Tomorrow is Another Day
ものすごくオマケ



<めりーくりすます> 前編


もうちょっとでクリスマスイブっていう日の朝、公園で友達に会った。
「マモルちゃん、こんにちは」
話しかけてきたのは前に北川の店で一緒にバイトをしてたシマシマ君。
でも、なんかちょっとだけ丸くなってた。
冬だからかなって思いながら、俺もあいさつをした。
「シマシマ君、あれから見かけなかったけど、どこ行ってたの?」
店の近くでも公園でもぜんぜん会わなかったから心配してたんだよって言ったら、シマシマ君はニッコリ笑って自分の首を指差した。
キラって光ったのはお星様のついた首輪。
「誰にもらったのー?」
かわいいねって言ったら、シマシマ君は得意そうに教えてくれた。
「新しい家族ができたんだ」
そう言って指差した首輪には家族の名前と電話番号が書いてあった。
「そっかぁ。いいなぁ。首輪って家族がいるってことなんだね」
今までずっと窮屈そうだなって思ってたけど、急にすごくいいものに思えてきた。
そういえば、いつもの公園には首輪をつけてる猫なんて一匹もいないもんな。
「それから、名前も変わったんだ」
今までずっと『シマシマ』だったけど、
「新しい家では『マーブル』って呼ばれてるんだよ」
かわいい名前でしょうって言われて。
「うん」
すごく嬉しそうだったから、「よかったね」って言ってみたけど。
でも、どうしても気になったので聞いてしまった。
「……マーブルってなに?」
きっとかわいいものなんだろうって思ったけど。
マーブル君になったシマシマ君の説明からするとそういうわけでもなさそうだった。
「じゃあ、その『だいりせき』っていうのはどんなのかなぁ……」
結局、どんなに聞いても俺にはあんまりわからなくて、マーブル君になったシマシマ君も途中であきらめてしまった。
「でも、とにかく新しい家ができてよかったね」
もう一度お祝いを言ったとき、後ろから「マーブル」って呼ぶ声がして。
「あ、お姉ちゃんが迎えに来たからもう帰るね」
マーブル君になったシマシマ君は優しそうなお姉さんに抱っこされて車の方に戻っていった。
「……ばいばい」
久しぶりに会えて嬉しかったけど。
でも、なんとなく寂しい気がするのはどうしてなんだろう。
「俺も闇医者のところに遊びに行こうかな」
俺のお兄さんだもんねって思って。
それに診療所はいつもにぎやかだから、きっと寂しくならずに済むって思って。
「あ、闇医者ならきっと『だいりせき』の意味もちゃんと教えてくれるかも」
寂しい気持ちが大きくならないうちに診療所まで全速力で走っていった。



思ったとおり、診療所には今日もたくさん人がいて。
「大理石かぁ……さすがにここには本物はないよね」
みんなの説明でキレイな石だってことはわかったけど。
「じゃあ、シマシマ君みたいな模様なんだよね?」
そう聞いても、みんなはシマシマ君を知らないから「たぶんね」っていう返事しかもらえなかった。
「よくわかんないけど、でも、なんとなくわかったからいいや」
とりあえずそう言ったら、患者モドキの一人が「ちょっと待って」って言って近くのお店でケーキを買ってきてくれた。
「ほら、マモルちゃん、これがマーブル模様だよ」
そう言ってまあるいシフォンケーキを切ったら、断面図がシマシマでうずうずになっていた。
「あ、やっぱりシマシマ君と同じだ」
「名前も『マーブルシフォンケーキ』っていうんだよ」
キレイでしょうって言われたけど。
それは「キレイ」っていうよりも。
「おいしそうかも」
ケーキだからね、って闇医者が笑って。
それから、みんなでお茶をした。
「首輪してるのって家族がいるってことなんだね」
初めて知ったなって言ったら、闇医者が、
「家族がいてもつけてない子もいるけどね。でも、つけてる子はたいだい家族がいる子かな」
「そっか。じゃあ、首輪してたら、家族のこととか聞いてもいいんだよね?」
公園に来る友達の中に首輪をしてる子が他にもいたかなって思い浮かべてる途中で、闇医者がちょっと困った顔をした。
「どうしたの?」
「前はいたけど、今は一人っていう子もいるかもしれないからね」
悲しいことだけど、捨てられてしまうことだってあるんだからって言われて、俺もシュンとしてしまった。
「だったら、家族のことなんて聞かれたくないよね」
そうだね、って言いながら闇医者が何度もほっぺをなでてくれたけど、寂しい気持ちがちょっとだけ残ってしまった。
「ほら、マモルちゃん、元気出して」
「うん」
みんなに慰めてもらって、たくさん話して、いっぱいお茶を飲んで、クリスマスツリーのピカピカのスイッチを入れてもらって、それから、やっと。
「ねー、クリスマスって楽しいね」
さみしい気持ちがどこかに消えて、ちょっとだけホッとした。




