Tomorrow is Another Day
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中に入るとアイツの知り合いと言うヤツが出迎えた。
年はアイツと同じくらい。でも、アイツと違って見るからに水商売な感じだ。
「いらっしゃい、子猫ちゃん。俺がここのオーナー。よろしくな」
俺ってどこに行っても犬猫呼ばわりだよな。
このへんではコレが普通なのか。それとも俺がすごく動物っぽいのか。
……いいや、単にヤラれる方だからネコって言っただけかも。
「まず採用試験からな」
そう言いながら俺の腰を抱き寄せて顎に手を掛けた。
「最初が顔。童顔だな。それに……うーん、まあ、いいか。人も足りないことだし、とりあえず合格」
顔や首筋を撫でる手がなんだかエッチくさい。
「次はボディチェック。先にシャワーを浴びて来こいよ。バスルームに案内するから」
俺が一言もしゃべらなくても当然のようにさっさと話は前に進んでいく。
事務所の奥にある仕切りのさらに奥にあるドアを開けて俺を通した。
その先は普通の家の廊下みたいなヘンな作りだった。
廊下の右にドアが二つ。左にも二つ。
「ここがバスルーム。入って」
中はさらに不思議な作りで、広いバスルームはなんだかラブホみたいな雰囲気。ガラスで仕切られた場所にトイレもあった。
しかも。
「コレが仕事なら分かってると思うけど、身体の中もキレイにして来いよ?」
オーナーがニヤニヤ笑いながら俺の反応を窺った。
「苦手ならやってあげるけど?」
「自分でできるよ」
それくらいならちゃんとできる。
……そりゃあ、嫌だけど。
「そう。残念。結構好きなんだけどな」
ソイツはなんの遠慮もなく俺のTシャツを脱がせて、身体を触った。
「後で着替えを用意しておくから脱いだ服はここに置いて」
オーナーがバスルームから出ていくのを確認してから、念入りにの体を洗った。
長い間シャワーに当たってたら、ちょっとグッタリした。
「いくら貰えるのか先に聞いておけばよかったなぁ……」
脱衣所にはもう俺が脱いだシャツもパンツもなくて、置いてあったのはオーナーが用意した服だけ。
腰ではくような短パンと微妙に透けてるノースリーブのシャツを見ながら溜息をついた。
しかもへそがまるっきり出ている。
「……お腹こわしそう」
けど、そんなことくらいで文句は言わない。
服なんてどうせすぐに脱がされるんだからなんでもおんなじだ。
着替え終わって事務所に戻るとオーナーが満面の笑みで出迎えた。
「いいじゃない。思ったより可愛いよ」
なぜか上機嫌だ。
自分で見た限りは、かなり似合ってないと思うんだけど。
短パンだってズリ落ちそうだし、シャツだってカンペキに透けてるならともかくかなり微妙な薄さだ。
遠くだとあんまりわからないのに、近くだとちゃんと透けてるって感じ。
「これってなんか中途ハンパじゃないかなぁ」
ちょっと愚痴ってみたが、それも楽しいみたいにゲラゲラ笑うだけ。
「少しくらいヤラしくないと意味ないだろ? それとも他の服の方がいいか?」
オーナーが指し示したブティックハンガーに掛けられていたのは、どれも小さな布切れ。
短パンとシャツの形態をしているだけ、この方がマシだった。
「ううん……これでいい」
その返事に頷いてから俺をクルリと回転させた。
「尻の出具合もちょうどいい。へその形もいいな」
「そんな細かいとこまでチェックしないでよ」
見た感じはそれほどエロおやじっぽくないんだけど、やっぱりそんなわけない。
「じゃあ、次はこっち来て」
手招きのあと、後ろにあったドアを開けた。
デスクとソファベッドとテレビとステレオ。あとは本棚と冷蔵庫。
ラブホみたいな感じではない、ごく普通の部屋だ。
ここで何をするつもりなんだろう。
なんとなく心細くなった。
「……ね、アイツは?」
ちょっと迷ったけど、小声で聞いてみた。
「アイツ? ああ、中野か。 もう帰ったんじゃないのか?」
「……そっか」
中野って名前なのか。初めて知った。
闇医者の所ではオヤジが『ヨシくん』って呼ぶだけだもんな。
「あのさ、俺、いくら貰えんの?」
とりあえず先に聞くべきことを聞いておこう。そう思って遠慮なく質問したんだけど。
「あれ? 中野に聞いてないんだ?」
オーナーに聞き返された。
うわ。もしかして失敗??
