Tomorrow is Another Day
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公園に戻ってしばらく待ってたけど、中野は通らなかった。
「もう帰っちゃったかもしれないもんな」
そう思ってマンションの前まで行ったけど。
「うーん……『闇医者に今日は中野のうちに泊めてもらえって言われたんだ』って言えばいいんだよな?」
それでダメだって言われたら公園で寝ればいいし。
……ちょっと淋しいけど。
「とりあえず部屋番号入れて……っと」
でも、勇気がなくて『呼び出し』ボタンは押せなかった。
「……やっぱ、やめとこう」
中野、きっと面倒くさそうな顔するもんな。
そうじゃなくても最近迷惑ばっかりかけてるしって思って、そのまま方向転換した。
汚れた靴は今日もペタペタと音がしていた。
それを見ながら歩いていたら、門の前で中野とばったり会ってしまった。
「……あ、」
って言ったものの、次の言葉が浮かばなくて。
ぼーっと突っ立っていたら中野が不機嫌そうに俺を見た。
「さっさと来い」
いいのかな、って思ってる間に腕を掴まれて部屋まで引っ張っていかれた。
「ごめんね、中野。今日は静かにしてるから。闇医者にね、中野んちに泊めてもらえって言われて、あ、でも、」
言い訳っぽいよなって自分でも思った。
中野だってそんなの聞きたくないはず。
ちょっと後悔した時に、
「いいから、黙ってろ」
いつもと同じ返事が聞こえた。
「……うん」
今日はそれほど不機嫌じゃなさそうだった。

中野に言われて先にシャワーを浴びた。
だからと言って俺の相手をしてくれるわけでもなくて、中野はまた新聞を読んでいた。
帰ってきた時には何も入っていなかったはずの灰皿はすでに吸殻が山になっていて、部屋も白く煙ってた。
風邪はちゃんと治ったけれど、さすがに少しむせてしまった。
チラッと不機嫌な視線が飛んできたので慌てて「ごめんね」って謝ったけど。
中野は面倒くさそうに立ち上がって、なんにも言わずに空気清浄機のスイッチを入れた。
それから、新しいタバコに火をつけた。
「ごめんね」
もう一度謝ったけど、それは無視で。
「先に寝てろ」
それだけ返ってきた。
いつものことだけど、会話にならない。
少しだけでいいから、たまには中野と話がしたいなって思うんだけど。
そんなの、きっとダメなんだろうな。
「……うん」
返事をして廊下に出たら、背中にまた中野の声が降ってきた。
「廊下で寝るなよ」
……それって、やるってことのかな。
そう思ったからベッドに座って待ってたけど。
いつまで経っても中野は来なかった。
まだそんなに遅い時間じゃなかったけど、風邪薬のせいなのかすごく眠くて。
ボーッとしてる間に俺は寝てしまった。


忘れ物をした夢を見て、意識が薄く戻った時、
「……ん、」
手を伸ばしたら温かい物にぶつかった。
「ふえ……?」
座ってたはずの俺はちゃんとベッドに寝かされていて、ふわふわの布団が掛けられていた。
当然、ぶつかった先は中野の体。
部屋にはまだ電気がついていて、中野は煙草をふかしながら何かの資料を読んでいた。
俺がぶつかったことなんて全然どうでも良さそうで、振り向きもしなかったけど。
くわえたままの煙草の先から灰が落ちそうだったので手を出したら、中野が眉間にシワを寄せたまま俺の手のひらを見た。
視線の先はボールペンで書かれた雅通の名前。
ちゃんとシャワーを浴びたはずなのに、ぜんぜん落ちてなかった。
中野がそれを見て眉を寄せてたから、一応説明をした。
「岩井に『ユウガのガ』って言われたけど、どんな字か分からなかったから書いてもらったんだ」
岩井が中野のことを知ってるんだから、中野も岩井のことは知ってるんだよな…って思って、その辺は省略したけど。
中野が呆れ果てたのは説明が足りなかったからじゃなくて、
「おまえ、本当に中学卒業したのか」
漢字が分からなかったせいらしい。
はっきり『バカ』とは言われなかっただけマシなのかもしれないけど。
「でも、ちゃんと卒業証書もらったよ……」
それでも分かんなかったんだから、しょうがないじゃん。
中野は俺の返事を聞き流して、煙草を消した。
その後で、また適当に俺を抱き寄せた。
なんでそんなに面倒くさそうなのに俺を抱くんだろうって、いつも思うけど。
聞いたら途中で止めてしまいそうだから、なんにも言えないまま。
それでも、今はこうしていられるんだから……って。
「んんっ、」
まだあんまり準備が出来てなくても、すぐに奥まで入り込んでくる。
少し無理やりだからなのかどうしても身体がかたくなってしまう。
「もっと力を抜け」
分かってるけど。
「……ん、っく」
熱くて、苦しくて。
「あ……っ、中野……ね、んん、」
抱く時だって冷たい。それもいつもと一緒なんだけど。
触れる肌とか温度とか。
それだけで、なんでこんなに安心するんだろう。
「……う…っく、あ、ああっ、」
抱かれてる時は近くにいられる。
俺には一番大事な時間だから。
「ね、……も、イッても、いい……?」
中野はやっぱり何も言わないんだけど。
だからってガマンもできなくて。
「ん、んっ……ああ……っっ!!」
体から全部の力が抜けて。
でも、抱き止めてくれる中野の腕。


