「こら。ちゃんとキスして」
唇を重ねたまま、またいろいろ言い始めて。
「んん、だって……う、あっ、」
中に入ってたモノをわざとズルリと入り口まで引き抜いてから、また一気にググッと突き刺した。
「んん、んっ、っ、ダメっ、俺、店に出られなく、あ、ああんっ……」
激しく腰を打ちつけられて、グチュグチュと濡れた音が響く。
「なんだ、泣きそうな顔して。本当にもう駄目なのか？」
「んっ……ダメ……っ」
会話をしてることが不思議なくらい何にも考えていられなかった。
「仕方ないな。じゃあ、今日はこれくらいにしておいてやるよ」
イヤミなくらい笑ってるんだけど。すでに俺はいっぱいいっぱい。
「こ……んなのした後で、普通のヤツに、入れられても、感じな、い、よ……っ、あ、」
だって、コイツ、上手すぎる。
しかも『これくらいにしておいてやる』とか言いながら止めてくれないし。
「なら、この後も俺の相手だけしろよ。いろいろ教えてやるから」
オーナーとヤルだけ？
そしたら、俺、金なんて貰えるんだろうか？？
「う、あっ……ん、」
少しくらいはもらわないと、明日は動けないかもしれないし。
そしたらまた食べるもの買えないじゃん。
先に確認しなければって思うんだけど。
もう頭が働かない。
「こら、真剣にやれよ。分かったか、子猫ちゃん」
真剣にって、なに？
俺、どうすればいいんだよ？？
「でも、あ、ダメ……ああん、イクっ……」
あっけなくイキそうになったけど、しっかりとオーナーに止められた。
ダルくて、熱くて、もう自分の身体じゃないみたいで。擦られた場所がジンジンしてきた。
なのに、まだ俺の体の中にあるコイツのモノは硬いままだ。
「一人で勝手に達かないって約束したの忘れたか？」
当たり前だけど怒られた。
俺ばっかりこんなに気持ちよくなってちゃ、絶対金なんて貰えないよ。
それがコイツの手なんだな、きっと。
俺、ハメられたんだ。
「ご、めんなさ……ちゃんと、ヤルから」
息も切れ切れ。
安全なバイトだと思ったのに、結局ヤリ倒されるのかも。
それよりも。
これじゃあ、アイツの面目も丸つぶれだよな。
「じゃあ、次は止めてあげないから、俺より早く達くなよ？」
コクコクと頷く。
「お仕置きアリだからな？」
それも頷いた。
一度波は引いたから、そうそう簡単にはイカないって思ったんだけど。
「子猫ちゃん、ここがダメなんだな」
笑いながらあからさまにいい所ばかりを狙って突いてくる。
ギリギリまで引き抜いて一気に押し戻す。入り口で浅く動かす。
「ほら、どうだ？」
知っていてたまにわざと焦らしながら、気が緩んだ頃に直撃する。
「あ……ぅ、いっ……そこ、んんっ、」
「可愛い声出してくれちゃって。感度もいいなぁ。それに良く締まる」
仕事なのに。
俺は完全に飛んでしまった。
「あ、……いやぁぁぁっ！！」
本当にあっと言う間で、その瞬間に金のことは諦めた。
流されて、溺れて、麻薬なんかにも手を出して、坂道を転がり落ちていく自分が頭に浮かんだ。
「う……っく……ん」
オーナーの薄ら笑いがぼやけた視界に映る。
頬を撫でる手がにせものの親切っぽい。
「じゃあ、お約束のお仕置きな」
俺、このまま売り飛ばされるかも……って思ったけど。
デスクの上の電話が鳴って、オーナーが受話器を上げた。
「悪い、来客だ。続きは後でな、子猫ちゃん。ここで大人しく待ってろよ？ たっぷりイイコトしてやるから」
もう逆らう気もなくなってた。
「……う……ん」
疲れた。休みたい。
力の抜け切った身体を投げ出して目を閉じた。
オーナーはなかなか戻ってこなくて、俺は長い時間放置された。
「うー、どうでもいいけど冷房効きすぎ……」
ようやく動く気になって辺りを見回す。
仮眠室はバスルームと事務所の間にあって、あんまり物がなくて寒々しい感じだった。
しかも俺は素っ裸。毛布もタオルケットもナンにもない。
仕方なく落ちていた服を着ようと思ったけど。
「……汚しちゃダメって言ってたよな」
仕方なくまだ湿っているバスタオルを被ってエアコンのリモコンを探した。
でも、それらしいものは何も見当たらなかった。
部屋には時計さえなくて、ここに来てどれくらい経ったのかもわからない。