ホントは聞いてたことにした方がよかったんだろうな。言い包められて値切られるのは必至だ。
「……うん、聞かなかった」
まあ、いいか。
どうせアイツの紹介で自分じゃ見つけられなかったバイトだし。あんまり欲ばらない方がいい。
オーナーはテーブルの上においてあった銀行の封筒を覗き込んでから、なんてことなさそうに答えた。
「そうだなぁ。中野の持ち物ってことだし、20万でどうだ? 今日は俺も機嫌がいいからサービスしてやるよ」
3時間で20万??
時給7万弱。
どういうパーティーだよ?
「俺、何人とヤレばいいの?」
「そうだな。どうせ3時間だけだから、誰かに気に入られて個室に連れ込まれたら、3人くらいで終わりじゃないか?」
「そっか」
わかったような、そうでもないような。
まずは変な趣味のなさそうなヤツを探せばいいのかな。
あ、でも。
俺、人を見る目がないんだった。
あんなヤツ好きになっちゃうくらいだからなぁ……
思案しているとオーナーが俺の手を握った。
「取りあえず、な」
「なに?」
そのまま俺を抱き寄せた。
「子猫ちゃんの採用試験の続き」
「え?」
採用試験ってこんなことするの??
なんか違うよな??
「反応のいい子じゃないと大事な客は任せられないし。少しの間だけ俺が言う通りイイ子にしてたら、バイトも1時間だけにしてあげるよ」
お客が来る前に自分の相手をしろってこと?
「中野にちゃんと仕込まれたのか?」
「なにを??」
店のオーナーなんて言っても乱交なんて仕組むヤツだ。
変な趣味があっても不思議じゃない。
俺、逃げた方がいいのかな?
でも、アイツが紹介してくれたんだから大丈夫だよな?
その前にアイツっていい奴なのかな??
う〜ん、う〜ん。
……よくわかんないや。
「子猫ちゃん、俺の話は聞いてるかな? 中野がちゃんと躾をしたのかなって聞いてるんだけど?」
考え事は後にして、まず質問に答えなきゃ。
でも言われてることがイマイチわからない。
「アイツが? シツケって?」
俺、アイツとたまにヤルだけでそれ以上のなんでもないんだけど。
全部に不親切なアイツがそんなことまで人に説明するとは思えない。
「あのな、子猫ちゃん」
「なに?」
「さっきから気になってたんだけど、中野のこと『アイツ』なんて呼んでるのか? 子猫ちゃんは中野の持ち物なんだろ?」
「うん。……たぶん」
そういう前提なんだと思うけど。
ってことはご主人様なわけで。
当然、アイツなんて呼び方はまずい。
しかも、コイツの口ぶりは『中野の持ち物だから丁寧に扱ってやってるんだぞ』って思いっきり言ってるし。
「……でもさ、俺はちゃんと自己紹介したのに、アイツは自分の名前教えてくれなかったんだ」
何度も会ってるのに自分のことなんてなんにも話してくれない。
名前だって、ここにきて初めて知ったんだ。
いや、その前に闇医者辺りに聞いておけばよかったのかもしれないけど。
「へえ、そう」
オーナーはニヤニヤ笑ってた。
そりゃあ、そうだよな。
名前を知らなかったとしても普通は「アイツ」なんて呼ばないんだろう。
ってことは。
俺、2度目の大失敗??……と思ったんだけど。
「まあ、中野らしいって言えばらしいけどな」
オーナーは興味なさそうにそう言って、さっさと俺の服を脱がせていった。
コイツは俺にいろいろ聞くけど、それもきっと『採用試験』の続きかなんかで、本当は中野の呼び方なんてどうでもいいんだ。
そんな気がした。
「本当は全部脱がせない方がそそるんだけど。汚すと店で着られなくなるからな」
脱がせている途中でも体中を舌や唇が這い回る。
それがなんかすごく慣れてる感じで。
「あ、……んんっ、」
俺の顔を見たまま、手や指を動かす。
「う、んんっ」
どうしても我慢できなくて「待って」といったけど、「ダメ」と言われただけだった。
今まで付き合ってたヤツもその辺で見つけた客もヤルだけやって勝手にイクだけで、俺のことなんて特別構ったりしなかったのに。