それがなければ、好きにならなかったかもしれないのに……―――


「んん〜……ダルい」
終わった後、しばらくは動く気にならないんだけど。
聞きたいことがあったから、眠い目をこすってそっと確認した。
今日、岩井に聞かれたこと。
俺がいつも上手く答えられないこと。
「な、中野」
中野の返事はあてにしない。
いつもと同じで勝手にしゃべるだけ。
だから、返事がもらえなくても落ち込まない。
自分に言い聞かせてから本題に入る。
「あのさ……何回寝たら借りた金、チャラになるの?」
すごく聞きにくかったけど、ドキドキしながら思いきって聞いたのに。
中野はなんにも言わずにサイドテーブルから財布を取った。
その後、俺の頭上にいきなり一万円札が降ってきた。
「違うよ、金が欲しいんじゃなくて」
そこまでしか言葉にならないほど、なんだかすごく悲しく思えた。
深呼吸をして、次の言葉を捜す。
「……あのさ、闇医者に聞いたら10回くらい寝ればいいんじゃないかって……あ、10回は俺が決めたんだっけ……でも、あのさ、」
金を渡されたショックでうまく言えなくて。
「まだ10回は寝てないし、中野がそれじゃ少ないって思うなら、」
本当はずっとだっていい。
ううん。
できれば、ずっとがいい。
そう思ったのに。
中野は振り向きもせずに吐き捨てた。
「そんな事、どうでもいいだろ」
なんの感情もない声が耳を通り抜けていった。
俺にはすごく大事なことなのに。
中野にとっては「そんな事」で「どうでもいいこと」なんだって。
「……うん」
思ったら、また体から力が抜けていった。
「……そうだよね……」
口の中で呟いてから頭まで布団を被った。
たいしたことじゃない。
なのに、なんで悲しいのかも分からなくて。
でも、今度岩井に『中野さんとどういう関係なんだ?』って、聞かれたら。
ちゃんと『なんの関係もないよ』って答えなきゃ……