目に付くのはデスクに投げ出された封筒。
宛名は北川敏樹。
「どーでもいいけど、早く戻ってこないかなぁ」
身体とソファの汚れた場所だけティッシュで拭いて、大人しくエロオヤジを待った。


３、４時間くらい経っただろうか。
待ちくたびれてソファに丸くなってクークー寝ていたら、オーナーに起こされた。
「お待たせ、子猫ちゃん。バイト先でお昼寝なんていい根性してるな」
「うわ……ごめんなさい。疲れちゃって……」
おまえのせいだとは言えないけど。
いつの間にか窓の外はすっかり夕方の雰囲気だった。
「どうでもいいけど、寝顔もガキ臭いなぁ。子猫ちゃん、実は相当ガキだろ？ 中学出たのか？」
『ガキ』っていうのがいくつまでを指すのかわかんないけど。
みんなしておんなじことを言うんだもんな。
「ちゃんと卒業したってば」
ムクれる俺の唇にエロオヤジの舌先が入り込む。
「んんっ、んん、んっ」
それでも文句を言い続けたら笑われた。
「まあ、年取るとガキくさければそれだけで可愛く見えるから、オヤジ相手ならヤッた後でうっかり寝ちまっても許してもらえそうだけどな」
オーナーはそう言いながら俺の前で手を広げた。
持っていたのは赤いヒモ。
「何するの？」
俺の質問に対する返事は妙な笑顔だけ。
いきなりバスタオルを剥ぎ取ると俺のに赤いヒモをグルグル巻いた。
「よし。これでもう達けないから頑張れよ？」
えっ？
「やだっ……ね、解いて、お願い……」
前に一度だけ客にコレをやられたことがあった。
気が狂うほど苦しくて、とにかく解いて欲しくて何でも「はい」って言った。
散々な目に遭って本当に泣きたくなったんだ。
だから、必死で頼んだけど、もちろん聞いてなんかくれない。
「俺が達く時に一緒に解いてやるよ」
ニヤニヤ笑いの唇が俺の耳を舐めた。
「大丈夫だって。頭の中が真っ白になって、もう死んでもいいって思うほど気持ちよくしてやるから」
その笑顔が本当に悪いヤツって感じで。
……俺、殺されるかも。
どうしようと思う間もなく、足首を持たれて適当に指で解しただけでグッと挿れられた。
「うあ、あ……っっ、」
挿れられた場所の痛みはすぐに消えてなくなった。
代わりに縛られたモノが悲鳴を上げる。
「……あ、ね、もっと緩めて……お……願いだから、あっ、っく」
頼めば頼むほど笑顔が意地悪くなる。
コイツ、絶対に性格悪い。
「それよりちょっと力抜けって。ついでに可愛く声出して。もうちょっと色っぽく見上げて。……こら、横は向くな」
オーナーに言われたことなんて、半分も頭に残らない。
「う……っく……ダメ……って、あ、あ、っんん」
「きっついなぁ。痛いのか？ それとも達きそうなのか？」
冷静に聞かれて、無意識で答える。
「……ん、あ…っ、気……持ち、いい」
笑い声が聞こえて。
死ぬほど焦れったくて、おかしくなりそうな時間をなんとか耐えて。
「教えた通りに言ってごらん。客が喜ぶようにな？」
恥ずかしい言葉も何度も言わされて。
「あああっ、も、ダメっ……お願い、ね、あ、ああんっ、」
泣いて頼んで。
やっと。
「仕方ないなぁ。じゃあ達くぞ？」
オーナーの許可が出た。
「……早く、解いて、っ」
本当に、やっと。
「う、ああっっっ……」
遠慮なく叫んだけど、自分の耳にはあんまり聞こえて来なかった。
コイツが最初に言った通り、俺は真っ白になって意識を失った。
ソファベッドに自分の身体が沈み込んでいくような錯覚と共に、海に沈んで冷たくなっていく自分の夢を見た。



目が覚めた時、オーナーは隣りに寝転んで俺の髪を撫でながら書類を読んでいた。
もうすっかり着替えて、涼しい顔で。
なのに俺は素っ裸で。
身体には毛布さえ掛けられていなかった。
そして外は真っ暗だった。
「目が覚めたみたいだな」
チラリと俺の顔を見て口の端で笑う。
「……ごめんなさい」
深い溜息。
絶対遊ばれたんだって思った。
ずっしりと重い身体になんとか力を入れて、のそのそと起き上がる。
「シャワー浴びたら、コレ着て帰りなよ。あげるから」
渡された着替えは妙なコスプレなんかじゃなくて普通の服だった。
とは言っても、ぴちぴちストレートパンツとロングスリーブなのに腹が見えるようなＴシャツ。
