Tomorrow is Another Day
ものすごくオマケ



<じゅうでんをおぼえた。> 


いつも来る患者モドキが最近診療所に来なくなったので、闇医者に聞いてみた。
「もう一緒に遊ぶの飽きちゃったのかなぁ?」
だったら寂しいなって言ったら、闇医者は「そうじゃないよ」って首を振った。
「今、ちょっと体の調子が悪くて大きな病院にいるんだよ」
「そうなんだー。じゃあ、お見舞いに行くー」
そう言ってみたけど。
よく考えたらお見舞いに持って行くものがなかった。
「お見舞いって、なにがいいのかなぁ?」
一応、患者モドキたちみんなに相談してみたけど。
「食べ物だとお医者さんに駄目って言われてるものもあるかもしれないし、やっぱり花が無難じゃないかな?」
「そうだねえ。残らないものの方がいいだろうしねえ」
「ふうん」
でも、花を買うお金はないんだよなってひとりごとを言ったら、みんなに、
「中野さんに『おこづかいがほしいな』って言ったら、10枚くらいくれるんじゃないの?」
「ヨシ君、金持ちだからなあ」
って笑われた。
でも。
「そうじゃなくってねー、俺があげられるものがいいんだけどなぁ」
だって、俺がお見舞いにいくんだから、自分で渡せるものがいいなって思って。
「ねー、闇医者。入院したことある?」
「長い入院はないけど……」
「なにをもらったら嬉しいかなぁ。お金はかからないのが嬉しいんだけど」
そう聞いたら、みんなでもう一度考えてくれた。
「退屈だろうから、診療所に置いてある本とかゲームを貸してあげるっていうのはどう?」
「うーん、でも却って疲れるかもしれないよなぁ」
「じゃあ、元気になりそうなものか……それってなんだろうな?」
患者モドキがそう言ったとき、急にひらめいた。
「いいこと思いついたかも!」
これってどうかなって思ったのは、昨日小宮のオヤジがやっていた、あれ。
「昨日の『じーっ』っていうの」
「ジー?」
「四角いところにガシャンってはめて、それから電池を満たんにするやつ」
マークがいっぱいになるんだよね、って聞いたら、やっと「ああ、四角いのって携帯のことか」って分かってもらえた。
「充電なあ。確かに一杯にしたらたくさん遊べるかもしれないけどなあ」
でも、あんまりメールとかゲームばっかりしてるとお医者さんに怒られるかもしれないぞって言われたんだけど。
「そうじゃなくってー、えっとねー……こういうの」
なんて説明していいのかわからなかったから、闇医者に「手をパーにして上に向けて」って頼んでみた。
「手? 手のひらを上にすればいいのかな?」
「うん。両方ともー」
闇医者が俺の目の前に両手を出してくれたから、闇医者の右手に俺の左手を乗せて、左手に右手を乗せて。
「こんな感じ」って説明してみた。
「ああ、マモルちゃんが先生に充電するのかあ……」
「うん。俺ね、今日はいっぱい楽しいことあったから、『じゅうでん』もいっぱいできると思うんだー」
電池のマークが5つくらいできるかもって言ったら「それはすごいな」って言われた。
説明する間、闇医者はずっとニコニコしながら俺の手を見てたけど、たまにちょっとだけ握ってくれたりもした。
「ね、どう? 効いてるかなぁ?」
エネルギーがいっぱいになったら教えてねって言ったら、
「もうすぐかな」
って笑いながら頷いてくれた。
「いいなぁ、先生。終わったら僕にもやってよ、マモルちゃん」
患者モドキがそう言うから、「いいよ」って答えて。
「じゃあ、闇医者のが終わったらね」
そうやって、午後はみんなに『じゅうでん』して、代わりにおやつをたくさんもらった。
「そうだ。帰ったら中野にもやってあげようっと」
うきうきしながら、「どう思う?」って聞いてみたけど。
「ヨシ君かあ。うーん……手は出してくれないかもしれないなあ」
俺もちょっとそんな気はしてたんだけど。
「やっぱりダメかぁ……」
ガッカリしてしまったら、みんなが慰めてくれた。
「手を出してもらえなかったら、寝ている間に肩とかにこっそり手を当ててやってみたらいいよ」
そう教えてもらって。
「うん。じゃあ、そうしようっと」
楽しみだから早く夜にならないかなって言ったら、笑われた。
「ゆっくり休んでたくさんお見舞いの充電をしてあげられるといいね」
「うんっ」
今日も楽しかったから、きっと大丈夫って思いながら。
明日の昼休み、みんなで闇医者の車に乗ってお見舞いにいく約束をした。
「早く帰って早く寝ようっと。あ、でも、中野にも『じゅうでん』するんだった」
ちゃんとさせてもらえるかなって心配になったけど。
「中野さんは今日じゃなくてもいいんだから」
だから、できそうな時にゆっくりすればいいよって言われて。
でも、その瞬間にひらめいた。
「またいいこと思いついたかも!」
中野が迎えに来たら、ポケットに入れてもらって。
そしたら、きっと俺が落ちないように背中を押さえてくれるから。
「その時にこっそり『じゅうでん』してみるのはどうかなぁ?」
そう言ったら、闇医者は「いい考えだね」って賛成してくれて。
それから、楽しそうにどこかに電話をかけた。
「誰と話してるのー?」
聞いてみたけど、「ないしょ」って言われて教えてもらえなかった。
でも、笑いながら俺の首にマフラーを巻いてくれた。
「じゃあね、マモル君。あと少しで中野さんが迎えにくるから、気をつけて帰るんだよ」
「うん。ありがとー」
また明日ね、ってみんなにバイバイしたとき、タバコをくわえた中野が入ってきて、いつもと同じように黙って俺をコートのポケットに入れて。
やっぱり同じように背中を押さえてくれた。
「わー、思ったとおりかも」
よかったなって思いながら、面倒くさそうに俺の背中に当てられてる手の方向にクルンと顔を向けた。
それから、ペタって手のひらを当ててみた。
「……あ、でも、中野のほうがあったかいかも」
それでも『じゅうでん』できるのかはわからなかったけど。
「もしかしたら、これって俺が中野から『じゅうでん』してもらってるのかな?」
そういえば、楽しい気持ちが増えてるような気がして。
ポケットの中もいつもの3倍くらい気持ちよく思えた。
「やっぱり、そうなんだ。じゃあ、明日、患者モドキには『中野にもらった分』もちょっとだけ『じゅうんでん』してあげようっと」
ホントは中野からもらったのは全部自分のにしておきたいけど。
でも、それはちょっと意地悪だなって思ったから、やっぱりわけてあげようって思った。
「ねー、中野、あのね、今日ね」
中野の手にペタンと手のひらを当てたまま。
ポケットの中から顔を見上げて、今日あったことを話して。
「誰かと一緒に家に帰るのって楽しいよね?」
それに、中野の手は手袋なんてしなくても家に着くまでずっとあったかいままで。
だから、明日は今日よりいっぱい『じゅうでん』できるかもしれないなって思って、また嬉しくなった。




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