切れ途切れの喘ぎと呼吸。
繰り返すうちにどれほどの時を経たのか判らなくなる。
けれど、あれほど気になっていた時計さえもう視界に入らなくなっていた。

「あ、も……ぅ、でちゃう……っ」
限界を訴えた時、ツカサの髪は乱れ、自分が零したもので肌を濡らしていた。
その声はやっぱり少し苦しげに聞こえたけれど、それでさえ俺の熱を冷ますことはなかった。
「我慢しなくて、いいよ」
そう返すのが精一杯で。
「あ……ん、イクっ……幹彦さん……あ、ああ……っ!!」
絶頂にしなる身体を抱きしめ、手のひらに吐き出したものの温度を感じた後、ツカサの中に自分も放った。





結局。
「お城にお泊り嬉しいなぁ」
時間がなかったこともあるけど。
それよりも、ツカサがあんまり喜ぶので今夜はこのままここで過ごすことになってしまった。
「ちゃんと髪を乾かしてからにしろよ」
「うん」
シャワーですっきりした後、ドライヤーを片手にはしゃぐツカサの屈託のなさが羨ましい。
こいうい所に泊まるのなんていつ以来だろう、なんてくだらないことを考える俺の傍ら。
いかにもお城アイテムな縁取りのついた大きな鏡の前でコスプレ満喫中のツカサに目を遣った。
「幹彦さん、王子様スタイル可愛い?」
楽しそうなツカサを見るのは嫌いじゃない。
でも。
「……可愛いけど、それ着たまま寝るなよ」
「はぁい」
再び「幹彦さんのエッチ」という無邪気な声を聞きながら、ベッドの真ん中に仰向けになった。
俺は「全部脱いで寝ろ」という意味で言ったつもりはなかったんだけど。
隣に滑り込んできたツカサはやっぱりどこを触っても素肌状態で。
まあ、今更そんなことは気にならないけど。
それよりも。
「幹彦さん」
「ん?」
「また来ようね?」
「え……ああ」
その返事に無邪気な笑顔で喜ぶツカサを見ながら、ふと我に返る。


高校生とラブホ泊。

それって……安易にOKしていいのか、俺。



Home   ■Novels   ◇Sweetish MENU      << Back ◇ Next(Sunday) >>