Tomorrow is Another Day
ものすごくオマケ





<その3> 魔法使いになれるかな? (前編)



朝になるのを待って、走って闇医者のところに行った。
おはようって言ってドアを開けたら、みんなもうお茶を飲んでいて。
闇医者もあんまり忙しくなさそうだったから、ちょうどいい感じだった。
「ね、闇医者」
「なに?」
俺もお茶のテーブルにまぜてもらって、ミルクを受け取って。
ありがとうを言ってから、昨日からずっと気になっていたことを聞いてみた。
「闇医者って診療所から歩いていけるところに住んでるんだよね?」
「そうだよ」
ってことは、俺がいる公園からもそんなに遠くないはず。
「じゃあさ、昨日の夜、魔法使いが飛んでたの見た?」
「魔法使い?」
「うん。中野が公園を通る前だから、えっと10時か11時ごろ」
見てたら一緒にその話をしようって思ったんだけど。
「そうなの? 僕は家にいたけど、カーテン閉めてたから見えなかったな」
「そっかぁ……残念」
誰か見た人いないかなって思って、診療所に来た患者モドキ全員に聞いてみたけど、みんな知らないって言ってた。
がっかりしてたら、闇医者が隣に座ってほっぺを撫でてくれた。
「魔法使いはどんな人だったの?」
「暗くてよく見えなかったけど、黒い服でほうきに乗ってて、まわりに星が飛んでたよ」
一生懸命説明する間、他の患者モドキとかはみんな笑ってたけど、闇医者はまじめな顔で聞いていてくれた。
「じゃあね、マモル君。そのお星様が落ちてきたら、お願い事をするといいよ」
「お願いごと? なんでもいいのかな?」
その時になってから慌てなくていいように今から考えておくといいよって言われて「うん」って頷いた。


それからずっと考えていたけど。
「う〜ん……何にしようかなぁ」
あんまりコレっていうのが思い浮かばなくて。
「ダメかも」
でも、今日は本当に天気もよくて。
診療所のベッドのある部屋の窓際で考えていたら、ふかふかになった。
「マモル君、ずいぶんフワフワになったね」
仕事がひまになって戻って来た闇医者が俺の頭を撫でて笑った。
「うん。あったかいー。闇医者も一緒にひなたぼっこしようよ」
いつもお茶をするのは待合室なんだけど、今日はみんなでベッドのある部屋でお茶を飲んだ。
「お願いごと、もう決めたの?」
「う〜ん……中野のうちの廊下に住まわせてもらえるようにってお願いしようかなって思ってるんだけど」
「どう思う?」って聞いてみたら、闇医者が首を傾げた。
「それもいいと思うけど……でも、せっかくだから、もっといいお願い事にしたら?」
「それじゃダメ?」
俺が考えた中では一番いいお願いごとだったんだけど。
「うーん、ダメじゃないけど……せっかくだから『中野さんちの子になりたい』とか、そういうのがいいんじゃないかな?」
俺だって、それはちょっと考えた。
でも。
「ジャマだって思われてるのに、中野んちの子になっても楽しくないよね?」
廊下にいるだけなら中野だってそんなにジャマに思わないかもって思って、そのお願いに決めたんだから。
母さんが死んだ時、おじさんとおばさんがため息をついたことも。
最初に他の人に拾われたときに「本当はおまえのことなんて好きじゃなかった」って言われたことも、俺にはちょっと悲しかったから。
「もう、そういうのはやだなって思ったんだ」
それに、中野のうちの廊下にいる自分はちょっといいかもって思ったから。
普段は俺が廊下にいることなんてすっかり忘れている中野が、お風呂とかトイレとかのためにリビングから出てきて、そういえば俺がいたんだなって思って。
ときどき目が合って。
たまには話しかけたりして。
「……ね、どうかな?」
もう一回闇医者に聞いてみたら、ただニッコリ笑って。
それから、
「じゃあ、僕のところにお星様が落ちてきたら、マモル君がたまには中野さんと一緒に寝たり、ご飯を食べたりできるようにお願いしておくね」
そう言ってくれた。
やっぱり闇医者はやさしいなって思ったけど。
「ありがと。でも、せっかくのお星様だから、闇医者も自分のことお願いしたほうがいいよね?」
お願いごとが叶わなくても、こうしてみんなとお茶をして、話したり構ってもらったりしながら毎日を過ごすのはとっても楽しいから。
だったら、闇医者の一番のお願いを叶えてもらう方が俺も嬉しいよなって。
そう思ったんだけど。
「僕はね、いつか自分で魔法使いになろうと思ってるからいいんだよ」
闇医者はそう言って俺のカップにミルクのおかわりを入れてくれた。
「そっかぁ……闇医者、大きくなったら魔法使いになるんだ」
どうすると魔法使いになれるんだろうって思ったけど。
それよりも。
「俺、大きくなったら何になろうかなぁ……」
将来のこととか考えたことなかったなって思って。
「小宮のオヤジは何になるの?」って聞いたら、
「俺はもうジイさんになるだけだからなあ」
って笑ってて。
他の患者モドキに聞いたら、「俺はもう爺さんだからなあ」ってもっと大笑いした。
「じゃあ、将来が決まってないの、俺だけなの?」
それじゃダメだよなって思ったから、診療所が閉まるまでの時間はそれについて考えることにした。


なのに。


「……ル君……マモル君、もう夕方だよ」
闇医者の声で我に返って。
「……あれ? 俺、寝てたの?」
診療所はもうすっかり閉まる準備ができていた。
「うー……ごめんね。じゃあ、俺、もう行くね」
公園に戻って中野に「おかえり」を言わなくちゃって思ったけど。
「気なんか遣わなくていいんだよ、マモル君。それに雨降ってきたから、もうちょっとここで待っててね」
闇医者が猫舌用のホットミルクを入れてきてくれた。
「でも、中野におかえりしなきゃ……」
毎日言わないと忘れられそうな気がするんだって話したら、闇医者はくすくすって笑った。
「大丈夫。中野さんなら、もうすぐここに来るからね」
「ホントに? 中野、具合悪いの?」
そうじゃないけどね、って返事があったとき、玄関が閉まる音が聞こえた。
「来たみたいだね」
ベッドのある部屋にまっすぐに入ってきた中野は相変わらず不機嫌そうな顔をしてたけど、闇医者が入れたコーヒーはちゃっかり飲んでいた。
「じゃあ、中野さん。マモル君のこと、お願いしますね」
公園に捨てちゃダメですよ、って言われた中野は面倒くさそうに俺をつまみあげてコートのポケットに入れた。
なんでこんなことになってるのかよく分からなかったんだけど。
「マモル君、また明日ね」
闇医者がウィンクするから。
「うん、おやすみー」
びっくりしたまま俺も手を振り返した。




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