夕方、中野が診療所に来て、
「ついでだから一緒に帰れば?」
闇医者にそう言われて、俺はコートのポケットに入れられた。
「じゃあ、マモル君、明日はクリスマス会をするからね」
10時に集合だよって言われて「うん」って頷いた。
みんなに「バイバイ」って手を振って、診療所を出て。
そのまま中野のうちに連れていってもらった。
「ねー、クリスマス会ってなにするのかなぁ?」
洗面所でお湯に浸かりながら、中野に「知ってる?」って聞いてみたけど、やっぱりなんにも答えてもらえなくてちょっとガッカリだった。
でも、質問しても怒られなかったから、きっと今日は大丈夫なんだろうって思って、そのまま張り切って話しかけてみた。
「それでねー、朝、公園でシマシマ君に会ったんだ。あ、今はシマシマ君じゃなくてマーブル君になったんだけど」
北川の店で一緒にバイトしてたから、中野も会ったことあるかなって思ったけど。
いつもと一緒で中野はなんの反応もしてくれなかった。
「ね、首輪してるのって家族がいるってことなんだね。俺、ぜんぜん知らなかった」
体を拭きながら、いいなぁ……って言って。
ちょっとだけ寂しくなってしまったとき、中野に新しいバスタオルをかけられた。
怒ってるのかなって思ったけど。
そっとタオルから顔を出した時も中野は黙って新聞を読んでて、別にいつもとおんなじだった。
よかったって思って。
別に聞いてもらえなくてもいいもんねって思いながら、また一人で話してみた。
「明日診療所に行ったら、もう一回闇医者にリボン結んでもらおうっと」
半分くらい乾いた自分の足を見ながら、明日の予定を立てた。
「一緒にお茶入れてねー、それからね」
シマシマくんがしてた首輪に家族の名前が書いてあったみたいに俺のリボンにも『なかの』って書いてみようかなって思いながら「おやすみ」を言った。
「あー、でも、電話番号わかんないや」
書くのは名前だけでもいいのか分からなかったけど。
知らないものは仕方ないもんな。
「ね、中野ー」
もしかしたら教えてもらえるかもって思って、「中野んちの電話番号が知りたいなぁ」って言ってみたけど、やっぱり無視されて。
「がっかりー……」
頑張ってもダメそうだったから、早めにあきらめた。




次の日の朝。
いつもとおなじように公園でポイッて捨てられて。
「いってらっしゃいー」
中野にバイバイしてから、ひなたぼっこをするために日の当たるところを探してたら、知らない人に「おいでおいで」をされて。
「なにー?」
走っていったら、白っぽい袋の中に入れられた。
「これ、なに?」
白い袋だと思っていたけど、よく見ると細かいあみあみになっていて、外もちゃんと見ることができた。
「なんでこんなところに入れられたのー?」
いってる間にジーってチャックを閉められて。
袋ごと持ち上げられて、別の袋の中に入れられた。
「どこいくの? 俺、もうちょっとしたらクリスマス会にいかなくちゃいけないから、すぐに戻ってこられないところはダメなんだー」
そう言ってみたけど。
そいつは何も言わずに道路の方に歩き出した。
「ねーってば。俺の話聞いてる?」
聞こえてないかもしれないって思って、できるだけ大きな声でみゅーみゅーにゃーにゃー言ってみたけど。
「……ぜんぜんダメかも」
クリスマス会にいけなくなったらどうしようって思って、急に悲しくなったとき。
「あ、中野の匂いだ!」
袋の中ではあんまり身動きできなくてちゃんと振り向けなかったんだけど。
次の瞬間、俺は袋ごとそいつから引き離されて。
顔を上げたら、中野に抱えられていた。
「やっぱり中野だー。どうしたの? 忘れもの?」
聞いてる間にさっきの男は走っていなくなってしまったけど。
知らない人だからいいやって思っていたら、中野に怒られた。
「野良のくせに簡単に捕まるんじゃねえよ」
つかまったんじゃなくて「おいで」って言われたんだよって何度も説明したけど。
中野はもっと呆れただけだった。
「なにがダメだったのかなぁ」
よくわからなくてちょっと悩んでしまったけど。
俺はそのまま闇医者のところに連れて行かれて。
「おはよー」
クリスマス会の集合にはちゃんと間に合ったから、もういいやって思った。




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