そう思った瞬間。
アイツの驚いた顔と、中野の声と。
いろんなことが巡っていって。
また、眠れなくなった。



翌朝早く、まだ中野が寝てるうちにマンションを出た。
1時間くらいふらふら歩き回って、お腹が空いたからハンバーガーを食べて。
100回くらいため息をついて。深呼吸をして。
それでも、憂鬱な気分は直らなかったけど。
「こんなことしてても仕方ないもんな」
この際だから嫌なことは最悪の気分の時に全部済ませようと思って、久しぶりに北川の事務所に行った。
「このまま無収入だと冬になってから困るもんなぁ……」
この間のことだって、もっとちゃんと謝ったら「もういいよ」って言ってくれるかもしれないし。
そろそろ謹慎も終わりにしてもらわないと中野に預けた金を使うことになるし。
「……頑張らなきゃ」
姿勢を良くしてからドアを開けた。
「こんにちはー」
パーテーションの奥から聞こえていた若い男の話し声が止んだ。
北川じゃないし、バイト先のヤツでもない。
聞いたことのない声だった。
「……オーナーいる?」
客が来てるみたいだったし、そっと聞いて返事がなければ帰ろうと思ったんだけど。
「久しぶりだな、マモ。元気だったか?」
顔を出した北川は、『今、起きました』って感じのバスローブ姿。
……客って、そういう相手だったのか。
「うん。風邪引いたけど、もう治った」
「どうしたんだ? 声が掠れてるな。風邪のせいか? それともやり過ぎか?」
言われてみたら、なんとなくノドの調子が悪い気もするんだけど。
「……わかんない」
風邪は治ったはずだし。
昨日は一回しかしてないから、声だって出してないし。
「う〜ん……中野の部屋が煙で白くなってたからかなぁ?」
悩む俺を見て、北川がクックッと笑ってた。
「昨日はちゃんと中野のところに泊めてもらったのか」
「うん」
おとといもその前もその前も泊めてもらったんだもんね、って言いたかったけど。
一応やめておいた。
「なあ、マモ。中野のどこがそんなに魅力的なんだ?」
北川はなんだか相変わらずで。この間のことなんてすっかり忘れたみたいな顔で変な質問をした。
「どこって言われてもさ」
俺だってわかんないよ。
「中野、マモと二人の時は優しいのか?」
そうだったら、毎日すごく楽しいと思うけど。
「……ううん、ぜんぜん。話しかけても答えないし、ヤル時も乱暴だし」
答えながらちょっとため息をついてしまった。
「じゃあ、外にいる時と同じなんだな」
「うん」
でも、アイツには違うんだろうな。
名前を呼ぶだけで、あんなに優しいんだから。
「マモは虐められる方が感じるってことか? だったらいいご主人様を紹介してやるぞ?」
「そんなわけないじゃん」
俺だって優しい方が好きだ。
ただ、そんなふうに俺を扱ってくれるヤツが一人もいないだけで。
今までもずっとそうだった。
それに、多分、これからも。
「中野は痛くしないか?」
北川がなんでそんなことばっかり聞くのかも分からなかったけど。
「別に……」
「俺と中野、どっちが上手い?」
そんな質問に何て答えればいいのかはもっと分からなかった。
北川は慣れてる。いろんなことするし、どこがイイのかも知ってるし。妙に楽しそうだし。
けど、中野はいつだって面倒くさそうで適当な感じで。
そんなところまで俺に関心がないってありありと分かるんだもんな。
「……オーナーの方が優しいよ」
「ふうん、そうか。可愛いこと言ってくれるんだな」
「ホントのことだもん」
けど、どっちが感じるかって聞かれたら、俺は中野って答えるだろう。
感じるかどうかは上手いかどうかじゃなくて、俺の気持ちの問題だから。
「じゃあ、マモ。こっちに来いよ」
北川が手招きした。
「え、でもさ……」
俺が戸惑うと意地悪く笑って楽しそうに付け足した。
「客とトラブッたことを謝りに来たんだろ?」
それを言われたら断われないって分かってて言うから嫌なヤツなんだけど。
「……そうだけど」
答えた瞬間にニヤッと笑って俺を抱き寄せた。
「なら、今日は今までで一番可愛く啼いてみせろよ?」
そんなこと言われても……って思いながら。
それでもいいから今日は誰かと一緒にいたいって、少しだけ思った。
北川でも岩井でも誰でもいい。側にいてくれるなら。
「あ、でも、オーナーにお客さん来てるんだよね?」
応接セットの置いてあるパーテーションの方をチラッと見たら、北川が口の端で笑った。
「聞こえてたのか。……まあ、アレはいいんだ。そのうち帰るから」
曖昧に笑う。
こんな時の北川は、なんとなく嫌な感じがした。
「ホントにいいの?」
「ご主人様には逆らわない従順な子だからな。どこかの子猫ちゃんと違って」
そう言いながら、指先で俺の顎の下をなでた。
「なんかさぁ、オーナーが言ってる意味、わかんないよ」
ニヤリと笑った口元から赤い舌が覗いて、俺の唇を舐める。
「分からなくてもいいから、とにかくイイ子にしてろよ、子猫ちゃん」
この言い方からしても、さっき北川が言ってた『どこかの猫』は俺のことなんだろう。
「俺、いつも大人しくしてるつもりなのにー」
そう答えたら、北川の指が口の中に入り込んだ。
「ほら、ちゃんと舐めろよ。それから、この先は口答えするな」
少しキツイ口調になった。
「……うん」
大人しく言われた通りに北川の指を含んだ。
北川は目を細めて笑ってたけど。
「何をやらせても子供っぽいよな、マモは」
反対側の手で俺のパンツを脱がせて、そのままソファに押し倒した。
夕べ中野と寝たばっかりだから、少し体が辛かったけど。
「マモ、ちゃんと足上げて。俺に全部見えるようにな」
シャツは着たまま。でも、胸まで捲り上げられて乳首を噛まれた。
「う、でも、体、痛い」
深く折り曲げられて息が苦しい。
「中野はいつもどうやるんだ? 変な趣味はないのか?」
「ない、よ……普通に寝、るだけ」
北川が笑いながら、晒された後ろに指先を埋めた。
「ふ、あっ……」
「可愛いねえ。ピクピクして。マモのココ、いつになったら緩くなるんだろうなあ?」
指を抜いた後で違う物を挿れられた。中でグネグネ動いて気持ち悪い。
「やっ、やっぱ、イヤ……いや、嫌ぁっ、」
「マモちゃん、今日は何しに来たのかなぁ? いい子にしてないとダメだぞ?」
足を持ち上げたまま、すっかり硬く勃ち上がった俺の先端を舌先でなぞった。
「う、あぁぁっ、や、ね、オーナー……っやめ、て」
挿れられたものがイイところを抉って、すぐにでも出してしまいそうになってるのに。
「ダメだ。我慢しろって」
「やだ、ね、やだってば」
散々ガマンさせられて、その後、何度もイカされて。
「お待たせ、マモちゃん。気持ちよくしてやるよ」
もうグッタリして動けなくなった頃に、やっと自分の物を挿れた。
少しだけ目を開けたら、北川は笑いながら俺を見下ろしてて。
「……もう、やだよ」
泣き言を言ったら、もっと楽しそうに笑った。
「じゃあ、本番な?」
それからがまた長くて。
それこそ指の一本も動かせなくなるくらいヤリ倒して、俺をソファに置き去りにした。
ぐったりして、頭がボンヤリして。
そう言えば、昨日は眠れなかったんだって思ったら、急に疲れて。
もう全部がどうでも良くなって、そのまま眠ってしまった。


こんなことばっかりだなって、思うのも慣れたけど。
本当はちょっと悲しかった。


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