……まあ、どうでもいいけど。
「うちで働くなら、それなりの格好をしてもらわないとな」
「そんなこと言われてもさ……」
服を買う金がないんだって。
「いいから、シャワーを浴びて来いよ」
とりあえず言われた通りにバスルームに行った。
「ホントにもらっちゃっていいのかな」
闇医者がお下がりをくれた時は心の底から嬉しかったけど、コイツに貰うのはちょっと『う〜ん』って感じだった。
だって、こんなモノをくれるってことは。
「まさか、この後も店で働けってことかなぁ」
そんなこと言われたら、マジに死ぬ。
ごにょごにょと考え事をしながらオーナーのところに戻った。
ドアを閉めてクルリと振り返ったらズキンと痛みが走った。
「うあっ……っく、」
迂闊に歩くと腰と尻がズキズキする。
「なんだ、やりすぎたかな。それでも乱交よりはマシだから我慢しろよ」
とっても簡単にそう言われたんだけど。
乱交よりマシ？
……そうなのかなぁ？？
まあ、変な趣味の奴に当たったりしたら、こんなもんじゃないんだろう。
そんなことを考えながら適当に頷いた。
オーナーとやってたのだって実質一時間くらい。
３時間ってことは、それを３回……考えたくもなかった。
「ね、俺が着て来た服は？」
まさかあまりの貧乏臭さに捨ててしまったなんてことはないよな？
そんな心配もしたんだけど。
オーナーはデパートの紙袋を広げて俺が着てきた服を入れた。
「はい。子猫ちゃんの服」
紙袋を渡されて、ペコリと頭を下げて受け取った。
気だるさ全開。腹も減った。
少しでもいいんだけど、金もらえないかなぁ……
「今日着るはずだった衣装も入ってるから。気が向いたら店にバイトに来いよ」
店の名刺も渡された。簡単な地図が書いてある。
店はこのビルのすぐ近く。
車だとグルッと回ってこなきゃならないけど、歩いて近道をすれば公園からもそんなに遠くない。
「いつもは普通のバーだから乱交なんてしてないよ。まあ、ちょっとエッチな衣装を着て、たまには寝てあげないと指名なんてされないかもしれないけどな」
結構やらせる店なんだろう。
それでもその辺で適当に捕まえた客よりはマシなはずだ。
道に立って声をかける時みたいに、変なヤツに目をつけられたりもしない。
「うん。ありがと」
素直に受け取った。
「それから」
そう言って渡された厚い封筒。
「……？」
受け取った瞬間に札束だと分かった。
「よく頑張ったから、ご褒美」
「けど、」
本当にもらっていいのかを聞こうとしたら、大げさな手つきで腰を抱き寄せられた。
「店に来るならいい客を回してやるよ」
耳を軽く噛んだあと、反対側の手で俺の首筋を抑えた。
「子猫ちゃん、お客様サービスはしてくれないのかな？」
キスしろってことかな？
よくわからなかったけど、背伸びをしてオーナーの肩に手を置いた。
そっと触れたはずの唇はすぐに深く激しいキスを要求された。
舌が絡み合って、背伸びをしてる足が疲れてきた。
「……ん…っ」
もうやだと思ったのが態度に出たのか、オーナーにまた怒られた。
「子猫ちゃん、本当にこの世界でやっていく気ある？」
もう今日はムリだから帰りたいって思ったけど。
「……ごめんなさい」
仕方なく謝ってみたら笑って許してくれた。
「まあ、その辺は追い追いな」
ってことはまだまだ何かさせられるのかな。
今の言い方だとまたこんなふうにヤラれるんだろうな……
ちょっとイヤかも。
「じゃあ、お疲れ。また俺の相手もしてくれよ？」
一応、頷いたけど。複雑な心境。
だってコイツ、ねちっこいんだもんな。
「子猫ちゃんの名前は？」
「マモル」
「マモちゃんね」
俺は頷いてから札の入った封筒を紙袋に入れた。
「あ、ちょっと待て。もう中野のところに帰るんだろ？ だったらついでにコレ渡しておいて」
そう言えば俺、中野のモノってことになってるんだ。
「うん」
まあ、中野のうちは近くだから渡しにいけばいいよな。
「なくすなよ。大事な書類だからな。中野にもマモちゃんに持たせたって電話しておくからな？」
「大丈夫だよ」
しっかり封のされた書類サイズの紙袋は見た目より重かった。
「じゃあ、またねー。おやすみなさい」
エロオヤジに手を振って事務所を出た。