「……ね……ダメ、ほんとに、あ、んんっ…」
『本当にダメだってば〜〜〜っ!!』って叫びたい気持ちは堪えて、できるだけ普通に話す。
でも、本当にダメだから切れ切れになる。
「へえ。ホントに可愛い反応するんだな」
ニヤニヤ笑うけど、オーナーはまだまだ余裕。
「いいねぇ、身体も小さいから陵辱感があって」
『リョウジョクカン』の意味は俺には分からなかったけど。
「う、あ、ああっ……っ」
「もっと啼いてごらん。そう、可愛いよ」
俺の耳元でいろいろ言うんだけど。
「お客がいい気分になれるようにな。仕事なんだから」
ヤッてる最中にそんないろいろ言われても。
「…や……っんん…っ」
とにかくコイツは。
「ダメ、あ、ダメっ……んんんっ!!」
どんなに我慢してもあっという間にイキそうになるほど慣れていた。
ダラダラと透明な液体が溢れ出す。
「……あ、っく、ぅふ、う…」
でも、イキそうになると手は止められる。
手首に向かってゆっくりと流れる透明な雫をペロリと舐めて、俺を見下ろしていた。
口の端にニヤニヤ笑いを湛えたまま。
「いいね。若い子の味」
なんだかちょっと怖くなる。
コイツは中野なんかよりもきっとずっと悪いヤツだ。
何をしていても面倒くさそうなアイツと違って、思いっきりこういうことを楽しむ性格なんだろう。
誰を食い物にしても。
どんなに傷つけても。
「あの、」
まだ挿れられてもないのに勝手にイキそうになったことを謝ろうとしたら、無言で両足を持ち上げられた。
「肩に掛けて。そう、いい子だ。根本的に性格が素直なんだな」
口調は優しいけど、文句は受け付けない。そういう感じ。
でも、ここはとにかくガマンしておかないと。客より先にイッてたら金なんて貰えない。
「あの……俺、あ、ああっ、」
言葉の途中なのにいきなり突っ込まれた。
しかも、ググッと深く挿れられて体が引きつる。ただパクパクと口を開けるだけで息が出来ない。
とにかく落ち着いて体の力を抜かないと。
ケガするのは俺なんだから。
「ん、ん、」
とにかく必死だった。
なのに、オーナーという名前の変なヤツは笑い顔で俺を見下ろしていた。
「気にしなくていいよ。子猫ちゃんのルックスなら慣れてない方が断然可愛い」
薄く目を開けるとそこには、笑っているのに冷たい眼。
アイツの冷たさとはぜんぜん違う。
「スレてない感じがいいよな。それに、もっと鳴かせたくなる」
夜の匂い。
いや。
闇の匂い。
頭からバリバリ食われて、骨だけになったらポイって捨てられそうだって思った。
「可愛いよ。じゃあ、次は上手におねだりしてごらん」
声と言葉遣いがまあまあ優しい感じだからこそ、油断しないようにって。
ちゃんと用心しているはずなのに。
「……ん、んん、ああっ……っと、あっ、」
いろいろ考えているようで、結局まともには何も考えられていなくて。
ただ流されるまま。
「…んんっっ……ぁっ、いやっっ!! ダメっ!!」
汗が流れて、体が緊張して、その後。
俺はあっけなくイッてしまった。
コイツがまだイク気配さえないっていうのに。
ホントに採用試験だったら、これでもうダメって言われても不思議じゃない。
謝ったら許してもらえるんだろうか。
「……ん、っく、」
恐る恐る目を開けたら、目の前の男は楽しそうに笑ってた。
なんだか怖い。
「さすがに元気がいいねえ。ずいぶん濃いってことは、最近中野とは寝てないのか?」
「……う……ん」
そんなことに答える必要はないんだろうけど。
こんなペースでヤラれたら、残りが一時間だってキツくて死ぬ。
コイツ、絶対、ネチっこい。
「じゃあ、もう一回な。今度は勝手に達くなよ?」
妙に楽しそうな顔が俺の視界いっぱいに広がって、唇が重なった。
もう、どうにでもなれと思った。


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